脅迫には屈するしかない
「むむむむむ」
「ふっふっふっ」
「ジルベール様、はぁ」
唸るクレンディル先生、不敵に笑う僕、そして呆れるシンシアの図ができあがった。
「さあ先生、早く次のカードを出すがいい」
「むう、ジルベール坊ちゃま、さては火の4を止めているのは坊ちゃまですかな?」
「さあ、なんの事でしょうか?」
初めて触った軍盤でボコボコのボコにされた僕だが、それならばとトランプもどきを準備して対抗である。
我が家では4人でやると人気が出る7並べだ。
僕は火の3以降の数字がないので、安心して火を止めておくことができるのである。
「この爺めを陥れるとは、やりますな」
「初めてやる遊技で負ける気持ちを味わうがいいっ」
「ほっほっほっ、これはしてやられましたな」
どのゲームをやらせても妙に強いシンシアは順調にカードを減らしていった。
僕は星のカードを使い、自分にとって不利なカードを片付けたのであとは人の妨害をしつつ手持ちのカードを減らせばいい。
「ジルベール様。水の4も止められておりますね?」
「ふふふ、まあクレンディル先生の苦戦ぶりから分かるよね」
シンシアが目を怪しく光らせつつ、頭の上の耳をピクピクと動かした。
「本日のおやつはミルオックスの牛乳をふんだんに使ったプリンだそうです」
「へえ?」
シンシアの言葉に僕の喉がゴクリとなった。ただ飲むだけであそこまで美味しいミルオックスの牛乳。そんな物がお菓子にでもなったら最強ではないだろうか?
いや、最強だろう。
「シンシアは味見したのかい?」
「いえ。ただロドリゲスが久しぶりに満足な味がだせたと喜んでおりました」
「それは楽しみだ」
「ええ、私共使用人の分も含めて多めに作っておいでだそうです」
そこでシンシアが指でトントンと水の4のある場所を叩いて、僕に交渉をもちかけた。
「二つ、そこまででしたら融通いたしましょう」
「!」
「あまり食べられますと夕飯に差し支えますから、二つです」
「それは、そこまでの価値があるとでも?」
確かに美味しいお菓子は魅力的だ。ただ滅多に勝てないシンシアへの勝機を、ここで逃したらいつチャンスが来るか分からない。
「ちなみにですが」
「うん?」
「水の4、出していただけないのであれば、プリンのサイズが小さくなるかもしれませんね?」
クスリ、とカードで口元を隠したシンシアから聞こえてくる。
「ひ、卑怯なっ! 交渉ではなく脅迫ではないかっ!」
「どう取っていただいても結構です。ですが厨房からプリンを運ぶのは私です。分かっていますね?」
「プリンを人質に取るとはっ」
「お主ら、いつもそんな感じで遊んでおるのかの?」
呆れた顔をしたクレンディル先生がパスをした。
「先生、ロドリゲスのプリンは傑作なんですよ!?」
「ジルベール様、こっそりカードを袖に入れないように」
「目ざといっ」
「これはペナルティが必要になる案件ですかね」
「水の4出しまーすっ!」
シンシア1抜け、僕2抜け、先生3抜けとなりました。
プリンは大き目なのだけど、1つに。く、初めから交渉を成立させておけばよかったっ!




