家族との激闘
火のカードを乾かしている間、他のカードに押すハンコも作成する。
それぞれのカードのイメージは4種類だ。
火のカードは燃え盛る炎をイメージした赤のイラスト。
水のカードは雫の青のイラストだ。
風のカードは優しく吹くそよ風を表現した緑のイラスト。
雷のカードは稲光をイメージ、黄色いイラストである。
雷は地にするつもりだったんだけど、茶色のインクがなかった。黄色を地にするよりはとそっちにした。
それと白い星のカードと黒い星のカード。
赤がハート、黄色がダイヤ、青がスペード、緑がクローバー。そして白と黒の星がそれぞれカラージョーカーと白黒ジョーカーの役割を持つ。
そう、トランプだ。
ハンコで作る関係でジャック、クイーン、キングにはしない。ジョーカーも同様だ。
同じように作りたかったけど、難しい造形を求められても僕の技術ではハンコにできないという判断だ。
その説明をシンシアにすると、シンシアは首を傾げる。
「カードでおもちゃという発想も驚きですが、その数字に意味があるので?」
「カードゲームってないの?」
「カードは武器か消耗魔道具ですよ?」
「ああ、なるほど」
シーフから派生するローグの武器と錬金術師が作る魔法カードくらいしかないのだろうか。
貴族や一部の認められた兵士や冒険者しかJOBを得られないのであれば、十分に考えられる話だ。
「とにかく、作る。一緒にあそぼ?」
「ええ、もちろんです」
シンシアは僕のお世話係だ。僕の遊ぼう攻撃を回避できるものではない。
「あと数字も作るの」
「数字も判で押すのですか。左右逆になりますけど大丈夫ですか?」
「そういえば」
この後、カードがそれぞれ乾くまでの待ち時間は、ハンコづくりに時間を持ってかれた。
シンシアが何故か本気になり、数字の大きさやバランスの調整に色々注文を付けてきたのだ。
上下が反転しても読めるようにカードの左上と右下に同じ数字。もちろんそれぞれの属性の印と同じ色でだ。
ハンコを押す作業はシンシアに任せる。
そして再び発動されるコンセントレーション。
トランプもどきを作成し、乾ききるのを待って完成するのは翌日のことであった。
トランプもどきを作成し、ハイ終了とはならなかった。
「透明な保護液を上から塗りましょう。遊んでるとインクがかすれるかもしれませんから。ジルベール様が初めておつくりになられたものです。長く保管しなければなりません」
とか。
「背面にオルト家の紋章を押しましょう。無地は寂しいですし美しくありません」
とか。
「やはり保存用にもう1セット作るべきですね」
「奥様と旦那様にもプレゼントなさいませんか?」
「ケースもジルベール様がおつくりになられませんか? 大丈夫です、パペットの木片なので魔力で加工できますから」
…………。完成せんわっ! いつ遊べるんじゃいっ!?
「ジルベール様」
「はぁい」
「頑張りましたね。最後はお片付けです」
「わかりましたぁ」
4歳児の子供ボディの魔力と集中力はすぐ限界を迎えるのだ。毎日少しずつ作成していき、最初の1セットこそ1日で作り上げたが、シンシアに言われるがままに追加で4セットも作らされた。
すべてが完成する頃には1週間ほど経っていた。
まあ半分以上は乾くのを待つ時間だけど。
満を持して遊ぼうっ! そう思ったら今度はお父さんとお母さんに最初に見せるべきだと主張をしはじめるシンシア。
「お母さん、お父さん、あそぼ」
「ジルか、そうだな。何して遊ぶ?」
「まあジルちゃん、いらっしゃいな。今日も可愛いわ」
「朝もやったよ?」
それでもハグされにいく。僕はお母さんが大好きだ。
魔法の力で作った物なのでレドリックやマオリーには見せられませんと言ったシンシアは、マオリーがいないタイミング。さらにお父さんも一緒にいる時を狙ってここだという瞬間を求めていた。
意外と用意周到である。
「これ!」
僕は白い星のカードだけ残して、箱からカードを取り出した。
「それはなにかしら? うちの家紋が入っているわね」
「ああ、例のおもちゃか」
お父さんは僕を叱ったので知っている。
「シンシア、きって」
「はい」
シンシアにはカードをシャッフルしてもらうやり方だけ教えた。
遊び方はお父さん達に最初に教えるべきだといって聞こうとしなかったからだ。
それとシャッフルするのにも難色をしめしていた。
このカードは全部順番通りに並んでいるのが美しいとかなんとか。
このままじゃ使えないから絶対覚えてと強く言ったのでやってくれたけど。見えないくらい早い速度のシャッフルだった。
「裏が見えない様に4つに配って。あ、一枚ずつ分ける感じね」
僕がやってもいいけど、手から飛び出ちゃうことが多いのだ。僕の子供ボディはシャッフルに向いてないのである。
「それぞれ1個ずつ山を選んで」
「あの、私も混ざるんですか? ここはご家族だけで……」
「シンシアも一緒に作ったからいいの!」
「ですが、今日は、その」
ちらりとシンシアがお父さんを見る。
「ジルの考えたゲーム、楽しみね」
「ああ。シンシアも混ざりなさい。ほら、ソファにかけて」
お父さんが頷いてくれたので、シンシアも諦めてソファにかける。
なんか複雑そうな表情をしているけど?
「手持ちのカードで、同じ数字の物があったらそれを外にだすの。こんな感じで」
僕が手元に配られたカードから火の2と水の2を落とす。
「こうか」
「これでいいのかしら?」
「あ、人にカードを見られないようにしてね! カードの内容も言っちゃダメだからね!」
「ふむ」
「これが遊技になるのかしら?」
4人の手持ちのカードが徐々に減っていく。
「僕がまずお母さんからカードを1枚もらって、手元にいれます。同じ数字が手元にあったら、そのカードを捨てるの。数字が揃わなかったらそのカードはずっと手に持っててね」
「ああ」
「分かったわ」
「分かりました」
僕はそうやって手元に揃った8のカードを2枚捨てる。
「僕がもらったら、今度はお母さんがお父さんからカードを貰います」
「こうね、揃ったわ」
「だと、私はシンシアから貰えばいいのかな?」
「うん!」
理解が早い。まあそんなに難しくないから大人ならすぐに分かるよね。
「では私はジルベール様から」
「そう。どうぞ」
「いただきますね」
シンシアが僕からカードを1枚とり、揃わなかったようで手元に入れる。
「これを順番に繰り返していって、最初にカードが全部無くなった人の勝ちで、最後まで黒い星のカードを持っていた人の負けです」
「そう」
「わかりました」
「! わ、わかった」
あ、これジョーカーはお父さんだ。
お母さんもお父さんの反応を見て目を細める。
シンシアはどこか余裕の表情を見せた。
「みんなルールは分かったみたいだね」
家族+シンシアの血で血を洗う戦いが、いま火蓋を切ったのであった。




