うらぎりものー!
冷たい歯車も持っていっていいというので貰う。
空き瓶に泥の塊を入れてもらってゲットだ。紐の束も貰う。
それらを持って自分の部屋に戻る。
レドリックとロドリゲスが魔導書の紙片が入った箱を二箱ずつ運んできた。しばらく紙に困る事はなさそうだ。
「シンシア、魔法を使うね」
「何をされるんですか?」
「絵の具溶かすのに水を入れるの。それと魔術書の紙片をカード化させる」
「水は私が持って参ります。カード化は……できるのですか?」
「わかんない!」
やったことないし、錬金術師じゃないし!
「じゃあ絵具の筆を使っていいコップも持ってきて」
「畏まりました」
ドキドキしながら魔導書の紙片を1枚手に取る。
「完成品のイメージを想像しながら魔力を込める。紙をカードにするには」
魔導書の紙片。魔力の定着がしっかり行えるので、この魔導書の紙片を使って作った本は長期保管に向いている。
また束ねて糸で纏めて、表紙となる素材を用意すれば『空の魔導書』、つまり職業書の素材に作り替えることも可能だ。
表紙の素材はトレントの皮だ。残念ながらダンジョンには出ないらしいので空の魔導書は作れない。
「でも紙ってことは羊皮紙か植物紙な訳で。触った感じ植物紙な訳で」
錬金術で魔法カードに作り替えるには、錬金机で作業を行い属性の合わせた魔法のインクで自分が修得している魔法をカードに封印するわけだ。
僕の机は錬金机ではないし、使う絵具も魔法のインクではない。ただのインクだ。
「この退屈な日々におさらばするためにっ!」
家の中にずっといるので、基本がお勉強と家の中で遊べるかくれんぼやお庭での追いかけっことボール遊びくらいしかやる事がない僕である。
だがいま僕の前にはカードの素材がある!
つまりカードゲームが作れるわけだ!
「ひっひっひっひっ」
分かっている。いつストーリーが始まるかわからないのに、おもちゃなんか作っている場合じゃないって。
しかしこれも訓練だ。
「いっぱいあるし、早速試してみようかな」
手に持った魔導書の紙片に植物属性の魔法をかけてみる。
日本の家にあった、紙のカードゲームの質感を想像、想像、想像。
「変われ」
僕の魔力を受けた魔導書の紙片の質感が変わっていく。
最初の状態より硬く、更に硬く。そして形を、大きさも。
僕の手に持った魔術師の紙片は、最初のA4サイズの大きさからかなり小さな大きさに変化した。
カード化には成功したようだ。
「どれどれ」
触感もカードだ。折り曲げてみると、それなりに抵抗があるので簡単に折り目は付かない。
「ちょっと大きいかな……や、僕の手が小さいんだろうな」
カード化できたタイミングでシンシアが戻ってきた。
「シンシア、カード化できた!」
「あら、おめでとうございます。ジルベール様」
「うん!」
「それでは、行きましょうか」
「行くって?」
「旦那様のところです。一人で魔法を使ってはいけません。お約束でしたね」
「あ!」
僕はイスから飛び降りて、ドアに視線を向ける。しかし僕とドアの前には可愛らしい犬耳のメイドさんが立っている。
「逃げようとしてません?」
「ししし、してないしっ!」
何を言っているのかな!?
動揺した僕をシンシアが優しく脇を持ち上げて抱き上げる。僕の作ったカードも手に持って。
「さあ、行きましょうか」
「ひいいっ」
荷物の整理をまだやっていたお父さんの所に連行される。レドリック達に聞かれる訳にはいかないとお父さんの執務室へ移動し、めったくそ怒られた。
超怖かった。
思わず泣いてしまうほどだ。そして泣きべそをかいた僕に容赦なく飛んでくるお父さんのお叱りの言葉。
お父さん、説教慣れ絶対しているっ!
シンシアはそっと執務室から出ていったのであった。




