ドロップ品は投棄ゴミと同じ扱い
「毛だらけ苔だらけ」
「よくもまあこれだけ集めたわねぇ」
「とっとと加工しないとダメになっちまうな」
「こっちは大量のミルクね。あ、瓶だけのものもあるわ」
「探索中に飲んだのであろう。それくらいは許可を出してあるから問題ないさ」
お母さんの許可は当然のように下りず、1階にある客間の一つから家具を全部運び出してそこに荷物を搬入。
積み上がった木箱を開けて中身を確認する。
「チェルシーは来てたかしら? あの子なら赤傘キノコをポーションに、魔苔をマナポーションにできるでしょう?」
「ああ。瓶もあるから器も提供できるな。作成場所は役場の一か所を工房として使わせるか」
「ならミルクはチーズに作り替えるか。ミルクと比べると肉が少ないな」
「連中が食べたのだろう。ミルオックスのドロップはほとんど肉なんだがな」
「これだけでも我が家で消費するには多すぎよ。領民にも振る舞ってあげましょう」
「そうだな。適当に言い訳をして配るとするか」
お父さんはそう言いながらミルオックスのレアドロップである『新鮮牛乳』を僕に差し出してくれた。
「いいの!?」
「ああ。美味いぞ。飲んでみるといい」
僕が受け取ろうと手を伸ばすと、シンシアがそれを横から掠め取り蓋を開ける。
「どうぞ」
「ありがと」
シンシアの手には小さなナイフとそのナイフの先に紙の蓋。
うん、あれ専用のピックがないと開けらんないよね。
瓶が大きいので両手で溢さないように瓶から飲む。
日本で飲んだ牛乳よりも濃厚な味わいだ。飲み込むときの滑らかさも悪い。それでも味は美味しく、久しぶりに飲む牛乳に感動を覚える。
「美味しい!」
「ジルちゃん、こぼれてますよ?」
お母さんが僕の口元をハンカチで拭いてくれた。
「ジルには瓶が大きすぎるな。コップに開けて飲むように」
「はぁい」
「アーカム様、そもそも瓶から直接飲む貴族なんていませんよ」
「それもそうか」
そう苦笑いするお父さん。
そもそも瓶一本は、僕には多すぎる。コップ半分でいいくらいだ。
「ごちそうさま」
今後はお風呂の後の一杯はこれに決まりだな。
「コボルドの毛って何に使うの?」
ゲーム時代では店に売るだけの品だ。それもほとんど値が付かない代物。
「まあ、正直な話あんまり利用先はないな」
「筆の先とかペットのブラシに使われるくらいかしら?」
「でも拾ってくるんだね」
「スライムでもいない限り、ドロップ品は拾わないといけないんだ。足元に転がってると戦闘の邪魔になるし、ドロップの種類によっては魔物が利用したりもする。小さな魔石や魔力の籠った素材も放置するとその魔石を他の魔物が食べてそいつが強化されたりな。ダンジョン内には物を残さないのが常識だ。自分の命に直結するような事態が起きれば別だが」
ああ、一定時間でダンジョンに吸収されるとかはないんですね?
「こちらはウルフの爪と牙ですね」
「そっちも利用しにくいな」
「こっちは木片だな。ん? この木箱、この木片で作ってあるのか」
「ほお」
なんというリサイクル精神。
「こっちは、泥の塊ですね。泥パペットのドロップでしょうか」
「農家に渡して肥料にするか」
「錬金術師に加工をさせれば良い肥料になるんですけど」
「錬金術師連中はしばらくポーションとマナポーション作成に缶詰だろうさ」
泥パペットのドロップはそのまんま泥の塊だ。街中でのクエストで提出する粘着剤や肥料といった物に作り替えることができたはず。JOB稼ぐのに作ったなぁ。
「こちらは、紙の束。ライドブッカーのドロップでしょうか」
「空の魔導書はあるか?」
「あります。1冊だけですが」
「そうか!」
「おおっ!」
「それはすごいっ!」
空の魔導書は職業の書を含む魔導書系アイテム作成の必須アイテムだ。
「魔導書の紙片、これだけ出して一冊ですか」
「自動人形のドロップはこの紐の束ですね」
「あ! 冷たい歯車! 2つも!」
僕は覗き込んでいた紙束の奥にある歯車を見つけた。
「また微妙な物がでましたね」
「ジル坊よく知ってたなぁ」
「本に書いてあったやつだし」
自動人形のドロップは紐の束。これはとても頑丈で切れにくい長い紐だ。
女型の自動人形はレアドロップに冷たい歯車、男型の自動人形は関節玉を落とす。
自動人形をテイミングできるアイテムを作れるレアドロップだ。欲しかったけどゲーム時代は全然ドロップしなくって泣いたアイテムでもある。
これだけではなく他のアイテムも必要だからテイムアイテムにすぐ作り変えられる訳じゃないけど、欲しいなぁ。
「この重い箱は鉄のインゴットが。さすがに数が少ないな」
「石や鉄のゴーレムを相手にすると武器が参っちまうからな」
「ゴーレム用の武器を作らせるのが一番か」
ゲームでは武器が壊れることはなかったが、こちらではそうはいかない。
金属の塊である武器は高級品だ。アイアンゴーレムのように硬い敵に剣で挑みたがる冒険者はあんまりいないそうだ。
「それと、こっちは魔石だな。でっけーのから小さいのまで。集めて魔核にできりゃいいんだが」
「ああ、錬金術師の数が足りないな」
お父さんが難しい表情を作っていた。
「しばらく表に出せぬ品だ。牛乳や肉は消費できるが、他はどうするか」
「いくつかは事情を知っているクラン連中に戻して、だな。ポーションの素材になる品はそれでいいんだが」
「売れるものは保管してそれ以外は処分しかないわね」
お母さんがそう言ってため息をつく。
「魔導書の紙片はいただけませんでしょうか。ジルベール様の文字の練習に使えます」
「え?」
「シンシア、素晴らしい提案だわ。アーカム、あなたもメモ書きはこっちを使いなさい」
「ああ、そうしよう」
「はえ? 魔物のドロップで勉強するの? 売らないの?」
「魔導書の紙片は、正直値がつかん」
「ライドブッカーのレアドロップである『空の魔導書』を狙ってライドブッカーの出るダンジョンで大量に生産されるから」
「500枚セットで1000キャッシュでしたっけ?」
「ええ!? もったいない!」
魔導書の紙片はカードアイテムの作成に使うのに!
「錬金術師が魔法カードの作成に使えはするが」
「魔法カードって不便なのよね。それでいて値段はそれなりにするから」
「そうなの?」
魔法カードは魔法をあらかじめカードに封印して必要な時に使う消耗品だ。
使用者の魔力値でダメージを計算するから、序盤では手の空きやすい神官系のJOBに使わせてダメージソースにすることが多かった。
「坊ちゃま、錬金術師が作るからです。ポーションや魔核を作る彼らの時間を使う以上どうしても高額になるんですよ」
「買うのが貴族くらいってのもあるわよ? 冒険者なら魔法カードなんて使わないわ」
「奥様の言う通りです。魔法カードで攻撃しないといけないような場所にわざわざいく冒険者はいません」
シンシアが補足してくれる。
「じゃあ魔導書の紙片、好きに使っていい?」
「ああ。存分に字の練習をしなさい」
「はぁい」
そっちが目的じゃないんですけどね!




