怒る確信があるんだよ?
明るい時間は勉強と遊び。夜は行ける時だけチュートリアルダンジョンに行ってスリムスポア退治や属性結晶の吸収。そんな日課が僕にできて早1カ月。
今日もシンシアが用意してくれた魔法の本を読んでいると声がかかる。
「ジルベール様、旦那様がお戻りになられましたよ」
「はぁい」
お父さんが明るいうちに帰ってきた。珍しい。
シンシアは斥候系のJOBを持っているから、誰かが家に近づくだけで反応するのだ。
明るいうちにお父さんが帰ってきたら出迎える。これは僕の大事な仕事だ。
シンシアを連れて玄関ホールまで迎えにいくと、ちょうどお父さんが帰ってきたところだった。
レドリックがお父さんの指示で玄関に木箱を積み上げていく。ロドリゲスもいた。
「ただいま、ジル」
「おかえりなさい、それなあに?」
レドリックとロドリゲスが玄関外から運んでいる木箱。僕が入れそうなくらい大きい。
「お前の見つけたダンジョンから出たアイテムだ」
「え!? ダンジョンもう見つけたの!?」
「ああ」
「僕もいきたいなぁ」
お父さんが手配したクランがダンジョンに入ったとのこと。
僕が関係していない人たちがダンジョンに入ってきちんと戦って結果を残せている様子。これはストーリーとは関係なかったのだろうか?
いや、でもまだ油断はできない。
「そうか、お前も男の子だな」
外套をメイドのファラに渡しつつ木箱に手を置く。
「ジルのおかげで手配できた冒険者クランにコボルドの殲滅とダンジョンの捜索を任せててな。先日はダンジョンを発見したそうだ。未公開のダンジョンでな。ドロップをこちらに持ってくるように指示をだしておいたのだが」
そこでお父さんが苦い表情になる。
「?」
「思いのほか新しいダンジョンにクランの連中が熱を上げて、何日も籠っていたらしい。その結果がこれだ」
「な、なるほど」
木箱から青い毛が飛び出ているが、これはコボルドの毛だろう。コボルドの代表的なドロップアイテムだ。
「何が有用で何が不要か、そんな調査を先にするべきなのに連中ときたら」
「あははは」
ドロップを提出するのを忘れてダンジョンの中を歩き回ったのだろう。結果として大量のドロップアイテムを獲得する結果になり、それらがこっちに運ばれてきたといったところか。
「でも全部こっちに持ってきちゃって大丈夫なの?」
「そういう契約だからな。それだけ職業の書は無茶ができる代物なのだ。量が多いし場所も取る。玄関じゃなんだから、どこか……ダンスホールにでも運ぶか」
ええ?
「お母さん、怒らない?」
探知の魔法を使うようになってから知ったのだが、僕が寝静まった時間にお父さんとお母さんがダンスホールで踊っているのを知っている僕だ。もちろんその後の展開も読めているので探知を即座に切るようにはしているが。
「だが他に広い部屋が、倉庫は玄関から遠いしな」
「アーカム様、ミレニア様に確認を取るべきです」
「オレは一緒に怒られたくないぜ?」
そんな事を言いだすお父さんにレドリックとロドリゲスから注意が飛ぶ。
「……そうだな。確認するべきだな」
「ここで待ってるぜ」
「早めにお願いしますね」
レドリックとロドリゲスは、まだ荷馬車にあるからと言って玄関の外に出る。
「……ジル、一緒に」
「シンシア、何が入ってるんだろうね!」
「ええ、ジルベール様と読んだ本に載っているもの以外のもあるといいですね」
「そしたら新発見だ!」
「楽しみですね。旦那様が奥様の御許可を取り次第、開けましょうね」
「うん!」
お父さん、頑張って!




