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空を飛ぶ!

「本も読んだ。訓練もした。ご飯も食べたしお風呂も入った」


 そう言って僕は自分の部屋に広げられた大き目の布に座る。

 千早にお願いして色々と準備してもらったものが丁寧に並べられている。そう、僕はいま錬金術師としての第一歩を踏み出そうとしているのだ。

 うう、こんなことなら錬金術師のJOBを育てておけばよかった。錬金術師の書は持ってるけど器用度優先に育ててるからまだシーフなのだ。

 昨日、一昨日と錬金術に関連する本をどんどんと読み進めている僕である。とはいえ重要そうな部分を紙に写しながらだからそんなにたくさん読めてはいないけど。とにかくこれだけ読んだら実践したくなるじゃあないですか。

 というわけで、簡単な物を作ろうと思って色々と準備をしてもらったわけでございます。


「準備万端ですね」

「随分色々用意したわね」

「ジルベール様、今日はどんなおもちゃをお作りになられるのですか?」


 この場にいるのは千早、千草、シンシアの三人だ。

 千早と千草はいつも通り、シンシアは僕がまた何か変なものをこさえるのではないかとのことで監視役として登場だ。


「や、そんな壮大なことはしないのだけれども」

「ただのおもちゃと言っていたカードが国家事業になってますし、先日のアスレチックでしたっけ? あれも……」

「あー、聞こえないー!」


 知らんぷりである。というか大事にしたのはお父さん達だ。大人の都合だい!

 とはいえ子供ボディな僕が錬金術を試したいと言っても許可など下りるわけがない。ここは必殺『おもちゃ作りたいの! 作るものは秘密なの!』とお子様感満載のわがままアタックをお母さんにしたのである。

 こうかはばつぐんだ!


「それで、本当は何をなさるので?」

「え? ただの実験ですけど?」


 本当はとか聞いてくるあたり、シンシアは大分慣れている。僕は千早に用意してもらった泥パペットのドロップ品、泥の塊を大きなトレイの上に置く。


「怪しいですね」

「怪しいわ」

「千早と千草も馴染んできたわね。いい傾向よ」


 悪い傾向だと思います。


「ジルベール様、何をなさるにしても必ず実施する前に口に出しながらにしてくださいね」

「はぁい。まず泥の塊を半分にします」


 そう言って泥の塊を半分別の器に移す。


「そして泥の塊から水分を魔法で飛ばしながら、底が広くて浅めのコップの形にします」

「まあそれくらいなら問題ないですね」

「ハンコの時と同じ工程だからね」


 コネコネしつつも水分を飛ばしながら形を整える。泥の塊はそのまんま泥だから、粘土のようにはいかない。形を整えやすくするため水分を飛ばしつつ、地属性の魔力を意識しながら形を変える。


「できました。ひっくり返します」


 さすがにひっくり返すだけの動きに反応する人はいない。


「そしてひっくり返したコップの下の部分に錬成陣をこの串で書き込み」

「はいストップー」

「早いよ!?」

「若様、いきなり錬成陣って言われてそのまま進めると思いましたか?」

「考えなくても分かるわ」

「えー!」


 いきなりお預けをくらいました。


「ジルベール様、何を作ろうとされてるので?」

「風属性のインクを作りたいから風属性の液体を調合できる簡易的な錬金釜をば」

「さあ、アーカム様のところに行きましょうか」

「泥が乾いちゃう!」

「いっぱいあるから大丈夫ですよ」

「いやいやいや、ダンジョンドロップだから! 勿体ないから!」

「余らせているレベルですので問題ございません」

「無駄にしていい理由にはならないから!」

「それはそうですが……」


 ふ、勝った。


「はあ、ビッシュ様にも報告かしらね」

「さあお父さんのところに行こう!」


 おじさんしつこいから!






「はっはっはっはっ、悪だくみなんかするからだ」

「笑わないでよ……」


 興味があるからと僕の部屋までお父さんが一度きたが、今までとは違うことをするならばと道具を全部一纏めにして屋敷のお庭に連れてこられた。

 おじさん? おじさんは王子様が滞在していたお屋敷に住んでるからこっちにはいないのだよ。焦り過ぎた。


「それで、そもそも何を作るんだ?」

「んー、紙ひこうきー」

「かみひこうき?」


 そう、紙飛行機である。

 や、色々考えたんだよ? 何を作るか。

 というか何なら作らせてもらえるか、作ってもいいかをだ。

 錬金術を扱おうという時点で、危ないものを作ると考えられてしまう可能性が十分にあるのだ。その時点で火属性の系統のものを作るのは却下されるのである。

 錬金術、火属性……火薬? 爆弾? みたいな思考になられた時点で、僕が錬金術の使用を禁止されるのは目に見えている。

 とはいえ先日作ったようなポーションでは味気ないし……ポーションを作る五歳児ってなんやねんっていう話だ。

 そもそも僕が普段から触っていられるものを使った物じゃないと、一体どういった発想でこんなものを作るなんて考えたのだと、色々と面倒な話になりかねない。

 そこでおもちゃになりえるものは何だろうかと


「んとね、まず魔導書の紙片に魔力を切って正方形にするの」

「セイホウケー?」

「おうふ……」


 正方形が伝わらなかった。


「縦と横の長さを同じにするの。それと角は全部直角に」

「直角? ああ、そういうことか。真四角だな」

「変わった呼び方をなさいますね、錬金術の本にでも書かれてましたか?」

「セイホーケー?」

「私がやります。セイホウケイですね」


 正方形です。


「そして紙をちょっとだけ硬くするべく魔力を走らせます。いい?」

「ああ、その辺はトランプと同じだな」


 お父さんが頷いたのを確認したので、シンシアが切ってくれた紙を受け取る。ペラペラの紙質だった魔術師の紙片にトランプ加工時の要領で折り紙程度の硬さにする。


「そんでね、こう折るの」

「折るのか」

「折るのですね」

「いちいち復唱しなくてもいいよ……」


 折り目がズレないように丁寧に折る。子供ボディな僕だけどなんやかんやJOBの恩恵で器用度が高いので失敗はしない。

 縦に半分に折ってまた広げる。片側だけを谷折りして折り目に合わせて畳み、今度は斜めに折る。

 紙飛行機の完成だ。

 押し出すように軽く飛ばすと、その紙飛行機は真っすぐ進んですぐに窓にぶつかった。


「飛んだわよ!?」


 千早が驚き。


「また変な魔法ですか?」


 千草が僕を怪しく見つめ。


「ソードフライフィッシュみたいですね」


 シンシアが魔物を思い出し。


「ああ、海辺で奇襲を受けたな。確かにあんな感じだった」


 お父さんはシンシアの言葉に頷いていた。

 うん、千早のリアクションだけ嬉しい。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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