眷属蜘蛛優秀すぎません?
「訓練の時間だ」
「もう寝る時間なんだけど」
「増やすといったであろう?」
「そうだけどさ」
まさか当日、しかも食後に屋敷の裏に連れ出されるとは思っていなかった。
「なにより図書館が出現したのだ。日中の時間は図書館に充てられる以上、夜間しか訓練はできまい」
幻想図書館を安全に使える時間は日が沈むまでだ。一度出現したら一週間くらい同じ場所にいるらしいけどその日数はラド様も含めて誰にも分からないらしいし、どこに移動するのかも不明である。
ただ完全に日が沈んだあと、深い霧に覆われて突如として消える。そんな移動方法とのことだ。もし誰かが図書館の中にいる状態で移動を開始すると中にいる人間までその移動に巻き込まれてしまう。そして移動先がどこか分からない以上、前人未踏の地に飛ばされてしまう可能性があるから危険なのだと。
ゲームでの説明だとある程度人里に近い比較的森の浅いところに出現するって話だったけどね。
だから図書館に引きこもることもできない。図書館には食料などは置いていないし、何より移動をした先で図書館がダンジョンになってしまう場合もあるのだ。
だからラド様の眷属蜘蛛達が、夜になる前に中の人間に合図を送ってくれる。
「図書館がいつくるかとか知ってたの?」
「いや、図書館の出現位置の特定はできない。狩人が見つけてくれて即座に報告が来たからだな。幻想図書館は知識の宝庫、国中の人間は森の中で幻想図書館を見つけたら行政、つまりその地区の村長や町長を通じて即座に領主や王に報告される。見つけた者には下級貴族が一年は暮らしていけるくらいの褒美が支払われる仕組みだ」
「一年、平民には大金だね」
ゲームでもランダムっぽかった。でも大きな街にいる占い師に依頼するとどこか教えてくれたはずだ。
僕の言葉におじさんが頷く。
「それよりも、お前の訓練だ。魔法使いとしてどれだけ腕があがったか、単純に覚えた魔法を確認するぞ」
「うん」
体感になるが、魔法使いのJOBレベルは40くらいだ。だから魔法使いで覚える魔法の約半分は覚えている。まあ自分で魔法を作れるという事態になっているため、わざわざJOBレベルの増加で覚えなくても似たような効果を持った魔法を生み出せばいいのだが……なんだかんだ言って昔のゲームだから、ゲーム内で重宝していない魔法は記憶から飛んでいるのですべての再現はできない。
「どこまで覚えた?」
「サンダーストーム」
「複合魔法まで入ったか。そうなると次は輪唱魔法だな。魔力超強化まで覚えれば賢者への道は確実になる」
「そうなんだね」
魔法使いのJOBレベルは70でカンストだけど、カンストさせなくても賢者の職業の書と転職条件をクリアしたうえでJOBレベルが50を超えていれば賢者になれる。
「……全く、どのようにすればここまで早く習得ができるのだ」
「おじさんの教えがいいんじゃないかな?」
チュートリアルダンジョンで無限にスリムスポアを焼いているからです。
「そんな訳なかろう。オレが何人の弟子を育てたと思っている」
「えっと?」
そんなこと突然言われても分かる訳がない。首を傾げていると、何が面白いのかおじさんが苦笑をした。
「賢者になってから、50人以上は魔法師団で魔法使いのJOB持ちの指導をした。付きっ切りで指導したことも一度や二度ではないし連れてきている部下の中にはお前と同じ訓練をお前以上の量と時間をこなしている者もいる。やはりお前は、どこかで実戦を行ってるとしか思えんな……」
「いやいやいや」
行っておりますが、なんなら現在進行形でスリムスポアを焼いておりますがここは誤魔化さなければ……あれ? 誤魔化さないといけない?
いや、地下のチュートリアルダンジョンは人には教えられない。スリムスポアを焼くのが現状唯一JOBを入手する手段だ。
おじさんに教えたら嬉々として賢者の量産を始めるだろう。そうなると僕がスリムスポアを焼けなくなる。
むう、やはり教えられないな。
「千早、千草。ジルベールがどこかに抜け出している様子は?」
「ありえません。若様の足では一番近い狩場の森までたどり着くまでに夜になってしまいますから」
「わ、私達が若様のもとに着いてから一日以上離れた事は、い、一度しかございません」
「一日……? ああ、例の襲撃の際のことか。あの使者殿も困ったものだな」
おじさんはそう言うと突然僕の頭を撫ではじめた。
「なに?」
「いや、褒めてなかったと思ってな。よく自分の護衛を動かした」
「うん? うん」
お屋敷の中に一人でいるのにどんな危険があるのだというのか。
「自分の身を第一に考えるのが当たり前で他者の立場を考えても仕方ない、どうすれば護衛を動かさないで済むか言い訳を考えるのが貴族だ。一番の手練れを残すのは当たり前、JOB持ちは当然、その他も自分以外に動かさないのが当たり前、という形でな。お前は良く自分と相手の立場を考えて決断をした」
「そうなの?」
「ああ。身辺警護の者を簡単に手放すのは喜べたことではないが、あそこでファラッド男爵に何かあったら我が領とモーリアント公爵との間に軋轢ができていたかもしれん」
「ええ、そんなに?」
「そんなに、だ。モーリアント公爵家との繋がり、彼の家の後ろ盾がなくなれば、そしてイーリャッハとの交易に何かしら制限がかけられれば、オルトの家など簡単に消し飛ぶ。お前はこの領を守るために最善の行動をしたんだ」
「そ、そうだったんだ……」
公爵家からの使者に危険が迫ってる段階で不味い事態だとは思ってたけど、そこまで大事になる可能性があったのか。
「お前は自分の身を犠牲にするほど偉大な決断をしたんだ。誇りなさい。よくやった」
「う、うん」
そんなこと微塵も感じていなかったし、領主であるお父さんの意向を無視してロドリゲスまで動かしたからお父さんは褒めない、って。まあ実際には褒めてくれてたけど。
とにかくここまで直接的に褒められてはいなかった。
おじさんの直視できないほどキラキラ笑顔が、とてもまぶしかった。
このあとめちゃくちゃ訓練した。
「錬金道具大全、分かる?」
昨日まで読んでいた本の続きの読み込みと写しが一段落したので、次の本に手をつけるのだ。
僕が頭の上にいる眷属蜘蛛に質問をすると、前回と同じ机のあるエリアに誘導してくれた。錬金関係の本は全部同じ場所に固まっているのかもしれない。見渡す限り本棚と本の空間であるのに整理整頓されているとしたら、とんでもないことだ。
しかも本のタイトルだけでなく、本のざっくりした内容を言うだけでその本を用意してくれるのだ。こんなにも優秀な司書なんてどの世界にもいないだろう。
「ありがとう」
眷属蜘蛛は僕の指定した本を四冊も用意してくれた。しかも二冊重なっている。上下巻の関係のようだ。
どうやら錬金道具大全という種類の本が複数あるみたいである。
「錬金道具の作り方も載っている本はどれ?」
僕が質問をすると、眷属蜘蛛は重なっていた本を前に差し出してくれる。なるほど、一冊には収まらなかったのか。
「こういうとき本のサイズが同じだと便利ですね」
「だねー。だいたい空の魔導書に書かれているっぽい」
この図書館の本棚に綺麗に並んでいるのは空の魔導書に書かれているからだ。普通に紙束に書かれているものや、木簡も見受けられるがその数は多くない。
僕は自分用の紙束を広げ、錬金道具大全を開く。そこには僕の求めていた情報、錬金道具の種類と錬金道具の作り方、それと錬金道具に必要なアイテムが書かれている。
何より字が綺麗で読みやすい。
「若様、完全に勉強モード……」
「姉さん、私達は静かにしていましょう」
昨日に引き続き、錬金関連の知識を増やしていく。
錬金道具と言うのは、錬金術を使うにあたり重要な一点である。錬金道具の性能が一つ違うだけで、錬成の完成度や成功率に大きく差が開くらしい。
この辺はゲームとは違うけど、まあ理解できる部分ではある。
火の属性のアイテムを作るのに、水の属性の錬金道具を使うと成功率が下がるし完成したアイテムの性能にも差がでる。
ゆえに優秀な錬金術師は、属性に合わせた錬金道具を用意するのだという……これがいきなりの導入部分である。初級の本から比較していきなり難易度が上がった。
めちゃくちゃ大変じゃん。
「うわぁ……」
「若様?」
「どうかなさいました?」
「なんか、作る道具に合わせた属性の錬金道具を用意すべしっていきなり書いてある」
「それじゃあ、錬金釜一つとっても何種類も用意しなきゃいけないってこと?」
「うーん、よく使うものだけでもいいっぽいけどなぁ」
ポーションみたいな回復薬は大半が液体だから水属性の釜が一般的なんじゃないかな?
「錬金工房にお邪魔したことはありましたけど、そんなに大量に釜が置いてあったようには思えませんが」
「そだね。普段使いしないものはしまってあるとか、そもそもないのかもしれないね」
僕が以前お邪魔した錬金工房は役場の工房だ。ああいうところだと基本的に同じものばかり作るだろうから用意自体していないのかもしれない。
倉庫とかは見てないけど、役場というか領自体はユージンの時代からあるから古いものが保管されている可能性はワンチャンある。
「ジェニファー様の工房にならあるかもしれませんね」
「ああ、あの森の。この間行った時はバタバタしてて中に入らなかったからあるかもしれないわね。森の中にしては建物はそれなりに大きかったし」
「ほえー」
お母さんのお友達の錬金術師さんの工房、確かに興味はある。そういえば本を返してもらってないな。写本と内容確認って渡したっきりだ。
「今度工房を見せてもらおう」
「森の中ですから護衛の増員が必要ですね」
「若様、森の中で火の魔法はダメよ? 爆発も」
「さすがにやらないよ!」
千早の言葉に千草もうんうんと首を縦に振っている。二人揃って僕をどう思っているんだい?




