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へくち

「トルネード!」


 あたしはジルベール様に合わせて魔法を放つ。徐々に速度の速い魔法を選択するようになっていくジルベール様に、ディストラプション系の魔法では速度で間に合わなくなりそうだったからだ。

 ボール系の魔法、といってもファイヤーボールとウォーターボールくらいしかないけど、それらは速度が比較的遅いからディストラプション系の魔法で相殺は簡単だった。

 でもボルト系が混ざってからは厄介になった。

 ボルト系魔法は標的の近くに槍のように魔法が生み出されて相手に突き刺さるように撃ち込まれる魔法。ファイヤボルト、コールドボルト、サンダーボルトと三種類ある。

 もちろんディストラプション系の魔法で打ち消せるけど、ボルト系の魔法は一発から術者によっては三十発近く生み出して撃ちだすことができる魔法で、ディストラプションで打ち消そうにもジルベール様の込めた魔力量によっては撃ち消せずに何発か漏らしてしまったのだ。

 撃ちおろすという動きである以上、着弾点を予測して同じボルト魔法で迎撃するのは難しく、更に何発撃ちだされるかが不明のため、上手く自分のボルト魔法を撃ちこめても数で負けてしまったら相殺しきれなくなってしまう。


「く、手強い……」


 思わず呻いてしまった。そもそも相手はファイヤーボールを百連発とのたまって発動させることができる子供なのだ。実際に百発もだしたかどうかわからないし、そもそも意味が分からないけどそういうことを成し遂げられる子供なのだ。

 天才というタイプの子なのである。

 今のところ常識の範囲内の量しか魔法を飛ばしてはこないけど、いつそれが崩れるか分からない。


「クリスタさんすごいね! じゃあ次からは魔法名を言わずに魔法を撃つよ!」

「ええ!? ぐぬぬぬぬ! いいわ! かかってらっしゃい!」


 ぎゃあ! あたしのバカ! ムキになって返事してどうするのよ!


「えい」

「ウォーターディストラプション!」


 ジルベール様の放った魔法、ウォーターボールと思われるそれに無効化魔法をぶつける。よし! 相殺したっ!


「たあ!」

「ウォータースピア!」

「てい!」

「ウィンドカッター!」

「これなら!」

「トルネード!」


 うっ、ボルト系は範囲の広く持続時間の長い魔法を選択しないといけない!


「むふ」


 ああ、ジルベール様が嬉しそうな顔をしている!


「ウォーターボール!」

「ちっ!」


 あたしはいまトルネードの発動中だ。そんな中で新しい魔法を撃ちこむことはできないっ!


「ていっ!」

「え?」


 発動中に別の魔法を撃てないことを知っているジルベール様は、わざと魔法の速度を落としてくれていたようだった。だからあたしはあわててしゃがみ、足元の石を掴んでウォーターボールに投げつけた。


「うわわっ」

「若様!」


 物にぶつかったボール系の魔法は爆発を起こす。速度が遅くてジルベール様からあまり離れていなかったウォーターボールは小さな爆発を起こし、ジルベール様を飲み込んでしまうのであった。






「いちちちち」

「申し訳ございませんでした、ジルベール様」

「大丈夫、ちょっと濡れただけだから」


 青ざめた顔で頭を下げるクリスタさん。


「訓練中の事故だよ。大丈夫大丈夫」


 僕の近くで破裂したウォーターボール、威力を抑えめにしていたから軽く吹き飛ばされた程度ですんだ。実害は多少濡れたのと尻もちをついたくらいである。


「まさか魔法の訓練で石を投げてくるとは……」

「すみません、魔法の発動では間に合うか分からなかったもので」

「瞬時にそう判断して投石に切り替えたのね? やるわねクリスタ」

「うん。冒険者みたいだった」


 魔法使いに似合わぬ身のこなしに投石という選択肢には脱帽だ。


「一応トルネードの効果時間に合わせて魔法を撃ったんだけど、それよりも前に潰されちゃった。すごいね」


 千草と千早が僕の頭や服を拭いてくれる。


「しかしジルベール様にお怪我を」

「濡れただけだし尻もちついただけだから大丈夫だって」

「ならいいのですが、念のため屋敷に戻って体を見てください。それと濡れた服を取り替えませんと」

「ええ、お風呂にいたしましょう」


 クリスタさんの提案に千早も頷いている。


「ジルベール様はあの場合、どのように対応されたのですか? ビッシュ様との訓練で同じようなことをされたのですよね?」

「うん」


 おじさんがやってきたことをクリスタさんにやったのだ。最初は対応できなかった僕と違いクリスタさんは一回目で対応してきた。正直すごいと思う。


「僕は最初対応できなくて的を壊されちゃった」

「まあ!」


 そんな驚かなくてもいいじゃん。


「二回目はトルネードの持続時間を延ばして二つ目の魔法にも対応できるようにしたんだけど」

「はい」

「おじさん、魔法動かせるんだよね……ウォーターボールの軌道を変えてトルネードを避けて的を壊された」

「無茶苦茶ですね……一度撃った魔法をコントロールできるんですか」

「うん。だから次は僕もトルネードを動かして迎撃しようとしたんだけど」

「やっぱりジルベール様もできるんですね」

「制御ミスって自分で的を壊しちゃった」

「ま、まあ初めてやられたのでしたらしょうがないですね。自分にはできそうにありませんけど」


 そうかな?


「あの時は的の破片がそこらじゅうに飛んできて大変でした」

「千草が驚いて転んだわ」

「大変そうですね……」


 あの時は大変でした。


「そんで失敗から学んだ僕は、ファイヤーボールみたいに一度に魔法を撃てれば問題ないかなって思って」

「え?」

「おじさんが三十発くらいのボルトに対しトルネードで対抗しつつ、追加で飛んでくる魔法にディストラプションを撃って迎撃したんだ」

「え? えーっと? 同時に二つの魔法を放ったってことですか?」

「うん!」


 クリスタさんが頭を抱えている。僕は属性結晶ブーストのおかげで魔法の発動、魔法の威力、消費魔力にかなりの補正をもらっているのだ。そこらへんも考慮して試しに撃ってみたらできたのである。


「そもそもファイヤーボールを一度に十発もニ十発も撃てるんだから、普通にできた」

「すごいですね……」

「クリスタさんの方がすごいよ! 初めてでいきなり対応できたんだもん!」


 屋敷に戻りながらそんな話をしつつ、僕はくしゃみをするのであった。

 翌日、風邪をひきました。


「治ったらいいところに連れてってやるから、しばらく大人しくしていなさい」

「はぁい」


 そんなことをお父さんに言われました。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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