なかった!
皆さんこんにちは。今日は魔法使いのジルくんです。
ここのところチュートリアルダンジョンに来る際に、隣の部屋でスヤスヤしている二人に睡眠の魔法をかけるのが日課になってきてます。なかなかの背徳感。
でも今日はチュートリアルダンジョンではなくて地下の隠し錬金部屋にきてます。
実は先週、魔法使いのJOBでの目標のスキルである輪唱魔法と魔力超強化を取ることができました。
むふふ。
輪唱魔法はパッシブスキルで、一度魔法を放った後に同じ魔法が自動で続く時があるスキル。スキルレベルが高くなると発動する確率があがるスキル。
でも魔法反射をしてくる魔物にあたったりして、それを知らなかったりしたら突然全滅の危機に陥る危険なスキルでもあるので注意が必要である。
そしてもう一つのスキルが魔力超強化。
魔術師の魔力強化の上位版スキル。単純に所持していると魔法攻撃力があがるスキルだ。ちなみに聖職者系の回復魔法の威力もあがるので魔法の攻撃力というよりは魔法の威力が底上げされるっていう認識である。
「これでJOBを変えても魔法の威力が大きく変わらないからね」
当然魔法使いでいたほうが魔法の威力は高い。職を変えたら魔法の威力が落ちるので、おじさんあたりには勘付かれてしまうかもしれなかった。
でも魔力超強化のおかげで、他の職に移っても同等レベルの魔法が放てるようになるのだ。もちろん魔法使いのままで魔力超強化の恩恵を受けていたほうが強いけど。
「とりあえずシーフにJOBを戻してっと」
シーフのJOBレベルを上げると『盗賊の指先』というパッシブスキルが伸ばせる。そうなれば器用度があがり、錬金術の成功率が高くなるのである。これは錬金術師になるには必須のスキルだ。
「でもシーフもそろそろ上限来るんだよね」
盗賊の指先は三段階の強化がある。JOBレベルに応じてパッシブスキルの性能が向上するのだ。
今は盗賊の指先のレベルは体感的に二段階目。シーフのJOBとしては、既に折り返し地点を超えているのだ。
「次は何にしようかな……」
勿論最優先に取るべきは錬金術師だ。このゲームの世界、どんな危険が待ち構えているか分からない。そんな危険な世界だからこそ、回復手段や自己防衛用のアイテムなんかを早いうちに準備をしておきたい、そう思っているからこそ錬金術師が最優先となる。
「だけどなぁ」
錬金道具が問題だ。
錬金窯。でかい、イスに立って覗き込まないといけない。
錬金槌。でかい、持ち手が僕の手に合わず、両手で持ち上げないといけない。両手が埋まるので素材を押さえたりできない。
錬金杖、錬成金床、錬金台などなど。
全部でかい、以下略。
つまり大人用だ。最低でもお兄ちゃんくらいの大きさまで成長しないとまともに使えそうにない。
「自分で買う! って言えればいいんだけどなぁ」
多分お金はあるんだろうけど、僕は自分で買い物をしたことがはっきり言ってない。この間フォークとか作ってもらったのがある意味では初めてのお買い物だけど、あれはなんか……違う。
というか、そもそも子供用の錬金道具なんて売ってないだろう。
「自作?」
それこそ不可能じゃない?
「現状使えそうなのは、この錬金窯くらいか」
錬金窯は二つ置いてあった。一つは暖炉のような場所に置いてある僕が中に入れそうなくらい大きな錬金窯。
もう一つはテーブルの上に置いてある錬金窯だ。
「このサイズだとジョウロは入りきらないかなぁ」
古びた赤いぞうさんジョウロを聖なるローブを用いて加工すれば、神聖なるジョウロに作り変えることが可能。まあジョウロ以外にもメインとなる材料があるんだけど、多分もう手に入らない。だから何か代用品を用意して、その上でちゃんとしたものが作れるかを考えなければならない。
「イベントアイテムだからたぶん大丈夫だと思うけど……」
ゲームだとイベントアイテムは錬金術で使用しても壊れなかった。失敗しても素材は残ったので成功するまで何度でも挑戦できたのだ。
でも今は現実世界。そもそも錬金鍋に素材を全部ぶちこんで、カレーを煮込むようにグルグル回すだけで完成するのだろうか?
実際にポーションを作った時は、素材を鍋にぶちこんでグルグル回しながら魔力を循環させていただけでできた。
むう、分からん。
「分からんといえば、この辺の素材」
パッと見ただけではあるけど、ほとんどの素材がなんの素材だかわからないのだ。
ゲームで錬金術を使う時は必要な素材が勝手に選択されるし、そもそもカーソルを合わせれば名前が表示されていたのだ。
そんな細かい素材の名前や形なんて全然覚えていない。
「錬金術の書いてある本、いっぱい読まないとだなぁ」
本の中には素材の名前だけでなく、素材の簡単なイラストが描かれているものがある。そういった物をいっぱい読んで勉強をしないといけないのだ。
作りたい物を作ろうにも、その材料が間違っていれば話にならない。特に薬のような口に入れる道具を作成するには注意が必要だ。ゲームと違って賞味期限もあるわけだし。
「とにかく、次は器用度が上がりそうな職につかないとな」
ゲームだとシーフの次に取るのが弓士のJOBだ。コンセントレーションという器用度を高めることのできるアクティブスキルを取れるから。
「でも……さすがは続編、まさかJOBが増えているとは」
ユージンの奇跡だと基本となるJOBとそれの派生JOBが二段階。それと複数のJOBをある程度収めると習得できるようになる複合職があった。お父さんが取得しているらしい魔法剣士も複合JOBの一つだ。
しかし続編だからか、JOBが増えている。もしかしたらゲーム時代にも設定だけがあって、キャラクターではなれない職業なだけだったかもしれないけど、とにかく手元にある職業の書は増えている。
「ベースとなるレベルが低いから、もう少し器用度を上げたいところ」
しかし問題はこの職業について何も知らないことだ。
「占い師、器用度じゃなくて魔力が上がりそう」
いつか取れたら取るかもしれない。
「鍛冶師、器用度が上がるのかな? それとも力?」
武器や防具が作れるのであれば、器用度があがるかもしれない。
「料理人も器用度が上がりそう」
これも何かを作る系の職業、器用度があがりそうだ。
「人形師?」
人形師!? 何それ!?
「絶対に器用度高くなるじゃん」
僕はその職業の書を手に取って、JOBを習得するのであった。
今まで触れてなかったけど、職業の書を使うのにデメリットはない。
自分の好きなタイミングで好きなJOBが選択できるのである。手元にある職業の書を全部使っても問題なしなのだ。やらないけど。
「さて、早速JOBの回収ですねっと」
地下の隠し錬金部屋からこっそりとチュートリアルダンジョンに移動。今日も元気に焼かれているスリムスポア君からJOBを回収である。
「ほんと、これでベース経験値も入れば完璧なんだけどなー」
残念である。
体の中にJOBが吸収されると、人形師のスキルが手に入った。
「人形操作……人形がねえ!」
人形師だから、人形を操って戦う職業なのだろう。はい、終了!
「ぬいぐるみならあるんだけど」
ロドリゲスが余り布で作ったやつだ。
あのロドリゲスが作ったやつである。僕の服を作る時に余った布なんかでガワを作って、それに綿をぶち込んだ奴。それなりに可愛いウサギのぬいぐるみだ。
「本人曰くアーマーラビットらしいが」
アーマーはどこへいったのだろうか。
「ま、いいか」
そんなことよりもスキルである。
どのJOBでもJOBレベルが上がると稀にスキルが手に入る。なんとなく『あ、新しいスキルが手に入ったな』って感じで分かる。どういうものなのかとか、使い方とかも分かる。
ただこのスキルというもの、何気に厄介だ。パッシブスキルと呼ばれるスキルはいわゆる常時発動スキルで手に入れたらその恩恵が体を満たす。こちらは問題ない。
シーフの盗賊の指先や魔術師と魔法使いの魔力強化系のスキルなんかがそう。
それに対してアクティブスキル、使用することを意識することにって発動するスキルは練習が必要だ。
シーフであれば『軽業』とか。使っている最中に回避率が高くなるスキルだけど、一定時間経過するとスキルの恩恵が消えるのだ。消えたら再度使用しなければならないが、消えた直後に体の感覚が変わるのだ。剣の訓練中にお父さん相手に使ってて、お父さんとチャンバラをしていたときなんかに使ってると、切れた瞬間にお父さんの攻撃が直撃したなんてこともあった。
お父さんは僕に合わせて攻撃をしてきてくれてるんだけど、そのお父さんの攻撃が急に鋭く感じられるようになる、というか僕の体捌きが悪くなるんだけど。
切れる前に再度使えばいいんだけど、お父さんとの訓練中にどのタイミングで切れるかとか考えている余裕なんかあまりない。そして実戦だと更にその余裕はないはずだ。
「僕は根っからの後衛なんだろうなぁ」
僕が魔術師の職になってからも、剣のお稽古は定期的に行われている。お父さん曰く、動けない魔術師はいざという時に自分を守れないから体は動かせるようにしておくべきだからとのこと。
「まあそれはいいとして」
この人形師のスキル、どうやらアクティブスキルのようだ。つまりスキルとして使用している間だけ人形を操れるという代物。持続時間とか人形がどう動くかとか、その辺をしっかり考察しないといけない。
「育てれば器用度が上がるスキルが手に入ればいいんだけど」
とにかく人形師は一旦終了。盗賊の指先を極めるまでシーフでいよう。
「ありゃ、人形操作使えないんだ?」
人形操作は人形師の専用スキルのようだ。職業専用スキル、つまりその職業かその系統の職業になっていないと使えないスキルである。魔術師だと魔力集中……次に放つ魔法の威力を増大させるスキルなんかがある。これは魔術師系列のJOBでいるときしか使えない。
「まあいっか」
そもそも使う予定もないからいいかな? 有用な職か、死に職か分かんないし。




