これはなんか違う!
「こんなに高いところに立ったら危ないわ」
「あ、ああ。そうだね、うん」
「はぁい」
「まずここね、ジグザグなのはいいけど、斜めに登るなんて、落ちたら怪我するわ」
「うむ、ミレニアの言う通りだ」
「あははははは」
「階段にしてもいいけど、手すりがいるわ。それに一番上のところにも、周りに柵のようなものが必要ね」
「ああ、そうだね」
「はぁい」
「そもそも素材からしておかしいわ。土じゃだめよ。雨が降ったらぬかるんでダメになっちゃうもの。土じゃなくて木になさい」
「ああ……そうだね」
「木かぁ」
「すべり台もそうよ。下まで土で埋まってるならいいけれど、間が空いてるなら崩れる可能性があるわ。ジルが子供で軽くても、何か衝撃を受けたら崩れてしまうわ」
昨日作ったSA〇UKEモドキ、千早とレドリックがなかなか楽しい障害物だと好評だったものの、何箇所か壊れたので僕がやるのは禁止されてしまいまった。やろうとしたら千草に捕まったのである。
ぐぬぬぬぬ。
そんな経過もあり、興味津々のお父さんを尻目に、お母さんの厳しいチェックによるダメ出しが雨あられ。
そもそも土である段階であかんらしい。
「中を埋めればいい、こんな感じ?」
「……ええ、それならいいわ」
おじさんが用意してくれた土がまだ余っているので、千草が預かっている魔法の袋から土を取り出して強化。
手すりから何から全部土なうえに、下部分の隙間がなくなっているので不格好なすべり台だ。
即座に魔法で修正をしたのにはお母さんも苦笑である。
「こっちはジルにはまだ早いわね。千草、木の方はどうかしら?」
「は、はい、育て終わりましたぁ」
「千早、強度確認のためしばらくぶら下がってなさい」
「はいっ」
素早い返事をした千早が、言われるままにぶら下がる。
千草が木を魔法で育てたのだ。しかし普通に育てた木と比較すると、魔法で育てた木は強度的に強くない。
その確認のため、千早が木にぶら下がって強度の確認をさせられている。すべては僕のブランコのためだ。
「やっていい?」
「ええ、お母さんに見せて」
「うん!」
階段を上って、すべり台を滑る。
ズサーッ。
上る。
ズサーッ。
中々の迫力だ。
「お父さんもやる?」
「え? ああ、しょうがないなぁまったく」
なんかやりたそうにしてたし、何よりやる気満々の騎乗衣だったのでお父さんを誘う。お母さんはドレスなのでダメだ。
「あら、まずお母さんと一緒でしょ?」
「お母さん、綺麗なドレスだからだめー」
「そういうことだね」
「あらあら、残念ね」
お母さんが困ったわという顔をしている。そこでお父さんが僕を連れてすべり台に登りがてら僕に耳打ち。
「ダメなのは分かっていても、最初にミレニアを誘うんだ」
「え? あ、うん」
「それだけでご機嫌になってくれるんだ。次は頼むよ」
こっそりと耳打ちを受けながら、僕はお父さんと一緒にすべり台を滑り降りた。
「なんか違う……」
「あはははは」
「仕方ありませんよ、若様」
お母さん監修の下、生まれ変わったキッズ版アスレ。そう、アスレチックである。SA〇UKEの姿はもはや残っていない。
ジャングルジムは下の穴がなくなり、左右の穴も僕が通れないほど小さな穴になってしまった。僕が落下しないようにとの配慮と、お母さんや千早達から僕が見えるようにとの配慮である。
中には階段があるが、登って降りるだけ。本来のジャングルジムと違い、上下左右に移動できず、一直線である。
トンネルもあるが、やはり穴が空いている。
平均台は太くなり、階段も二段。斜めに上がるなんてとんでもない。とのことだ。
しかも手すり付きで高さもとても低い。
うん安全だ。
「なんか違う……」
こう、だーっと行ってババっと渡って、ビュンって飛んで。そういうのがやりたかったのに!
これはショッピングモールのキッズスペースの隅に置いてあるような、本当の本当に小さな子供が遊んでいるようなやつだ。
あ、本当の本当に小さな子供が僕だった。
「しかし、確かに惜しいな。普通に体を動かせる環境が身近なところにあるのは嬉しいのだが」
「でしょ?」
「あなたが普通に体を動かすには、この広さでは満足できないでしょう?」
「……それもそうか」
ただの素振りで小さな風圧が発生する人なのだ。
「とりあえずこれで遊んでみるかなぁ」
「よし、私が横につこう。ミレニア、休んでなさい」
「ずるいわ……でもそうね。せっかくジルちゃんが机と椅子を作ってくれたからお茶でも飲んで眺めることにするわ」
そうお母さんが言ったので、控えていた千草が頷く。お父さんが僕につくため、お母さんのお世話に周るようだ。
僕は最初からやり直すべく、滑り台エリアの階段に足をかける。
「ジル、他にどのようなものを考えているのだ?」
「え?」
「フッ、ジルにはもっと色々案があるのだろう? 遊びながらでいいから教えてくれ」
「……お母さんを遠ざけたのはこのためと見たっ」
安心安全にうるさいお母さんがいないところで聞き取るつもりだこの人!
「もったいないではないか。それに最初の話をレドリックに聞いた時は随分と楽しんだようだしな……正直ミレニアに解体される前に実際にやってみたかった……」
平均台で僕の手を引きながら、こうして僕を無理やり動かして遊んでいるように見せているんだな! 集中できないよ!
「最初は体全体でクリアさせる障害物をたんまり用意して、後半は腕を酷使させるようなギミックを盛りだくさんにする感じかなぁ」
テレビで見ていた記憶を頼りに、色々とギミックを紹介する。
「ふむ、重量上げは岩か何かを用意すれば良さそうだな。片手での鎖渡りも丈夫な木を使えば作成可能だな、エレメンタルウッドマンの幹ならば成人の……それこそトッドクラスの重量級の人間でも耐えられるものが作れそうだ」
両手足を使って壁と壁の間を進むギミックもエレメンタルウッドマンを板状に加工して並べればいけると満足気に頷いている。
「どこかで作るつもり?」
「そ、そうだな。これは我が領内での、その、冒険者誘引に役立ちそうだ」
「すぐにマネされそうだけどね」
「ああ、それはそうだな……そこは考えなければならないが」
ぶっちゃけ太い木をくみ上げて作るアスレチックだ。安全性をある程度無視してしまえば、簡単に……とまでは言わなくともマネするのは難しくないだろう。
それに安全性に関してもそこまでこだわる必要はないのだ。現代日本と違い、兵士やら騎士やら冒険者やらは頑強なのだ。前衛系のJOB持ちに至っては人外の性能だし、後衛や生産系の職でもレベルが高ければ一般人と比べると圧倒的に強い。
「こういうので怪我人とか出たらマズくない?」
「そこは自己責任だろう」
「まあ、そうだよね」
安全を保障する関係の法律もないから怪我人が出ても知らんぷりである。
「とはいえ、参加者から金もとりたいからな。回復できる人間もできるだけ用意したいが……こんな遊び場に常駐してくれる司祭や神官などそうはいないしな」
「引退した冒険者とかは?」
「司祭や神官系の人間は引退しても教会で働ける。わざわざ足を運ばなくとも、教会にいれば怪我人が向こうから来てくれるからな」
ああ、そういえばそうだね。
「じゃあ教会の近くに作るとか? あと参加者には教会の使用料を安くする券を配ったり」
「む?」
「あとは、食べ物屋さんもあったらいいね! あったかいスープとか売れそう」
「あったかいスープ? なぜだ?」
「え? 水に落ちた人は体冷えるじゃん」
「みず?」
あ! 下に水を引く話をしてなかった!
他にも細かい話をするころには、この子供用のアスレチックを五周もする羽目になった。さすがに飽きたよ!




