土だけで作るもんじゃあないね!
壁の一部のブロックを外し、土で作った柱で出入り口を作成。中が丸見えになってしまっているので、目隠し兼魔法やらが飛んでいかないように壁を内側に作成。
うん完璧だ。
「今度こそできましたね」
「うん!」
「若様の魔法はとんでもないわ」
僕もそう思う。
「でも見事に何もないね」
「そりゃ訓練場だもん」
「広いだけの場所ですから」
なんとなく学校の校庭を思い出させる広さだ。まあ下手な小学校の校庭よりも広いけど。
装飾品が必要だとは思えないけど、なんとなく寂しい感じがする。
「土も余ってるし、ちょっと使おうかな」
「え?」
「何か作られるのですか?」
「うん!」
校庭となると、遊具がセットだ。本来であれば鉄なんかで作られるそれだが、今の僕にはまだ大量の土と、何より魔法がある。
「ほっ!」
散々使ってきた土の魔法で生み出したソレは、すべり台である。
うん、だって校庭のイメージだとこういう遊具が必要じゃん。
「若様?」
「これは?」
僕は生み出したそれに駆け寄って、後ろの階段に登ってすべり台から滑り落ちる。
「お、おお!」
面白いよ!? 子供っぽいと思ったけど、思ったより面白いよ!?
子供の体で背が低いからか、高いところから滑るのは変な快感を覚える! あ、着地地点が危ないかもだから先を砂場にしておこう。すなー、すなー。
「若様?」
「何してるの?」
「あのね、面白いの!」
なんというか、大人になってからすべり台で滑っても幅は狭いは距離は短いは服は汚れるはで何が楽しくてこんなんで遊べてたのかと思ったけど、子供ボディの僕となるとそれなりに楽しめるものになっていたのだ!
スイーっと滑ってはまた階段を上ってスイーっと滑るのを繰り返す。
「お、面白いの、かしら? ならあたしも」
「姉さん、スカートなんですよ? お尻も汚れるわ」
「誰も見てないし」
「ダメです」
ああ、大人の女性にはちょっと敷居が高いかもだね。
こうしてすべり台を作ったら、次に作るのはブランコだ。
またしても土で骨組みを作り、鎖状に土を作って連結させて板状の物を生み出す。
「あらブランコ」
「懐かしいですね」
二人はブランコを知っているらしい。それはともかく僕はブランコを楽しもう。
「うおおお」
軽く漕いだら勢いよく前後するブランコ、これもまた面白い! とか思ったらベキって小気味よい音がなってブランコから落下する僕。
「あぶないっ!」
「若様っ!」
「いたたたた」
顔を上げてブランコを見ると、鎖状に作った部分の付け根が割れて片側が外れてプラプラしていた。どうやら土では強度が足りなかったらしい。
「むう、これはダメだなぁ」
「若様、お怪我は?」
「汚れたくらいみたいね、大丈夫そう」
顔からダイブした僕だけど、すりむいたりもせず無事だった。
「あたしもやったことあるわ」
「あの時は枝が折れたんですよね。姉さんが無茶するから」
上が丸ごと壊れなくてよかった、これは却下だ。土に戻そう。
「あとは何がいいかな」
「危ないのはダメですからね」
「うん」
公園にある遊具の定番だと、あとはジャングルジムとかなんかタイヤが半分埋まってたり、丸太の上を飛んで移動する名前の分からないあれとかか。あれは下に落ちた人間は死として扱うこともある危険な遊具だ。それと、あとは平均台か。
一般的なジャングルジムもいいけど、僕の覚えている限りだとかなり奇抜で中にトンネルなんかもあった派生形もある。こ、これは気合を込めて作らねばならないな!
こうして色々と考えて生み出した遊具、それぞれの距離をある程度近づけて連続して進んでいくそれをちょっと離れて見てみた感想。
さ、SA〇UKEだ!
うん、すみません。途中から完全に意識して作りました。
「よし、早速」
「若様、先にあたしが安全を確かめます」
「え? 千早、いつの間に着替えて」
「若様が色々作るのに熱中していたときです……はぁ、姉さんたら」
「やあ、これは面白そうなものを作ったなぁ」
レ、レドリックまで。
訓練の時に着ている騎乗衣を着た千早と、普段のかっちりした服装ではなく、私服っぽい服を着ていたレドリックがにこやかな顔をしてそこに立っていた。
まじかー。
気が付けば訓練所として用意した広場の半分くらいを埋め尽くした遊具。それを前にした千早が、レドリックと相対している。
レドリックはお父さんの従者で、騎士だ。JOBも騎士。
「レドリック、いいの?」
「今日は休みだからね。しかしジル様、随分面白そうなものを作ったねぇ」
お父さんよりも細身で背の低いレドリック。着替えて出ていった千早に『若様が面白そうなものをまた作った』と聞いて興味を示してきたらしい。
「どれ、それじゃあ早速」
「いえ、ここはあたしから」
千早がスタートラインとして用意した丸い台の上に既に立っている。
「素早い」
「やるな、千早。いいだろう、譲ってやる」
「姉さんったら……」
千早は言うが早いか、飛び島のように配置された丸や四角、三角の台をジャンプ一つで移動していく。続いて千早を迎え撃つのは平均台だ。
もちろんただの平均台ではない、途中でジグザグしたり、九十度曲げたりと工夫を取り入れた平均台である。しかもだんだんと高くなるように階段と傾斜も付けてある。
「わあ、速い」
「さすがの体捌きだね」
「姉さんったら……」
千草、さっきからそれしか言ってないね。
一番高いところまでたどり着くと、そこからは土の骨組みとトンネル、そして連続した懸垂棒「うんてい」が組み合わさったジャングルジムだ。
千早は素早く身を滑らせてトンネルに侵入、骨組みエリアを突破するとうんていに手をかけて腕の力だけで先に進んだ。
「ああ、上を行くんじゃないんだな」
「どっちからでもいいんじゃない? 特に決まりとかないし」
「でも下を通る方が鍛錬になりそうだ」
体を揺らしながら、腕の力だけでうんていエリアをクリアした千早の前に立ちふさがるのは二枚の壁だ。
壁と壁の間を手と足で支え、足が地面に付かないように進むアレである。
「こちらからじゃ中が見えないな」
「あー、そうだね」
とはいえアクリル板的なものがないと中が見えるようにはならない。
千早はそれをものともせずに反対側からジャンプするように飛び出してきた。
「クリアしたみたい」
「さあ、最後だ」
ご存じ壁が斜めに反り立っております。
千早は助走をつけて壁に向かって走っていき、一番高いところの壁のへりに手を掛けて。
『バキッ』
「「「 あ 」」」
壁のへりが欠けてしまい、そのまま千早がお腹から落下。傾斜があるので滑るように落ちている。
「千早、大丈夫?」
「問題ないわ、でもここまでね。こういった仕掛けならせめて丈夫な木で、できれば石とかの方がいいわ」
特に怪我をした様子もなく、でもどこか悔しそうな顔で千早が戻ってきた。
「残念だったね」
「……全然慰めているようには見えないわ」
「あはははは」
すでに丸い台の部分でスタンバイをしているレドリックが、千早に手を振っている。千早の失敗も踏まえて、反り合っている壁を強化。レドリックは男性だから千早より重いだろうけど、耐えられるだろうか……。
そんな心配をよそに。彼はうんていエリアでリタイヤ。成人男性の体を支えるには、土では強度が足りなかったようだ。
悔しがったレドリックが左右の壁に手と足をかけたら、壁が抜けて足が飛び出してきた。
うん。JOB持ちは力が強いもんね……千早は女性で体が軽いからそこまで力を入れなくても突破できた場所だけど、レドリックは力いっぱいやったらしい
近代五種に取り入れられるようにもなったしね!




