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失敗に次ぐ失敗

「で、その新しい魔法という」

「義兄様、先に魔法の危険性についての話ですよ?」

「う、うむ。もちろんだとも」


 お母さんのニッコリ笑顔にたじたじのおじさん。


「はあ。大人しい子だと思っていたが」

「屋敷を破壊しかねないな」

「ちゃ、ちゃんと制御するしっ」

「火の粉が屋敷まで飛んでいってたらしいけど? 壁、少しすすけてたわね」

「ごめんなさい」

「あとでお掃除しなさいね?」

「はぁい」


 水の魔法でぱぱっと片付けよう。


「……魔法は禁止でな」

「うえ!?」

「どうせ水の魔法でササっとやるつもりだったんだろう? 外が寒くなってきて運動量が減ってきてるらしいじゃないか。手でこすりなさい」


 よ、読まれているっ。さすがお父さん。


「うう」

「返事」

「はいっ!」


 ジトっとした視線を受けたので大人しくお掃除は受け入れよう。大丈夫、こっそり魔法を使えば。


「千早、しっかり監視するように」

「かしこまりました」


 ちくしょうっ!


「ジル、魔法の危険性については話したよな? お前も理解してくれていると思っていたのだが」

「うん……」


 実際今までは火の魔法はチュートリアルダンジョンかガチのダンジョン、それと王都でのパワーレベリングの時くらいしか使っていなかった。

 火事が怖いし、近くで爆発なんかしたら危ないから。


「出来ることを確認したり、試そうとするのを悪いとは言わない。ただ場所が悪かったな」

「兄上」

「むう、だが実際そういう問題だろう? こちらの落ち度でもある」

「それならそうと言ってくれればいい話です。何もお屋敷の中でしか魔法を使ってはいけないわけじゃないんですから」


 お披露目が終わってるから、屋敷のお外に出かけてもいいわけだしね。

 規模の大きい範囲魔法は屋敷はもちろん、街中でも使うことはできない。お父さん達のように騎士や兵士達の訓練場や、街の外まで足を運べばよかったわけだ。


「ごめんなさい」


 素直に謝るしかない。


「お前は……はあ、まったく。そうだな、どこか魔物の少ない郊外にでも場所を確保するか」

「そんな場所あるの?」


 この領都に一番近い森にすら魔物が蔓延っているこの世界で、魔物の少ない場所は貴重である。そんな場所はとうの昔に開拓されて農村にされている。


「いや、もっと近場で済ませれば良かろう」

「近場? どこかありますか?」

「あるじゃないか。裏の家が」

「ああ、あそこですか……」


 うちの敷地の裏、まあ壁を挟んだ向こう側なんだけど、そこには一軒屋敷が建ってるよ?


「引退されたご隠居がいるだけだろう? 動いてもらって取り壊せば土地は空くじゃないか」

「いや、人様の家をそんな気軽に」

「そうですよ? 義兄様、いくらなんでも」

「そうか? 領主の指示に従うのはその土地に住む貴族にとっては当たり前のことだろう?」

「いや、そうは言いますけど」

「何も強制的に命令しろと言っているわけではない。金で動かすなり新たな家を与えるなり仕事を与えるなりすればよいではないか。案外暇を持て余している有能な人材かもしれないぞ?」

「……まあ、可能性はあると思いますが」

「試しに聞くだけ聞いてみるが良い。土地にしがみついているだけの古い貴族であれば追いやっても大した問題にはならん」

「や、問題あるぞ」

「そんな貴族をいつまでものさばらせておく方が問題だ」

「むう」


 あ、なんかお父さんが説得される流れになってる! でも家の裏で自由に遊べる環境が手に入るなら……ありだね!






 数日後、なんか荷物が大量に屋敷に運ばれる。その翌日、なんか大きな音がご近所のお屋敷から聞こえる。さらに翌日、なんか見た事のない使用人が増える。


「なに? この状況」

「あ、若様。今日の午前中はビッシュ様に呼ばれていますので座学の時間は取れません」

「おじさんに?」

「ええ、準備が整ったとのことですので」

「準備?」


 準備ってなんだろうか。

 そう聞かされて案内されたのは家の裏の……空き地。空き地?


「ねえおじさん。ここにあったお屋敷は?」

「片付けた」

「わぁ、お屋敷って片付くんだね」

「……」

「いたいいたいいたい!」


 頭をグリグリしないでよ!


「さてジルよ、広さは十分に確保をした。広域殲滅魔法を試したいとかでなければこれでも十分な大きさだな?」

「広すぎると思うけど」


 よくよく見ると、潰したお屋敷は一つじゃないっぽいし。家の二階から眺められる範囲で三軒はお宅を潰していらっしゃる。これがこの世界の貴族の力っ!


「お前だけでなく、私も新しい魔法の開発やアーカムも鍛錬に使うつもりだからな。千早、お前もだ」

「ありがとうございます!」


 お父さんと戦う千早は素早く移動したり、大きく距離を取ったりするんだけど、壁のせいで動きが制限されるもんね。


「しかしこのままだと、外からの奇襲や内側からの魔法が外に飛んでいって事故が起きたりと心配だ。そこでこれから壁を作る」

「かべ?」

「土壁はそれなりの高さと、倒れないように幅が必要になる。魔法で生み出すのではなく、他所から持ってきた土を魔法で移動させ圧縮し固定すれば立派な壁の出来上がりだ」


 なるほど。


「土はこれを使うがいい」

「魔法の袋?」


 おじさんは頷きながら、魔法の袋から大量の……大量の、どんだけ持ってきたんだよ! 山だよ山!


「昨日のうちに集めさせた。小石などが混ざらない様に指示を出しておいたが、一応注意するように」

「うわぁ」


 集めたのは青い鬣の人たちかな? それともおじさんが連れてきた騎士や兵達かな? 大変そう。


「壁は真っすぐ、美しく並べるように。圧縮をしすぎると雨の時に崩れるから加減が必要だ。試してみなさい」

「うーん」


 土はなんかどこにでもある土だ。多少水分を含んでいる土。ただ単純に土を固めて壁にするには、ちょっとばかり心もとないかもしれない。

 というか壁って単純に言うけど、土壁は意外とモロいんだよね。特に魔法が間違ってぶつかったりしたら、まとめて吹き飛びそうだし。


「そっか、壊れるときは壊れていいのか」

「む?」


 僕は土の魔法を行使し、大きな縦長ブロックを一つ生み出す。レンガを大きくしたような形だ。それに普通のレンガと違い、畳一枚分の大きさをイメージ。これをレンガの壁のように並べる。


「ほお」

「城壁と同じ作りね」

「若様、ほんとどこでこういうのを覚えてくるのかしら」


 いくつかを並べて、高さも確保。これにより大きな壁が一つ出来上がった。


「ジルベール、これはどういう意図で考えた?」

「魔法で壊れてもその部分だけ交換すればすぐ直せるようにって。あと単純に、これ頑丈だし」


 屋敷の地下の祭壇の周りの壁もレンガ造りだ。


「本来であれば隙間に粘土に砂を混ぜたものを混ぜて固定するのだが」

「あ」


 セメント! ないよそんなの! 魔法で作る!? 作り方なんか分からんよ!?


「ブロック一つ一つが大きいし重量もある。必要ないか? だが上の方は落ちないように何かしら固定しないと危ないかもしれんな」

「……いらないんじゃないかしら、かなりの重量だもの」


 千早がブロックの一つに興味を持って持ち上げようとするが、持ち上がらずに断念。土を圧縮したうえで大きさも縦においたら千早より大きいくらいだもの、持ち上がるわけない。

 ……もしかして、持ち上げられると思った?


「姉さんが無理ならほとんどの人が無理なんじゃないかしら」

「千早がどうかは分からぬが、まあ青い鬣のトッドクラスなら持ち上げられるかもしれんな」

「ああ、なんかそのまま肩に担いでぶん投げそうなイメージ……閣下もだけど」

「モーリアント公爵は人の域を超越してるからありえそうだな。まあそれはいい。幸い街中だから魔物の襲撃も起きないだろう。そのまま積み上げてしまえば問題ないか?」

「とりあえず積んでいけばいい?」

「ああ、同じ大きさ、同じ圧縮率で行うのを忘れるな。これもいい訓練になるはずだ。どれくらいかかっても構わんから一人でやってみなさい。ただし一人でやらず、必ず千早と千草を連れていくのだぞ?」

「はぁい」


 屋敷から徒歩数歩の距離だから二人に声を掛けるのを忘れそうだ。


「土は足りなそうなら補充をする。無くなる前に言いなさい」

「うん!」


 おじさんは僕の返事に満足すると、僕が作ったブロックの一つに腰かけた。

 おじさん監視のもと、僕はブロックを生み出して積み上げる、ブロックを生み出して積み上げるをとにかく繰り返すのであった。

 こ、この量、さすがに一日じゃ終わらないっ!

 三日もかけてブロックを積み上げ、三メートル近い壁で敷地をようやく囲い込んだ。


「終わったー!」

「ふふ、お疲れ」

「ええ、本当に。午後だけの時間で、これだけの量をたった三日で……」


 そう言って千草が全面囲んだ壁をぐるりと見渡しながら、つぶやいた。


「出入り口がないですね」

「「 あ! 」」


 壁でぐるりと囲んじゃダメじゃん……。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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