ゲームの魔法とオリジナル魔法
「おはようございます、若様」
「おはよ」
案の定自分では起きられず、千草に起こされた。
その場で着替えを手伝ってもらい、朝の準備だ。
着替えが終わったら顔を洗いに、外の井戸にいく。
「わー、寒い」
「ええ、息が白くなってきましたね」
言いながら千草が木桶を落として井戸から水を引き上げてくれる。
「加熱っと」
「……いい湯加減ですね」
冷たい水で顔を洗う趣味はないので、僕は魔法でお湯を温める。
「千草も使えるんじゃない?」
「お湯加減が難しくて」
千草も魔術師のJOBを持っている。僕と同じようにお湯を温めることができるはずだけど、お湯加減がうまくいかないらしい。
「練習あるのみだね」
「はい、頑張ります」
他にもお水を使う場所があるので、バケツに水を多めにいれている。大変だなぁ。
「ほいほいほいっと」
大変だなぁって感心してないで、手伝おう。井戸の中の水を魔法で動かして、上に引き上げる。
千草が目を丸くしているけど、僕の意図に気付いてバケツに水を素早く移した。
いつものドジが発生せず、水に濡れなくてよかったね。
「魔法でそんなこともできるんですね。温めるより今の魔法を習得したいです」
「あははは、でも攻撃魔法よりも簡単だと思うけど?」
水属性の魔法で水を持ち上げているだけだもん。水を無いところから生み出すよりも簡単だと思う。
「そうは言いますが、離れた位置にある水に自分の魔力を飛ばして干渉するのは難しいです……」
「これ、そんな高等技術?」
「そうですね、技能的には高度な部類になると思います。自分で作った水の魔法を動かすのはそこまで難しくないんですけど」
千草が手元に水の球を生み出して浮かべ、形を変えている。
『パンッ!』
そしてその水の球が弾けて僕と彼女に掛かった。
「……申し訳ございません」
「うん、寒いから中に入ろうか。体も拭かないとだし」
「本当に、すみません」
「シンシアー! タオルタオルー!」
僕が屋敷に向かって声を掛けると「またですかー」と聞こえてくる。
うん、またなんです。勘弁してあげてください。
「ほっ!」
座学を終え、午後の訓練の時間。
お父さんが今日は家にいるので、千早を貸し出して二人は木剣で激しく語りあっている。
最初はおおすごいなーと眺めていたけど、だんだん速すぎて意味不明に。
「うるさいし埃も立つし狭そうだから外でやってきなさいな」
お母さんに太めの釘を刺された二人はすごすごと兵士達用の訓練所に。や、僕に視線を向けられても一緒にはいかないからね?
落ち着いた雰囲気を取り戻した中庭で、僕は魔法の練習である。
「ストームフロスト!」
ゲーム中での火山ダンジョン、そこで必ず使う風と氷の属性を持った攻撃魔法だ。氷の礫を含んだ竜巻が目標に発生し、中にいる魔物すべてにダメージを与える範囲攻撃魔法。今日の僕はこれの練習である。
「ストームフロスト!」
最初に撃ったストームフロストが消えたのでもう一度撃つ。持続時間は最初と同じくらいか、炎の絨毯みたいに持続時間を弄り……あれ? 弄れない?
しげしげと魔法を撃った時に前に出した杖を見る。
「若様?」
「ん、なんでもない。ほっ!」
消えた場所にもう一度ストームフロスト。魔力を多めに籠めようとしても受け付けてくれない、抵抗がある?
「むう、炎の絨毯」
今度は持続時間を調整できる炎の絨毯だ。
「わ、若様、お庭とはいえ炎の魔法はお屋敷では」
「あ、そうだね」
確かに。炎の絨毯は地面から一、二センチ程度の炎が立ち昇る魔法とはいえ、火事になったら大変だ。
「……そういえば、魔法で上から消せるのかな?」
「はい?」
僕の撃った炎の絨毯は、魔力を籠めれば籠めるだけ持続時間が伸びる魔法だ。
「やってみよう。ストームフロスト!」
小規模の氷の嵐が炎の絨毯を襲った。
炎の絨毯は魔法である、炎でもある。強風に煽られて炎は宙を舞い、氷の礫によって消されていく。
「残った」
「若様、本当に危ないんですけど? 火の粉が屋敷に届いたらどうするんです?」
「わ、ごめんなさいっ」
慌てた僕は炎の絨毯を解除。任意で消せるのでこれで問題ない。
「ストームフロストは元々ある魔法、これの威力は撃ち手の魔法攻撃力計算でできてるけど、持続時間や効果範囲はそのまま、か」
「若様?」
そうなると、ストームフロストと同じ感じの別の魔法を考えた方がいいかもしれない。
体感した感じ、ストームフロストの威力や範囲、持続時間の調整が効かなそうなのだ。それならばストームフロストと同じような見た目の、オリジナルの魔法を考えた方が良さそうだ。
炎の絨毯や風円斬は作成するたびに、効果や持続時間を調整しているんだから、オリジナル魔法はその辺の調整が利いて、ゲームで元々ある魔法は、予めその辺が決まっているから調整が全く効かない、そう仮説が立てられる。
「こおり、かぜ、あらし、きょうふう、ぼうふう」
名前とイメージを頭の中で組み立てる。
「氷、風……魔物を風で包み込んで……檻?」
「あの、なにか物騒なことを考えてませんか?」
「千草、ちょっと静かに」
イメージをする。そしてそのイメージを自分の魔力に込めて、具現化する。
魔物を取り込みやすく、それでいて外に弾きださない強烈な竜巻。そしてその中で吹き荒れる、氷の礫……礫よりも、こう、もっとトゲトゲした、モーニングスターとかの先端についてる、地獄とかで使われるような拷問器具みたいな……。
「風氷獄牢」
「きゃっ!」
僕が呟くと、ギャギャギャギャギャッと轟音を生みながら、高速で回転し中が見えない竜巻が現れた。
「お、できた」
「で、できたじゃありませんっ! 消して! 消してください!」
竜巻の中で火花が見えるのは、中に生み出したトゲトゲの氷がぶつかり合っているからだろうか。
「えー」
「早く! 危ないです!」
「はぁい」
僕が魔法を解除しようとすると共に、竜巻から四方に飛び出すトゲトゲ氷っ!
「あぶなっ!」
「わかさまっ!」
千草に抱きかかえられる、四方に飛び出した氷は屋敷や壁にぶつかる前に消えてくれた。
「良かった」
「良かったじゃありません! 何を」
「ジルちゃん? なんの騒ぎかしら?」
「あ!」
お母さん!
「すごい音だったわね、それに……千草に抱きかかえられて、危ないことをしたのかしら?」
「え、えへへへ」
「奥様っ! 若様がっ! 若様がっ!」
「あらあら、涙目になって。そんなに怖い思いをしたのかしら……詳しく話を聞こうかしらね。そうね、お父さんと、義兄様も呼んで」
あかん、それお説教フルコースの奴や。
も、もうしないから、勘弁して?




