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レベルという概念がよく理解できない

 ゲームの世界に転生し、自由に出歩けるようになった初めての冬。

 外に出れるようになったんだから、外に出ようって結構言われます。でも寒いからあんまりお屋敷から出たくないお年頃の僕です。

 この世界は『ユージンの奇跡』というゲームのエンディング後の世界だ。そんな空想の世界に降り立った僕に、なんの役目もないというのはありえないだろう。

 ゲームでは分かりやすく、魔王というラスボスが人と敵対していて世界征服的な野望に燃えていた。

 それを阻止するべくユージンという普通の村人だった少年が、仲間達と共に成長をしていき魔王と戦い、その野望を阻止する王道ファンタジーだ。

 戦いの中で凄惨な描写もあったり、人と魔王軍との戦争もあったり、街や村が襲われたり人が死んだり。そんなものが現実に起こされたらたまったものではない。

 その後の世界ということは、この世界ではユージンの奇跡の続編的な立ち位置なんだと思う。僕の知る限りで続編的なゲームはでてないけど。

 魔物と戦ったりすれば当然怪我をする。幸いまだ本格的な戦闘は一度しか起きていないけど、いずれはゲームのような悲惨な現場を目の当たりにするはずだ。

 その時に何もできないでは話にならない。

 ゲームのストーリーがいざ始まった時に、それらの事件に対応できるように、今のうちに鍛えておかなければならないのだ。

 僕は油断できないのである。






「もう終わりですか?」

「うん……寒いし」


 こんもり服を盛られた僕は、お庭で魔法の訓練だ。だった。

 運動と違い魔法の訓練は体を動かさない。地面を魔法でいじったり、水を生み出して動かしたり頑張った。火の魔法を生み出して暖を取ったりもしたけど、風の冷たいのは変わらないのだ。


「ここのところ、訓練時間が短くなってるわ」

「う……」


 寒いのもそうだけど、単純に飽きてきたのだ。そもそもこれらの訓練はJOBを上げるのに意味をあまりなさない。

 JOBはダンジョンの魔物を倒してこそ、上がるのである。


「でも、輪唱魔法覚えたもん!」


 輪唱魔法とは、魔法使いのスキルの一つだ。スキルとして発動すると、その後で使う魔法を3回から5回追加で放ってくれるスキルだ。でも使用する分の魔力は消費するので、使用には注意が必要だ。

 一度にいくつも自分で魔法を生み出せるから、正直あんま使えるスキルじゃないと思うんだけどね。ゲームと現実の違いが微妙にこういったスキルの存在を否定してくるのが面白い。


「絶対にどこかで訓練してるわよね……」


 チュートリアルダンジョンのことは秘密だ。あそこのおかげで尋常じゃない量のJOB経験値が入手できているので、僕の成長はうなぎ登りである。


「またダンジョン行きたいなー」

「冬は寒いから遠出は無理ね」

「ダンジョンの中はあったかいんでしょ?」

「ダンジョンに行くまでが問題よ。冬場は食べ物が少ないから魔物が狂暴化していることがあるの」

「そ、そうなんだ……怖いね」


 ゲームには地域ごとに気温や天候の変動描写はあったけど、季節の移り変わりで魔物の行動が変わるなんて聞いたことがなかった。

 でもそうよね、魔物といっても普通に生き物だもんね。季節ごとに行動が変わるのは不思議ではない。


「ダンジョンに向かう先の森にはウルフ系の魔物が一番多いの。冬場になると効率的に狩りをするようになり、群れが大きくなるのよね」

「冬に群れが大きくなるんだ……」


 動物の習性はよくわかんないけど、狼系の魔物がいっぱいいた事件に遭遇したことがある。相手の手の届かないところから攻撃しまくったから何とかなったけど、森みたいに遮蔽物がある場所で囲まれるのはしんどい。


「千早だけじゃキツいの?」

「勝てるか勝てないで言えば勝てるわ。でもあたしは若様の護衛だからね」

「あー、危ないところにはいかせられないってことかー」

「そういうことよ」


 ファンタジー的な小説では、貴族の子に転生した主人公が無双する作品を見かけるが、実際に貴族の子に転生した僕に自由気ままにできるなんてことはない。

 今年に入るまで屋敷の外に出ることはなかったし、常に誰かが身辺に控えているのだ、人目にさらされる以上、あまり常識外のことはできない。

 例外があるとしたら、お兄ちゃんのつながりで王子様がうちの領に来た時くらいだった。あの時は僕よりも王子様の身を優先していたから、千早や千草も含めた使用人達の手が足りず、僕が放置気味にされていたのである。

 もうちょい一人の時間が欲しいところである。






 そんな愚痴をこぼしている僕だけど、一人になれる時間もある。

 そう、寝る前だ。

 子供ボディな僕の体はベッドに入るとすぐに眠くなってしまうので、毎回抜け出せるわけではないが、昼間にお昼寝を頑張れば起きてられないことはない。

幸いなことに僕には魔法がある。屋敷内の人間の現在位置や状態を確認することができるのだ。いわゆる探知魔法と呼ばれるものである。

 ゲームでは使った記憶がないこの魔法だが、なかなかどうして優秀だ。

 屋敷の中を確認する。僕の部屋の横には千早と千草の部屋だ。二人とも寝付いているのが確認できる。

 お父さんとお母さんもお休み中だ。時たま子供が気付いてはいけない状態になっている時もあるので注意が必要である……弟か妹、どっちだろうね。

 同じく屋敷の一階、客間には僕の教育係のクレンディル先生。彼は起きて机に向かっている。たぶん軍盤中だ。軍盤をしているときの先生は声を掛けられない限りは、部屋からでることはない。問題なし。

 他の使用人たち、中心人物の執事兼騎士のレドリックは一階。これまた寝ている様子だ。シンシアにマオリーにファラ、ロドリゲスは使用人棟だ。そっちにいる。ファラとロドリゲスは起きているみたいだけど、さすがに別の建物だから無視していい。


「よし、今日は行けるな」


 起きている人がいると、夜中に出かけるのが難しい。この屋敷の人間は職業持ちが多くいて、人の気配に敏感なのだ。

 特にシンシアは人探知関連の専門的な職で、スキルも多く持っている。危険なので注意が必要である。


「ゲート」


 空間魔法を使い、授職の間の中に出る。最近のことだけど、空間魔法のレベルが上がったからか、ダンジョンである授職の間にまで転移できるようになったのだ。とても便利。

 でも奥までは飛べない。まだまだレベルが足りないのか、それとも空間系の属性結晶の吸収数が足りないのか。できればそこまで飛べるようになりたい。

 いつものように壁にあるレンガを動かし、隠し扉を開く。薄暗いけど壁が淡く光る通路を通り、運動場のような場所。チュートリアルダンジョンに到達だ。


「ただいまっと」


 誰かに言うまでもなくつぶやいて、いつものように属性結晶と属性矢を回収。収納魔法にしまう前に属性結晶の吸収を試みるが、できなかった。

 仕方ないので全部収納にしまう。

 属性結晶や属性矢はゲームでも登場したアイテムだ。

 属性結晶で自分の得意な属性を決めて、覚える魔法の方向性を決める。属性矢は単純に属性の矢だ。

 以前は武具も回収してたけど、最近は回収していない。同じ短剣やら剣なんかを何百本も持ってどうする気だって話だもん。


「経験値もうまうま」


 ゲームと同じで、魔物を倒すと経験値的なものが手に入る。これは体に取り込まれるもので、手に入るとなんとなく体で感じる。


「レベルもそれなりにあがってると思うんだけどなー」


 ゲームのようにステータスを確認できればいいんだけど、そんな便利なシステムは存在していない。JOBがカンストしたらなんとなくわかる程度だ。

 しっかり覚えているわけではないが、一次職のJOBをカンストというか二次職に転職できるようになるのはレベルが20から25くらいだったはず。

 僕は既に魔術師のJOBをカンストしているので、レベルもそのくらいになっていると思っている。


「でもなんか、すっごい強くなっている感じはしないんだよなー」


 僕くらいの子供は普通に考えて魔物を倒さないのでレベル1だろう。そういった子供と比較するなら、とてつもなくレベルが高いはず。たとえ素手でも、そこらの雑魚敵はワンパンで倒せるくらいの実力が備わっていてもおかしくない。


「子供補正か、それとも単純にレベルがそんなに上がっていないか……」


 何かを殴ったり、攻撃したりしたことはないけど、とんでもなく力が上がっていたりするとかそんな感じはしない。

 動き回っても簡単に疲れなかったり、子供の体では考えられないアクロバティックな動きができるようになっているけど、なんというか、人の範疇を超えた力は持っていない気がする。


「一応炎の絨毯を敷きなおしておこうかな」


 ここはチュートリアルダンジョンだ『ユージンの奇跡』で、最初にJOBを貰うことのできる場所でもある。

 チュートリアルの時にJOBがあがったり、最初の戦闘を行う場所でもある。戦闘があるということは、魔物がいるのだ。

 その魔物はダンジョンだからか、無限に湧き上がる。しかも常に一定の動きで、反撃もしてこない。移動する場所に継続ダメージを与える魔法の罠を設置しておけば、次来た時にそれまで倒した魔物の経験値が手に入るっていう素敵な場所だ。


「こんなもんかな?」


 やることをやったらサクサクと戻る。夜中なので、万が一見回りがきて僕がいないのに気づかれたら問題だ。

 それと明日の朝起きれずに、怒られてしまうこともある。どちらかといえばそれが怖い。

 屋敷内でお父さんが起きてたり、マオリーが起きてたりするとこれないので、毎日ここにこれるわけではないけど、できれば毎日きたいなぁ。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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