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油断できない二人

「ではビッシュ様、ジルベール君。失礼いたします」

「ああ、ご苦労だった。チハヤ、お見送りを」

「はい」


 ジェニファーさんを連れて、チハヤが部屋を出る。


「ふう、それなりに話したな。チグサ、熱いお茶を用意してもらえるか?」

「畏まりました」


 おじさんに言われて千草も部屋から出ていった。


「さてジルベール、座りなさい」

「座ってるよ?」

「……私の対面に座りなさい」

「はぁい」


 おじさんの隣にいた僕だけど、ジェニファーさんが座っていた席に移動する。


「ジルベール、チハヤとチグサに心を許すな。あれは王家から送られてきたスパイなのだから」

「契約内容はそれなりに読み込んだけど、やっぱりそんな感じなの?」

「ああ、最近のお前はあの二人にかなり依存しているように見える。アーカム達は地方領主で、しかも政界から離れていたから危機感は持っていないが、あの二人から教育を受けるということは、王家からの意向をお前に植え付けている可能性もある」

「植え付ける?」

「教育と称して、お前の思考を王家よりに誘導しているということだ」

「んー、そんな印象は受けないけど」


 思考や思想に関しての影響力は、どちらかといえばクレンディル先生の方が高くない? とはいえ何十年も日本で生きた僕の常識を塗り替えるほどのものではないけど。


「事実、お前は賢者ではなく錬金術師を目指したいと言った。ジルベールカードという商品の開発により金を得たお前が、更なる力を持たないようにするための誘導ではないか?」

「僕が錬金術師を目指してたのは、千早や千草と会う前からだよ。おじさんには申し訳ないけど」

「そうだったのか?」

「うん」


 賢者にもなるし、錬金術師にもなるし。なんなら錬金術師の上のビルダーにもなりたい。

 勇者以外の職業の書は人が作れるものだから、僕はなれるだけの職業に就くつもりだ。アサシンとかは微妙だけど、あれで結構素早さと器用度が高いからなー。


「アーカムは、いや、クレンディルか。一体どういう教育を……」

「あのねおじさん。普通、僕の年齢で職業を固定するっておかしいことだからね?」

「そういわれると……そうかもしれんが」


 普通の子供は現段階で職業なんて持ってないのだ。今の段階で職業の書による職業の固定するのは普通じゃない。代々騎士の家系で他の職に絶対にさせない的な厳しい親がいる家庭とか、そもそも職業の書が一つしか用意できないような家庭くらいだろう。


「そう言えば話が途中で止まってしまったが、結局お前はなんで錬金術師になりたいんだ?

「作りたい物があるからー」

「だからポーション類なら錬金術師に注文すればいいではないか。見せただろう?」

「素材から拘りたいので」

「……どちらにせよ、そこまで必要になるとは思わんな。アーカムの息子であるお前は領主候補だ」

「お兄ちゃんがいるもん」

「その兄は殿下の護衛職だ。このままいけば領には代理を置き、殿下の護衛騎士として国の中枢に残る。その時の代理はお前の父であるアーカムか、お前になるのだぞ? ポーションなど作っている暇があると思うか?」

「それを言ったら賢者もじゃない?」

「領主には強さも必要だ。領民を守る騎士や兵士達の頂点にいるのだからな。強く信頼できる者がいればそれだけで領民は安心するものだ」

「職を持ってない代官にこの間会ったけど」

「あそこは特殊だ。半端に鍛えた程度の人族では、倍以上の寿命をもつエルフの能力を超える事はできん。だからトップには戦闘力よりも統治能力が求められる。もちろん両方持っていることが理想だがな」


 ああ言えばこういうって感じだなぁ。おじさんからの真面目に話を聞いていると、部屋から離れた位置からどんがらがっしゃんきゃーの音と悲鳴。

 千草、またなんかやったっぽい。おじさんの顔が更に険しくなる。


「……どちらにせよ、チハヤとチグサは部外者だ。契約上お前から離れることはないが、王家が一言いえば連中はお前から引きはがされる。その時に重要な情報が彼女達に渡っていれば、アーカム領やお前の内情は筒抜けになる。くれぐれも注意しなさい」

「はぁい」


 そう考えると、確かに危ないかもしれない。千草なんかは属性結晶で能力ブーストまでもうしちゃったし。






 おじさんのいう事はもっともだ。二人は国有奴隷。最終的には王家の持ち物なのだから。

 人を持ち物扱いするのは嫌だなぁ。


「でもそんなときはこれ」


 そう言って僕が手に取ったのは、隷属魔法に関する資料が書かれた本。この隠し錬金部屋に置いてある本の中には、そういった本もあるのである。


「悪の組織的な連中も、隷属魔法をつかうものね」


 そうなのである。国では個人で奴隷を所持することは認められないが、人を奴隷化する技術は存在するのだ。

 逆に、それに対抗する技術も。犯罪者や裏組織的な存在が、人をさらったり騙したりして奴隷化することがあるのである。

 そんな違法行為によって、奴隷化された人間を救済する技術が存在しないわけがない。

『ユージンの奇跡』にもそういった事件があった。

 もちろんRPGの主人公である彼らはその事件を無事解決。襲い掛かってきた違法奴隷達をご都合主義的に殺さずに確保をし、その奴隷化された人々を解放したのである。

 騎士職の仲間でゲーム内における常識人キャラ。貴族でもあったバルムンクを中心としたストーリーだった。


「主人公達の目線では、無事に人々を解放したってことしか出てなかったけど、解放ができるってことは確定しているんだよね」


 そういった犯罪に対抗する組織は、国であり領主のような貴族である。この屋敷にある蔵書には、奴隷関連の本もあるのだ。隠された錬金部屋の本棚に、そういった本が存在するのである。


「ふむふむ、隷属化を行うには隷属させたい対象の血液を利用した錬金素材を使い……」


 ところどころ意味の分からない単語が出てくるが、前後の文章と比較して読み込んでいけば、内容は理解できる。

 そもそも奴隷というのは、錬金術師の作った隷属用の錬成液を使い、神官以上の職を持つ人間がその人間に処理を行うようだ。

 同じような過程で隷属化した人間の、隷属相手の書き換えを行ったりもするらしい。

 それを行うには、処理した時に使った錬成液よりもより強力な錬成液の作成が必要らしい。

 隷属化の解除には解除液が必要だ。解除液は錬金術師が作成するそうだけど、解除を行うのは神官職ではなく魔法使いか賢者のようだ。


「千早と千草の隷属化の解除は、この解除液さえつくれればできそうね」


 国有奴隷である彼女達の主は国だから、勝手に解除したら問題になりそう。

 かといって、彼女達の主を僕に変更するのも問題だ。個人で奴隷を持つことは許されていない。ゲーム時代には奴隷と言う存在が敵味方問わずでてきていたから、その後に作られた法であると思われる。


「ふむふむ」


 ページをめくっていくと、更に隷属関連の技術。

 これは隷属化を解除せず、主からの命令に逆らうことができるようにするもの。なんでこんな技術があるか分からないけど、主からの締め付けを緩くしたり失くしたりできるらしい。それって奴隷じゃなくない? って思ったけど、隷属化は残っているらしい。なんでこんなものがあるの? とか思ったね。

 逆に隷属内容を強化させたり、自由を完全に奪って行動を制限させるようなものまで。この辺は犯罪者以外に使用してはならないと何度も書いてあった。

 隷属関連の資料、ものすごく細かいし他の錬金術の本よりもかなり書き込まれている。かなり研究されているな。


「うーん、とりあえず分からない単語やゲームでもでてこなかった素材が多くて手が出せないなぁ」


 千早と千草の王家への隷属命令のみを解除して隷属状態を継続させる。僕への命令権を書き込むと犯罪になってしまうので、それはやらない。

 とにかく、千早と千草を一度自由にするのがいい気がする。そのうえで現状維持にするのが一番いいかな? でも隷属状態を解除しちゃったら、二人はどっかに行ってしまうかな?


「……まあ人間自由が一番だよね」


 提出された資料では千早は自分の親を殺したとあった。でもこれは当時仕えていた姫様とも相談をして、千早なりに覚悟を決めて実施したことらしいことは分かっている。

 千草を守るため、そう証言しているし周りもフォローしていたようだ。

 姫様に仕えていた期間もそれなりに長くて、王家の他の面々も彼女のことは信用していたらしいし。

 ……千草はどう思ってるんだろうね?


「千早が周りを恨んでいる様子はないし、千草と関係が悪いようにも見えないし」


 千早のおかげで千草も助かったっていうのは僕でも理解できるけど、かといって千草がそのことをどう考えているのかは分からない。

 非常にデリケートな問題だ。

 なんだかんだ言って、まだ千早と千草との付き合いは長くない。

 四六時中一緒にいるから、二人がそんな危ない人じゃないのは分かっているけど。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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