乗馬訓練……体験?
「背中はこっちに傾けてていいのよ? でも一人で乗る時は背筋を伸ばさないとダメね? お馬さんも体の中心に重心が来た方が歩きやすいから」
「はぁい」
というわけで、屋敷からお出かけして兵士の訓練場に来ております。
今は訓練とかしている訳じゃない時間なのか、人も少ないです。そんななかカッポカッポとお馬さんを歩かせるお母さんと、その前に抱えられている僕。
当然のように勝者はお母さんでした。騎乗衣姿もりりしいですお母様。
「たのしい?」
「うん。思ってたより楽しい、かも」
お母さんが馬に先に乗って、お父さんが台に乗って僕をお母さんに渡し、そのまま訓練場を一周のコースだ。乗馬なんか前世でもしたことがなかったけど、これがなかなか快適である。
「でも、訓練場なんだね? 広いけど、走れないよね?」
草原的なところでやるのかと思った。
「ここならすぐ近くにお馬さんがいるもの。そのお馬さんも慣れている場所だしね」
「広い場所で自由に走れないと、馬も不満に思いますから」
追加で教えてくれるのはシンシアだ。お母さんのデザインと似たような騎乗服を着て、何故か並走している。
「広いところって?」
「街の外になりますね。街中で馬を走らせてはいけませんから」
「そうねぇ。それに街の外となると遠いし出るのもひと手間ですもの」
街の周りは魔物対策で高い壁が立っているものね、万里の長城的なやつ。それっぽい扉もあるから、出入りをするにも手続きがいるっぽいし。
「寒くない?」
「大丈夫だよー」
もうすっかり冬の季節だ。確かに冷たい風が吹いているけど、あったかい格好だ。顔と手が冷たい。
ちなみに手袋はものが握れなくなるらしいから付けていない。
「でも、さすがに乗馬の訓練は無理ねぇ」
「ですね。お一人で乗せるのはさすがに危ないですし」
「そもそも一人じゃ乗れないよ……」
台じゃなくて梯子が欲しいくらいだ。その上で馬に移動するとなると大変である。落馬して怪我をしたなんて話も聞いたことがあるし。
「ジルベール様では軽すぎて馬も乗せてることを忘れそうですね。落馬の危険もありますし、やはりまだ早いですね」
一人じゃ乗れない理由がポンポンでてくるなぁ。
「もう一周しま」
「ジル様、そろそろシンシアとも乗りましょう。色んな人と乗っておいた方がいいですからね」
「うえ? あ? え? うん」
「もう、いいわよ。アーカムのところに行きましょ」
お母さんとシンシアが馬を歩かせ、お父さんを挟んで止まる。
「はい、あなた」
「ああ」
「旦那様、ジルベール様をこちらに」
「う、うむ」
お父さんが完全に橋渡し役になってしまっている。そのままお母さんは、お父さんの手を借りて抱き留められるように馬を降りた。
「ありがとう」
「いや、大丈夫だ」
「では次はあたしが」
「「 いつの間に!? 」」
さっきまでお母さんが乗っていた馬にシンシアが乗っていた。遠目で見てた僕も驚きましたよ。
そしてお母さんのときと一緒で、シンシアに背を預けながら一周。そして次は千早の番だ。
「早足で走ってみますから、あたしにぎゅっとくっついてくださいね」
「はぁい」
さっきまでと違い、背中を預けるのではなく子猿のように千早のお腹に抱き着く。
「その手がありましたかっ」
「千早ちゃん、意外と抜け目ないわね」
「姉さんズルぃ」
さすがに前が見えない状態でこの速度で運ばれるのは、風を感じて怖いね。




