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クリスタ嬢の(赤貧時代の)話

「千早は敵を抑えるのも板について来たな」

「侍には盾のスキルはありませんが、戦士のスキルで対応できますから。久しぶりだったので戸惑いましたが」

「そのようだな。だが普段は使わないスキルでも、ある程度慣らしておく必要があるぞ。特に盾は護衛にとっては必須アイテムだからな」

「……伯爵も持ち歩いてないですよね。護衛中の騎士職なのに」

「はっはっはっはっ」

「もう」


 日も明けて翌日。今日もエレメンタルウッドマンを倒しまくった。

 この街ではエレメンタルウッドマンは倒せば倒せるだけ喜ばれる。単純にイービル=ユグドラシルの対策というだけでなく、エレメンタルウッドマンから入手できる素材がこの街の財源になるからだ。

 前衛である千早とウェッジ伯爵の二人が戦闘後の反省会をしながら歩いている。

 そういえば近衛兵なのに、殿下と一緒にいた時でもこの人盾持ってなかったね。


「どうだ? 強敵と戦った手ごたえは」

「引率込みだからなんとも」


 おじさんの質問に、僕としてももっときっちり答えてあげたいが、戦った感触はどうかと言われても困る。

 結局のところ、戦闘中は後方から魔法を撃ちまくっているだけだ。訓練で的に攻撃をするのと大きな違いはないのである。まあウェッジ伯爵と千早がしっかりと魔物から僕達を守っていたからこその感想ではあるけど。


「ははは、それでよいのだ。我々後衛はいかに魔物に攻撃されず相手を倒すかが仕事だからな」


 パーティプレイ前提職なんだね。まあ命がかかってるから当たり前なのかも? というかそういう場所に連れて来られている今の状態って結構危ない感じに見えるけど。


「そうですね。ジル様はお体もまだ小さいですから、魔物と直接相対するような戦いは経験されるには早いでしょうし」

「あ、やっぱりそういうのあるの?」


 クリスタさんも後衛だ。でも直接戦うような場面に会ったことがありそう。


「ダンジョンとかだとたまにありますね。後衛の後ろから敵が突然現れたり、前衛が突破されて後衛に敵が迫ってきたり。そういうものがあると心がけていないと、咄嗟の時に体が動かせなかったりします」

「わー」


 怖そう。


「心構えだけでは動けぬ者もおるな。知恵の回る魔物の中には、こちらを観察してくる魔物もいる。オルト領にいたコボルド達の上位種なんかがその典型だ。動きも素早い上に数も多く、指揮能力のある個体が率いていたりするとかなりの数が前衛を突破してくるぞ」

「えぇ……おじさんはどうしたの?」


 参考までに聞いておこう。


「まず、そういった手合いが相手であると全員が認識する必要がある。コボルドの時は前衛だけで戦わせて、後衛には回避や防御に長けた弓を扱える職を配置し、オレのようなタイプの魔法職はギリギリまで姿を隠していた」

「ふむふむ」


 なるほど、そもそも相手に見つからないようにしていたのか。


「そして斥候職の人間にこちらの動きを監視している敵がいないか調べさせ、いた場合は排除させた。それを確認した後、前衛に号令をかけて敵の動きをコントロールし、まとめて片付けたのだ」

「うわー」


 ようは目撃者をすべて消すスタンスだ。


「相手にオレのような広域魔法の使い手がいないと、単純に正面から戦わせて全滅させたと思わせるわけだな」

「それって戦力差がないと成り立たないよね……あと前衛の人らが大変そう」

「むろん、前衛にも怪我人はでるな。司祭系の回復職も後方に退避させるからな」


 戦闘中に回復ってなかなか難しいのかな? ゲームだと戦いながら回復魔法がバンバン飛んでたけど。


「前もって敵の情報を得てなければできぬがな。突発的な戦闘は……正直あまり経験がないな。オレは魔法師団の人間だからな」


 おじさんはいったいどこでJOBを上げたのだろうか。


「そうですね。冒険者のように未開の地や魔物の領域を少人数で動く場合でも、突発的な戦闘はあまり多くないです。というか、そんな事態が起きたら全滅の可能性がありますから、極力その可能性は潰します」


 クリスタさんはどうにも、冒険者目線の人だ。そっち方面で活動が長いのかな?


「魔物にも生息域がありますし、新しいダンジョンでもなければある程度情報は調べられますから。人はどうしても単独では魔物よりも弱い存在なので、知恵と情報で少しでも有利を取らないといけないんですよね」

「そうだな。クリスタ嬢の言う通りだ」

「あ、ありがとうございます」


 おじさんが家族以外を褒めるって結構レアな光景だなー。ウェッジ伯爵にはいつも冷たい感じだし。


「斥候役に任せがちになる人間も多い。だが魔物の情報は極力パーティで共有しておいた方が良い」

「酒場であのダンジョンにはドラゴンが、などと与太話を聞いたら本当にドラゴンがいた、なんてことが一度ありました……若いアースドラゴンでしたけど、あの時は死ぬかと思いました……」

「亜竜ではなく、本物のドラゴンだったのか」

「はい、幸い細い横穴にみんなで逃げ込みましたので。でも逃げ込んだ先がキラーセンチピードの巣で」

「なんとまぁ……」

「散々でしたね。何とか逃げ延びたと思ったら、今度はアースドラゴンの発見現場までの案内の指名依頼が来たり、その地の領主様への説明に同行させられたり」

「ふふ、クリスタ様はまるで本物の冒険者のようですね」


 うん、千草の言う通りだ。


「魔法師団への内定が貰えなかったですし! 貴族院での成績も良くなかったので仕方なく、です!」


 やりたくてやってた訳じゃなさそうね。うーん、本格的にストーリーが始まったら僕もそんな冒険に巻き込まれるのだろうか。油断できないじゃないか。

 でもそんな成績が良くなかったって大声で言わない方がいいよ? おじさんが黒いキラキラ笑みを浮かべてるから。






「クリスタ様は冒険者としても活躍なさってたのね! 女性なのにすごいわ!」

「いや、えーっと、そのぅ」

「どんな冒険をなさったの!? ドラゴンの話を聞きたいわ!」


 屋敷に戻り、まったりとしてたらドラゴンの話がぽろっと出てしまった。結果、チェイムちゃんによって呼び出されるのはクリスタさんである。

 うん、ごめんね?


「でも僕も聞きたい」

「ジル様まで、そんないいお話じゃないですよ。大変だったっていうだけなんですから」


 慌てて呼び出されたのに、きっちり淡い若草色のドレスを着こなしてきた辺り、この人も貴族に名を連ねる人だ。

 細身の体に似合っている、品のある美しさを感じるドレスだ。護衛なのにこういうのも準備してたんだね。


「それにお二人はそれぞれ、伯爵家の跡取り候補と子爵家の跡取りですよ? あまり冒険のお話に目を輝かせてはいけません」


 そんなことをクリスタさんが言う。そうなの?


「まあまあ、そんなことを仰らずに教えてくださいまし」

「あ、あたしが淑女らしからぬという部分を暴露するだけになるのですけど」


 チェイムちゃんのお母さんであるラーナスさんも興味があるようだ。


「私も少し気になるわ。クリスタちゃんは魔法兵としても活躍してるし」

「ミレニア様まで! それに冒険の逸話ならミレニア様の方がいっぱい持っていらっしゃるんじゃないですか?」

「私のはだって、旦那とのお話になっちゃうもの」


 そう言って頬を抑えて頭を振るお母さん。ただの惚気話になっちゃうのね?


「ミレニア様のお話も気になるけどドラゴンが知りたいわ! 大きいの!? 強いの!?」

「え、ええ。大きさは、そうですね、この街の石の土台の家くらいでしょうか……」


 でかいやん! 若いアースドラゴンって言ってたけど!


「すごいわ! 聖獣様よりも大きいのね!」

「それに手足も大きくて、太い爪がありました。顔も牙が並んでて、とても怖かったです」

「きゃあ!」


 ゲームにいたアースドラゴンはどんなだったかなぁ。


「ダンジョンに、正確にはダンジョンに繋がる洞窟がアースドラゴンの巣穴に繋がったら現れたようでした。天然の洞窟の半分はアースドラゴンの巣や元住処だと言われてますから、もしかしたらダンジョンのあった洞窟も元々はアースドラゴンの住処だったかもしれないですね」

「そうなのね!? この辺に洞窟もダンジョンもないから行ったことないのよね」

「行かない方がいいですよ? 暗くてジメジメしてて、怖いところですから」


 確かに洞窟ってそういうイメージだよね。


「……クリスタ様はなんでそんな怖いところに行ったの? ふしぎだわ」

「あはははは」


 空笑いが返ってきたし。


「自分の杖の触媒を取りに行ってたんです。学校の授業で支給された杖ではどうしても他の生徒達と差がつかないのですから」

「杖の触媒?」

「杖を鍛冶師に作って貰う為に、材料を取りに行ってたんです。千草さん、杖をお借りしてもよろしいですか?」

「あ、はい。こちらになります」


 千草は転んで怪我をすることが多いから、片手で扱える短い杖を常に携帯しているんだよね。それを出してくれた。


「この杖の指の当たる部分についている赤い石が分かりますか? これは司祭用の治癒力を高める石ですけど、魔術師や魔法使いの場合は、威力を高める石や、より遠くに魔法を飛ばせるようになる青い石や黄色い石を嵌めるんです。その洞窟のダンジョンでは、その石が取れるときがあるので、魔術師の職に就いている人間に人気のあるダンジョンなんですよ」

「そうなのね」

「はい、買ってもいいんですけど、取れる位置にあるとなると、自分で取りに行きたくなるじゃないですか」

「分かるわ!」

「それで取りにいったんです。そしてダンジョン内で目的の物を確保して、その帰り道にドラゴンに遭遇しました」

「おおー」


 意外と話上手だ!


「……アースドラゴンだったから良かったですけど、洞窟に住むドラゴンの中にはブレスを噴くドラゴンや、亜竜がいる場合もあります。もし炎やブレスを噴くタイプのドラゴンだったら、あたしは死んでいたかもしれないですね」


 翼のない火竜、ブレイズドラゴンや単純な破壊エネルギーを放つゼーネルドラゴン。 亜竜だと毒を放つパープルドラゴンとか、泥を吐くドロドロゴーランなんかだ。


「アースドラゴンも、咆哮って攻撃があるよね?」


 ゲームだと咆哮を浴びて抵抗に失敗したら、一時的に麻痺みたいになるんだよね。状態異常ってやつだ。


「ジル様は良くご存じですね。実はあたしも咆哮にやられまして、仲間に抱えられて難を逃れました」


 あー、コマンドバトルのゲームと違って行動や防御以外の行動がとれるのか。


「力自慢の仲間があたしを、こう、荷物のように持ってですね……ふふ、淑女にしていい行動じゃないですね」

「でもそのおかげで助かったのね!」

「そうですね。横穴になんとか逃げ込んで、体制を整えました。でも横穴にも別の魔物がいて、その魔物を倒さなければならなくなりました」

「ピンチだわ! たいへん!」


 チェイムちゃんは聞き上手だなぁ。


「慌てて逃げ込んだので隊列もなく、本来敵を抑えるべき前衛はあたしを抱えていたので一番後ろにいました。しかし横穴から下がりすぎるとアースドラゴンの爪が届いてしまいます」


 実際すごい危機的な状況だよね。アースドラゴンは地面を掘れるドラゴンだから、向こうが追ってくる気だったら、穴を広げてくるだろうし。


「それでもなんとか魔物に対応して、その魔物をアースドラゴンに投げつけました。餌の代わりにでもなってくれればなって」


 おおー。


「幸いにして、アースドラゴンはそっちの魔物に気を取られました。魔物の中には死んでいなかった個体もいたので、そいつが逃げ回ってアースドラゴンの気を引いてくれたんです」


 えっと、キラーセンチピードって言ってたよね。たしか大きい百足の魔物。

 え、あれ投げたん?


「幸いアースドラゴンはダンジョン側に、洞窟の奥に向かってくれたので、あたし達はしばらくそこで休憩をして、アースドラゴンの気配が遠のいてから外に走りました」

「倒せなかったのね!?」

「倒せませんよ? 近くの街に走りこんで、すぐに応援を呼びました」

「応援?」

「はい、ダンジョンの中には他にも冒険者や探検家がいましたから。彼らはアースドラゴンのせいでダンジョンに閉じ込められてしまいますもの」

「大変じゃない!」


 チェイムちゃんが思わず立ち上がった。


「はい、ですので応援の手配です。すぐに街の代官から領主様に話が行き、領主様と代官が騎士団と上級冒険者を率いて討伐に向かいました」

「りょ、領主様に代官まで? 代官って戦うの? うちのパパ、お父様じゃ無理よ?」


 あー、JOB持ってない人だもんね。


「もちろん、戦える自信がある方だからだと思います。ですがドルベルン様も、戦うお力がなくても戦う場に出られるでしょうね。エレメンタルウッドマンの討伐現場の視察を何度も行っていると聞いておりますので。お父様は立派な方ですね」

「ええ! だってチェイムのお父様だもん!」


 これにはチェイムちゃんだけでなく、ラーナスさんもにっこりだ。


「そして領主様や代官達の活躍により、アースドラゴンは無事に討伐されました」


 アースドラゴンとの戦いの話は省略らしい。戦いの場には参加しなかったのかな?


「まあ、若いアースドラゴン程度ならそんなに被害も出なかったかしら?」


 お母さん、程度って言ってるけどさ、ドラゴン種ってユージンの奇跡でもボスクラスの魔物ですよ?

クリスタが冒険者として活動していたのは、ぶっちゃけお金のため

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おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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