チームワーク
「すみません、そろそろ魔力がキツいです」
「分かった、休憩にしよう」
何度も討伐を繰り返していると、クリスタさんがストップをかけた。
「他のチームのうち漏らしはほとんどありませんが、森林の奥地からエレメンタルウッドマンが出てくる可能性があります。少し離れましょう」
案内役の指示に従って、僕達は後方に移動だ。
魔力がキツいと言っているクリスタさんだけど、その足取りはしっかりしている。
「ジルベール様、以前のような体調不良にはなっていませんか?」
「はえ? あ、うん。大丈夫大丈夫」
「それなら良かったです。ですが同様の症状が出たらすぐに言ってくださいね? クリスタ様のように、自分の状態をはっきり言うのもチームワークですから」
「チーム、うん!」
シンシアが僕の手を取って歩き出したので、それに合わせて歩く。素早く逆側に千草がつき、後ろに千早がくる。
「はは、護衛の鑑だな」
「お前はオレの護衛だと忘れてないか?」
ハルバードを地面に突き刺して、のっそのっそとついてくるウェッジ伯爵。帯剣してるとはいえ、武器をほっぽっていいの?
「ここは戦う相手をコントロールできるから楽でいいな。複数の敵に囲まれる心配がないのが特にいい」
「魔法で倒せるのも楽でいい」
おじさんとウェッジさんが結局横並びになって歩き出す。
「千早は大丈夫だった?」
なんだかんだ言って、大きい盾で相手の攻撃を受ける千早は少し心配だ。
盾で上手に受けてると思うけど、なんだかんだ言って千早の倍以上の大きさの大木にぶん殴られたり魔法を当てられたりしてるからね。
「流石に叩きすぎたわ。手が少し痺れてるわね」
「あ、そっちなんだ」
盾を持っている手ではなくて、メイスで殴ってる手が心配なんだ?
「あの盾には人面アイリスのメダルが使われてるから、植物系の魔物から身を守る効果があるのよ」
「人面アイリス……見たことないや」
確か花の魔物だ。紫色の花の部分に目玉が付いてる奴。
メダルは魔物のドロップ品だ。ゲームだと魔物を倒した時に低確率で拾えるアイテムで、これをメダリオン化という錬金術の手法で錬成することによって、武具に付けることで様々な効果を発動させることのできるアイテムに変えるのだ。
一つの装備にメダルは一つが基本だが、たまにメダルを複数付けられる装備を入手することがある。
メダルは付け替えが可能だが、たまーに壊れるので一応消耗品である。
「この辺りの魔物ではないですからね。北にある植物系の魔物が多いダンジョンにいる魔物ですよ」
「そっかー」
「ジルベール、お前の杖もメダリオンが付いているぞ?」
「え? そうなの?」
知らなかった。この杖、ゲームでも使った記憶がないから分からないんだよね。
「その杖には魔力回復力を向上させるメダルが装着されているぞ。だからクリスタ嬢よりも魔力がなくならないのだ」
「そんな効果があったんだ」
チュートリアルダンジョンで入手できる杖や魔導書よりはいいものだろうなって思ってたけど、それなりに良い物だったらしい。
「どんな魔物の?」
「マッスルピッグのメダルだ」
「は?」
「マッスルピッグ、筋骨隆々で2メートルくらいのサイズの二足歩行の豚だ。足が速いし、太い腕で攻撃をしかけてくる厄介な魔物のメダルだ」
「ち、力が上がりそうな魔物なのにね」
「ああ、全く関連性はないのだが……実際そういう効果があるのだよ」
ゲームでもなんでこいつがこんな効果を? って思ってたのが多かったけど、現実でもそのようだ。
しかしやっぱりステータスやら鑑定的な技がないのは不便だなー。こういったアイテムの情報が僕には知識でしかないうえにうろ覚えだ。実際にその効果を実感してみないことには全然理解ができない。
「本当だよな。それを専属に研究してる賢者もいるんだっけ?」
「いた、が正確だな。『法則もなにもない、そういうものであろう』との結論付けをしたそうだ。まあ研究過程ででた『どの魔物のメダルにどのような効果があったかの観測記録』に関しては素晴らしいものだった。その方も初めからそっちの研究をしておけば良かったと後悔なさっていたよ」
そっか、アイテムや武具の効果は一つ一つ調べないといけないのか。ゲーム時代はイベントリや装備画面で確認すれば効果が分かったけど、そうはいかないよね。
「メダリオン化した錬金術師が理解できるタイプの効果であれば、錬金術師はなんとなくわかるそうなんだがな?」
「そうなんだ?」
なんとなくとか曖昧だけど、全く分からないよりかはいいね。
「だが……そうだな、例えばスライム系統にダメージ増加のメダリオンができたとしよう。だがそれを作成した錬金術師が実際にはスライムを見た事無く、名前くらいしか知らなければ効果は分からないそうだ」
「そうなんだね……」
理解って、そういうことね。
「うむ、つまり本人の知識に無いものは不明になるということだな」
「知らんものの知識がどこからともなく降って湧くわけじゃねえもんなぁ」
うん、それはそうよね。
「さあ、おしゃべりはここまでにしてきちんと休憩をいたしましょう。休むのも大事なことですからね」
シンシアに連れられて、他の兵士達や騎士達も休憩している場所についた。
簡単だが机やテーブルが並べられている。
僕達のところだけテーブルクロスが敷かれていた。たぶん準備をしてくれてたんだろうな。
「「「 ファイヤーボルト 」」」
何度目か分からないが、とにかくエレメンタルウッドマンを倒しまくる。しっかりと弱点を調べているとはいえ、こんなに弱かったっけ? て思える手ごたえだ。
荷台の上にはエレメンタルウッドマンの死体が山のようになっている。荷台大丈夫?
「それにしても、すごい戦果ですね」
「そうだな。思っていた以上に倒せている」
「闇やら影やらの弱点が曖昧な個体があんま出てないからなー」
ウェッジ伯爵の言う通り、そういう厄介な個体が多くないのがすごく大きい。闇がでてきても、千草が弱体化させてウェッジ伯爵と千早がゴリ押しで叩き伏せるのだ。
その上から僕達が、効きめが薄いなりにアースボルトを放っているのでなんだかんだ言って安定して倒せている。
湧きのコントロールできるダンジョンで戦ってるみたいだ。まあダンジョンじゃないからJOBは稼げないけど。
「魔力の最大値が、目に見えて変わった気がします」
「うん。魔法の発動も早くなった気がする」
「心なしか、強くなった気がします」
クリスタ嬢、僕、千草はたぶん元々のレベルが低かったのだろう。それなりに上がったんじゃないかな?
「あんまり変わらなかったですね」
「まあ我々はしょうがないでしょう」
「お前達が強くなれたのなら問題ないさ」
というのは大人組。すでにある程度成長しきっているのだろう。
千早は無言でメイスをスイングしている。ミニスカ袴な彼女がブンブンメイスをスイングしている姿は、ちょっと不思議な光景だ。
「千早、どうしたの?」
「いえ、刀の技をメイスで使えないか試していたのですが……」
「そりゃあ、無理だろ……そもそも斬撃武器と殴打武器じゃ違い過ぎる」
「そうなんですけど、何とかならないものかなと」
「……まったく、アーカムは何をやっておるのだ。ジルベールの護衛の装備を万全にするのもあやつの仕事だろうに」
「あ、いえ。旦那様も探してくれています。でもやはり、刀の打てる職人はこちらにいないようですし、高額なうえ流通量も多くありませんから」
刀がないのがなー。千早が可哀想だ。
「まあ、どちらかといえば芸術品だからな。あれは」
「そういう認識になってるなぁ。刀を持っているやつぁ手放さんし」
「数が少ないから中古もないんですよね。剣だと刀のスキルはあんまり使えませんし、なんとかしたいのですが」
殿下達とダンジョンに行ったときは、刀のスキルがなくとも戦士のスキルで普通に魔物を倒せてた千早だけど、ここでは足止めしかできず、あまりダメージも与えられていないから不満なのだろう。
「まあ今に限って言えば、刀があったとしても変わらん可能性が高いがな。オレも剣じゃ大してダメージにならんからハルバード担いでるわけだし」
「元々物理攻撃に強い敵だからな。千早では相性が悪いか」
「ですが、あたしは護衛です。相性が悪いからなどと言い訳ができない状況がいつこないとも限りませんから」
千早の眉がへにょんとしている。斧を使った時も失敗してるし、結構気にしているみたいだ。
「千早」
「若様」
「千早の刀は、いつか準備するから。待たせてしまうけど」
「はい、ありがとうございます」
というわけで、僕は頼りになるおじさんに視線を向ける。
「よろしく!」
「まったく、調子のいい」
おじさんが乱暴に僕の頭を撫でた。魔法師団の中で確固たる地位を築いているこのおじさんなら、そのうち用意してくれると思う。




