狩りという名の木材集め
「あた、私も本当にいいんでしょうか?」
「ああ、せっかく魔法使いになれたのだ。その力を存分に伸ばすといい」
おじさんに誘われ、連れてこられたクリスタさんが困惑気味。とはいえダンジョンじゃないからJOB経験値はほとんど入らないけどね。
クリスタさんはうちの領の兵士服に、上からなんかよさげなローブを羽織っている。魔法兵っぽさが際立ってるね。
おじさんもローブ姿。杖が長くてでかい。
「ありがとうございます。魔法使いになれたのはいいけど、訓練しかできてなかったので実戦の機会は嬉しいです」
「うむ、しっかりと頼む」
おじさんはそう言って、流れの説明をしはじめる。
魔法職の僕達三人は後ろから弱点の魔法を放つだけだけど、クリスタさんは熱心に聞いて時々質問をしている。本当に真面目な人だね。
「オレらは立ち位置だけの打ち合わせだから楽でいいな」
「前衛はあたし達二人なんですから、気を引き締めないといけないですよ?」
ウェッジ伯爵はいつもの騎士服に、でっかいハルバードを持っていた。凶悪である。
千早はミニスカ袴に手斧と大きな盾。黒髪美女のミニスカ袴斧装備の姿はなんというか、なんというかな雰囲気だ。
「ジルベール様、絶対にこのシンシアから離れないでくださいね?」
「うん、でもシンシアも場合によっては前衛をやるんだよね?」
「場合によってはですね。基本的にジルベール様を抱えて逃げます」
犬耳メイドのシンシアは、冒険者装備ではなくメイド服だった。危なくない?
「装備は?」
「……誰かの荷物と一緒に、屋敷に忘れられたみたいです」
「あはははは」
「す、すみませんでしたぁ」
その誰かさんこと千草もメイド服だ。泣きそうな顔をしている。
「忘れたなら借りれば良かったのに」
「装備は命を預けるものです。慣れない装備ではいざという時に動けません」
「なるほど?」
動けないらしい。動き回る必要ないといいね。
「そういう意味ではメイド服は慣れていますから。長いスカートでも走れますし、軽いので動きやすいです。何より汚れても問題ない服装ですからね」
「杖は持ってきたのに……」
千草はすり傷なんかをすることが多いので、短い杖を常に腰に付けているのだ。
「それも忘れてしまっていたら、さすがに奥様と交換でしたね」
「ぅぅぅ」
ちなみにお父さんとお母さんはドルンベル様のお屋敷でお留守番だ。この領の細かい説明や領主への引き継ぎなんかをされているらしい。とはいえドルンベル様はこのままここで代官を続けるらしい。領主の屋敷に今住んでいるそうなので、お父さんのお屋敷を別に作るとか。なんか貴族のお屋敷をいくつか潰して更地にしてって話してた。
かなり大きなお屋敷になるんじゃない?
「皆さん、打ち合わせは完了しましたか?」
案内役兼、属性看破役のエルフの女性が僕達に声をかけてきた。彼女だけでなく、男性が三人いる。
彼らは僕の顔を見て若干引きつっているのはやっぱり子供を連れて行くのに忌避感があるからだろうか?
「ではこれより現地に向かいます。ホントに気を付けてくださいね?」
うん、僕に言ってるんだろうな。
「はい!」
思いっきり手を挙げて子供アピールをしてやるぜ。
「では参ります」
シンシアが弓を手に持ち、矢を放つ。
灰色の木にその矢がぶつかると弾かれる。そして魔法陣が地面に発生し、エレメンタルウッドマンが生まれた。
「属性看破、風属性ですね。土系統の魔法でお願いします」
「はぁい」
やはり『私は〇ルート』って自己紹介で会話をしてきそうなエレメンタルウッドマンが登場。
顔はいかついけど。
「前に出るぞ」
「抑えます」
ウェッジ伯爵が走り込んでハルバードを振り回す。それに呼応するように手でガードを上げるエレメンタルウッドマン。
「プラントディストラプション」
千草の弱体魔法が素早く放たれた。
伯爵が横薙ぎの一撃を放ち、エレメンタルウッドマンの腕を攻撃。
エレメンタルウッドマンのガードがそちらに向いた瞬間に、千草の弱体化魔法がエレメンタルウッドマンの顔に直撃した。
枯れ木のように細くなっていくエレメンタルウッドマン。
「すごい……」
「感心するのは後だ。ジルベールに合わせろ」
極端に見た目が弱まるエレメンタルウッドマンの姿に驚くのはクリスタさんと案内役のエルフのお姉さん。
「「「 アースボルト! 」」」
アースボルトは前に説明をした通りの地属性の魔法だ。エレメンタルウッドマンの頭上に尖った岩の塊のようなものを生み出される。それが十発以上発生、ボルト系の魔法は一人が一度に3~10まで同時に放つことが多いので、3人いればそれは凄い数になる。
それが一度に落下してエレメンタルウッドマンに降り注ぐ、頭はさすがに硬いようだが、肩や腕なんかに何発も突き刺さった。
その数と衝撃に、エレメンタルウッドマンは頭を押さえた。
「はあっ!」
そこに千早の斧での攻撃。スキルとかではないようだ。がら空きの脇腹に斧が食い込んでいく。
「しまっ!」
「何をやっておる! 盾を構えて下がれ!」
脇腹に深く食い込んで、斧が抜けなくなってしまったようだ。千早は素早く斧から手を離し、大きな盾を両手で持ち上げる。
「もう一度だ。次は千草も参加せよ」
「「「 はい! 」」」
千草も魔術師のJOBを持っているので、アースボルトが使える。
更に数を増やしたアースボルトがエレメンタルウッドマンの頭上から降り注ぎ、その動きを止める。とうとう耐え切れなくなり、倒れ込んだ。
「立ち上がる前にもう一度だ」
おじさんの合図で、更にアースボルトを発動。
倒れ込んだエレメンタルウッドマンの全身に、アースボルトが突き刺さる。
「やったな」
無事に倒したようで、体が軽くなる。
レベルアップな感覚だね。
「千早」
「はい、力を籠め過ぎました」
「それもあるが、斧の特性を忘れていたな?」
「すみません……弱体化していたとはいえ、あたしにはまだ硬かったようです」
千早は僕達の後ろにある荷台のところまで足を運ぶ。
荷台に手持ちの斧を置いて、代わりにメイスを取り出した。表皮の硬いエレメンタルウッドマンと戦うとき、どうしても武器がダメになりやすいそうで交換用の武器をいくつも用意しているのだ。
「お運びして」
「は……はっ!」
案内役のエルフの女性が付き添いの男達に声を掛ける。
彼らは僕達が倒したエレメンタルウッドマンの倒木を片付ける係の人達だ。
思った以上にあっさりと倒されたエレメンタルウッドマンを見て呆然としていた彼らだが、自分達の仕事を全うする。
「片付いたら次だ。どんどんいくぞ」
「「「 はい! 」」」
おじさんの言葉にみんなで返事をする。
そして弓を再び構えるシンシア。
このペースでどんどんエレメンタルウッドマンを刈り倒す。




