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聖獣わらわら

「お見事でした」

「ふん。時間をかけ過ぎだ」

「まあ剣しかないからな。しかし相変わらず手ごわい手合いだな」

「だな。斧でも借りときゃよかったぜ」


 多少弱体化に成功していたとはいえ、それでも物理攻撃には強い。地面に落ちていた表皮を拾うと、鋼鉄のような触り心地。これ、植物なんだよね。


「木材に加工する際に表皮は剥がすんだけど、これだけ頑丈だからね。鎧の材料になったりもするんだ。彼らが身に着けている胸当てなんかには闇属性の表皮が使われているんだよ」


 僕が興味深く表皮をいじってると、ドルンベル様が説明してくれた。


「属性ごとに作れるからね。冒険者や属性の偏りのあるダンジョンを持っている領地なんかに高値で売れるんだ」

「おおー」


 考えられている。この街の特産品はエレメンタルウッドマンだね。


「でもその利益のほとんどがエルフ達の武器に流れちゃうけどね……実質赤字だ」


 あ、うん。突然影を差さないで。エレメンタルウッドマンが硬いから斧やハンマーでも摩耗したり壊れたりしちゃうんだね。


「それと、ああ。来たね」


 聖獣シンシルベルがわらわらと何頭もこちらにやってきた。筋肉質な鹿の軍団だ。角もヘラジカのような立派なものが付いている。

 特に先頭の鹿、毛皮にはいくつもの傷跡がついており歴戦の風格を漂わせている。


「回収に参りました」

「ああ、頼む」


 大量のエレメンタルウッドマンの死骸が乗せられていた荷台。それらをシンシルベルに括り付けている。彼らが運ぶようだ。


「彼らは聖獣シンシルベル様だ。エルフ達と共に世界樹の守りをしていた種族でとても賢い。人の言葉も理解している個体が多いんだよ。体が大きくて力が強いから、こうやって運搬作業に手を貸してくれているし、彼らは彼らでエレメンタルウッドマンを倒したりもしているんだ。彼らも立派なうちの街の住人なんだよ」


 なんという共存方法。お父さん達はこのことを元々知っているんだろう。僕に向けてドルンベル様が説明してくれる。


『ほお、珍しい子がおる』

「え?」


 とっさに頭に声が響く。うわ、なんか気持ちわるっ! 思わず片耳を押さえてしまう。


『念話は慣れぬか?』

「ねんわ?」


 僕が思わず聞き返すと、周りのエルフ達がギョっとこちらに首を向けた。


『話しているのは我よ』


 一際大きく、体中傷だらけの個体がこちらに歩み寄る。他のシンシルベル達もこちらに視線を向けてくる。


『しっかりと聞き取れるか? 我はシャーネ、この者たちの母であり、王だ』

「ジ、ジルベール=オルトです」


 まさかの女性でした。顔がいかついし角もすごいからオスだと思ったよ。


『ふはは、いかついときたか。 我は美人で通っておるのだがな!』

「あ、ごめんなさい」

「ジル、何か失礼なことを言ったのか?」

「言ったというか、考えると伝わるというか……」


 僕の顔にシャーネが顔を寄せようとすると、お父さんと千早が割って入る。


『この者たちはお主の護衛か』

「えっと、お父さんと、護衛です」


 あかん、口に出さないとまとまんない。


『慣れるまではその方がよかろう。ふむ、警戒されておるな。仕方なかろうて。親は子を守るものだ』

「お父さん、千早も。大丈夫っぽい」

「……アーカム様、聖獣の長です」

「長殿であったか。言葉が通じるのだな? 私はアーカム、この地を王に代わり治める者だ」

『子よ、挨拶を返したい。我が名はシャーネと、偉大なる世界樹の護り手にして樹楽古山の王の一人であると』

「じゅらく、何?」

『樹楽古山である。世界樹のある地域の本来の名だ。そこをまとめる王の一人だ』


 僕は頷くと、お父さんのマントを後ろから引っ張った。


「彼女はシャーネ様、じゅらくこざんっていう世界樹のある地域の、王様の一人だって」

「彼女……? っと、失礼。王であらせられましたか」


 うん、僕も彼女ってところに疑問を持っちゃったよ。


『親子そろって似ているの。お主ら、遊んどらんで仕事にかからんか』


 シャーネ様がブモーと嘶くと、聖獣シンシルベル達が個々に動き出す。

 鹿って言ったけど、体のサイズとか角の形を考えると、トナカイとかヘラジカだよね。こんなのが奈良にいたら大変なことになりそうだ。


『我と言葉を交わせる者がいたのはいつ以来だろうか。子よ、頼みがある。我の背に乗りなさい』


 そう言って体を伏せるシャーネ様。


「えっと、頼みがあるから背中に乗ってって」

「本当に言葉を交わせるのか……ジャイナばあ様以来だ」

『ジャイナは良い娘であったな。あの者の献身は今でも覚えておる』

「ジャイナさんはいい人だったって」

「そ、そうでしたか……アーカム様、ジル君。どうか聖獣様のお望みを聞いていただけないでしょうか?」

「ドルンベル、私はともかくジルは」

『別に取って食おうという話ではない。しかし、確かに急であったな。今が難しいならば我の寝床に後で来なさい』


 シャーネ様は伏せていた体を持ち上げて、こちらに視線を向ける。


「じゃああとで、寝床に来てって」

「……かしこまりました。必ずお伺いいたします」


 お父さんが返事をする。


『うむ。待っておる』


 シャーネ様はそういうと、ノシノシと尻尾を振りながら立ち去っていった。

 貫禄が違うなぁ。






「びっくりした」

「それは私も同じだ。まったく、ウチの子はどういう星のもとに生まれてきたのだ」

「でも聖獣様とお話ができるなんてすごいわねぇ」

「オレでは念話が受信できぬようだった。若干感情が伝わる程度だな」


 ドルンベル様の屋敷に戻り、家族会議である。メンバーはお父さん、お母さん、ビッシュおじさんに僕の四人だ。シンシアや千早、千草は部屋の外で待機している。


「どんな声だったのかしら?」

「なんというか重みがあって、偉そうな感じ。一人称我だったし。でも確かに、しっかりと聞くと女性の声だったかなーって」

「偉そうではなく偉いのだろうな。なんといっても聖獣達の王を名乗るのだから」

「ですな。しかし頼み事とは一体何なのやら」

「アーカムよ、断る選択肢はないぞ。相手は聖獣だ。聖獣が退いてくださらなければ、エルフ達が何か行動を起こしていた可能性もあの場ではあったのだぞ」

「分かっております。はあ、もっと秘密裏に接触をしていただければよかったものを」

「ドルンベル様があの場にいた人達に口止めをしていたけど、どこまで通じるのやら。エルフ達は基本自由だからな」


 おじさんの言う通り、エルフを中心としたあの場にいた人たちにこの話を広めない様に命令していた。

 でも人の口に戸は立てられぬって言うしなぁ。


「兄上にも聞こえなかったのですよね?」

「ああ。なんとなく気配は感じたのだが……」

「念話の?」

「ああ。聖獣の王が近づいてきたときにな。すぐに収まったが」

「それは、シャーネ様がジルちゃんだけに絞ったのかもしれないわ」


 お母さんが僕の顔を見ながらそんなことを言う。


「念話っていっても、端的に言えば魔法だもの。全方位に飛ばすなんて非効率的なことをする意味はないのではないかしら」

「それもそうか。聖獣は念話を受け取れる相手を感じ取れるのかもしれぬな。だが相手がどれほどの情報を受信できるかまでは判別できぬとみた。もしそれが可能であるならば……」

「兄上、念話やシャーネ様の魔法の考察は後にしてください。それよりもどう対処をするかです」


 うん、お父さんの言う通りだよね。


「対処? 言われるままにするしかなかろう。そしてできなければできないとはっきりとできぬと答えるべきだ」

「いや、それはそうですが」

「お義兄様、いくらなんでも不敬では」

「そうか? オレは国王相手でもこんな感じだぞ。できぬことをできると偽るほうが不敬だ」

「いや、おじさんはそれでいいかもしれないけどさ」


 シャーネ様のお願いを聞くのは僕なんだけど。


「どちらにせよ行くしかあるまいて。ジルよ、勝手に返事をせず、一語一句逃さず、間違えず、正確にオレ達に伝えるのだ。お前にできぬことでも我らができるかもしれん。判断はこちらでする」

「通訳に徹していればいいんなら、まあ」


 分からない事は親に任せる術だね。


「それしかないか、ジル、ほんとうに、ほんとうに勝手な判断はするなよ? 私から絶対に離れるな……いや、ずっと抱いていればよいか」

「そうねぇ、それが一番確実かしら」

「ええー!?」


 さすがに延々抱っこの刑はしんどいんですけど!


「方針は決まったな」

「あなた、ジルを抱くのはもちろん私の役目よね?」

「え? あ、いや……万が一のことを考えると」

「最近この子、千早ちゃんや千草ちゃんにべったりですもの。たまにはいいわよね?」


 や、別に僕からべったりって訳じゃないんですけど。


「これは母親の仕事です」


 そういってお母さんは横に座る僕の頭を抱きかかえた。


「アーカム、何かあったらジルを守る。だがミレニアと一緒に守った方が効率的であろう?」

「……分かったよ。ミレニア、君の勝ちだ」


 お母さんが笑顔になって、僕をお膝の上に持ち上げた。

 母は強し、だね。


「よし、ドルと話をしてこよう。聖獣の王ともなればお会いするにも作法などがある可能性もある。何度かここで戦ったことはあるが、直接お言葉を交わすなど体験したこともないからな」

「確かに……兄上、すみません。考えつきませんでした」

「そこは宮廷関係との付き合いの浅さが問題だな。今まではモーリアント公爵が間に入ってくれているが、直接お前が相手をしなければならなくなる時がいずれ来るぞ。今のうちに学んでおいた方がよい」

「義兄様は……いえ、何でもありません」

「安心せよ、相手を見てその礼儀を無視しているからな」


 その相手が王族のときがあるんですね、おじさん。


「ジル、待っていなさい。子爵に話を聞いてくる」

「僕は聞かなくていいの?」

「お前も聞く必要が出れば、シンシアを寄こそう」

「はぁい」


 そういえばシンシアはいなかったね。あ、荷ほどきとかしてたんだ? なるほど。

お父さん、おじさん、ウェッジ、ドルベルンと大人の男性が多いと誰がしゃべってるか分かりにくくなってしまっています。反省。

もうちょいこの辺を鍛えないとあかん。みんな我慢してくれぃ。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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