エレメンタルウッドマン
「ここが灰色の森との最前線になります」
ドルンベル様の案内の元、灰色の森と街の境にある草原に足を運んだ。チェイムや奥さんはお留守番だ。
でもこの草原、周りには木々が全く見当たらない。
「これ以上森が広がらない様に、木の芽が小さなうちに抜いております。彼らがその作業をしている者達ですね」
草原の中を多くのエルフが地面を見ながら歩いている。
小さな芽ならば木とは認識されないが、ある程度地面に根付いてしまうと灰色に染まるため、常に巡回をしているらしい。
「そしてこちらの木の柵、この先が灰色の大森林です」
ドルンベル様の説明を受けずとも分かる。本来であれば緑色の葉と茶色い幹で色づいている森が、完全に灰色なのだ。
とても異様な光景に、言葉を失ってしまう。
「イービル=ユグドラシルの影響下にある木が衝撃を受けると、魔物が生まれます。エレメンタルウッドマンという魔物です。あそこにいる彼らはその魔物をワザと生み出して討伐を行っています」
視線の先にはエルフの集団。見目麗しいエルフ達が完全武装で待機している。
近くにいるあの大きな鹿の集団が、聖獣シンシルベルかな? 聖獣という割にいっぱいいる。
「イービル=ユグドラシルがエレメンタルウッドマンを生み出すということは、その分だけイービル=ユグドラシルは魔力を使うと考えられています。つまりその分だけ灰色の大森林の侵攻が遅延する、という見解です。実際にこの事業を始めてから百年、灰色の大森林の侵攻速度は減少いたしました」
「へぇー」
どうやらイービル=ユグドラシルを完全に放置しているわけではないようだ。
「一人が矢を撃ちます。彼ですね」
弓矢を構えた男のエルフが、一本の木に狙いを定める。指揮官と思われる一人が、こちらに……ドルンベル様に視線を向けると、彼は頷いた。
それが合図だったようだ。エルフの放った矢が、一番手前の灰色の木に当たり弾かれる。どうやら矢は先が潰されているものを使っているらしい。
「来ますよ」
すると地面に黒く光った魔法陣が生まれて、そこから葉っぱを持たない灰色の人型の木のお化けが現れる。
某映画にいそうな印象を受けた木の魔物。それなりにでかいし表情は怖いけど。
「属性看破っ! 属性は氷っ! ファイヤーボルト準備っ!」
「まだだ! まだだぞ!」
イービル=ユグドラシルの生み出すエレメンタルウッドマンは、非常に面倒なことに生み出される個体ごとに属性が違う。更にその体は非常に硬く、物理攻撃が効きにくいときている。
ゲームでも中盤から後半で戦う相手だ。かなり手ごわい手合いである。
「今だ! 放て!」
ハンターのスキルである属性看破で相手の属性を見極めて、魔法で反属性により攻撃をするのがゲームでもセオリーだった。
今回は氷のようだ。つまり弱点は火。
「「「 ファイヤーボルト!! 」」」
ゲームだと4人パーティ制のコマンドバトルだったが、現実ではそんなこと関係なしだ。
10人近くいるエルフや人間の魔術師系列の人達が一度にファイヤーボルトの魔法を放つ。炎の太い槍のような魔法が何本も現れてエレメンタルウッドマンに襲い掛かった。
その攻撃を受けてエレメンタルウッドマンは炎に包まれて倒れ込む。しばらく観察するが、エレメンタルウッドマンはもう動かない。どうやら無事に倒したようだ。
「よし! 死体を回収! 次の準備だ!」
5人の人員が倒れたエレメンタルウッドマンを引きずって回収。近くに置いてあった荷台の上に乗せられた。
エレメンタルウッドマンは身長が3メートル近い木の魔物だ。運ぶのも重労働っぽい。
「あれが我が街の主な収入源になります。炎の個体は火に強い木材になるので火災対策の建物に向いています。氷の個体は食べ物などをしまっておく冷室に適した冷たい木材、といった具合ですね。まあ外れの属性もありますので、それは単純な木材になるので街の中で消費されます。生産量はダルウッドに負けますが、質はうちの方が上ですね」
「おおー」
イービル=ユグドラシルの対策だけでなく、金策にも一役買っているのか。よくできたシステムに思えるね。
「次!」
「はっ!」
一体を運びきったので、次のを呼び出すようだ。組織的に動いている、いいチームに見えるね。
「属性看破! っ! 闇です!」
「全員防御形態っ! 前衛! 前にでるぞ!」
次のターゲットは闇属性らしい。闇だと、聖属性とか光属性が弱点だよね?
「闇か、少し下がりましょう」
ドルンベル様が注意を促した。
「ふむ、厄介ではあるな」
「闇は厄介なのよね。手を貸しましょうか?」
「……そうしていただけますかな? ミレニア様」
「あ、そっか」
魔術師系統では聖属性の攻撃魔法は覚えないんだった。それが覚えられるのは司祭から。同系統の一次職である神官でも覚えられないんだよね。
「そうしましょう。ジルちゃん、千草ちゃんを借りますね」
「はえ? あ、どーぞ」
そう言えば千草も司祭職だった。高司祭になれるくらいJOBが育っている人物だ。
「かしこまりました、奥様」
「千草、まずプラントディストラプションだよ?」
「え?」
僕は小声で千草に助言する。
「あれ、属性がなんであれ植物の魔物だもん。プラントディストラプションは植物系の魔物を弱体化させる魔法。素養のある千草がそれをかけたら、そりゃあもう面白いことになると思うよ」
「はあ、ですが相手は闇属性だと」
正確には闇属性と植物属性の二属性持ちだね。エレメンタルウッドマンは植物属性が固定だから、ゲームでもこの戦法が有用だったんだ。
なるべく早く倒さないと、仲間が増えるから時間をかけて倒してらんないんだよね。しかも魔法攻撃中心で戦うから、MP切れまでしか戦えないからあんまり長時間はいられない場所だったんだ。MP回復アイテムに余裕があれば長く戦えられたけど、もっと効率のいい狩場あったからあんまりここでレベル上げはしなかった。
「いーからいーから」
「二人とも、魔物が近いんだ。すぐ行動に移しなさい。千早、ジルを頼む。二人の面倒は私がみよう」
お父さんが剣を抜いてお母さんと千草の前に立った。
「若様、こっち」
僕は千早に手を引かれて、興味深そうに周りを眺めていたウェッジ伯爵の近くに連れて行かれる。
おじさんと一緒に僕を守ってくれるらしい。
「おじさんはいかないの?」
「私がいってもゴリ押しにしかならんだろうな。それにアーカム達がやる気なのだ。任せてしまえばいい」
「そういうことだ。ジル坊もしっかり見てな」
僕の頭をぐわんぐわんとするウェッジ伯爵。この人、手が大きいんだよね。
そうこう見ているうちに、エレメンタルウッドマンがエルフ達の前衛にその腕を叩きつける。
わしゃわしゃと腕を振って駆け寄るエレメンタルウッドマンは意外と動きが速い。一歩が大きいから距離を詰めるもの早いのだろう。
「プラントディストラプション!」
そこに千草の弱体魔法が炸裂。エレメンタルウッドマンの体は途端に細くなっていき、枯れ木のような形に様変わりだ。
「ホーリーバースト!」
そんな弱体化したエレメンタルウッドマンに、お母さんの聖属性の魔法が横殴りに炸裂! エレメンタルウッドマンの体から木の皮が削がれ落ちて、走っていた勢いのまま横に倒れ込んだ。
「今だ!」
接近されていたエルフ達が目の前で無様に倒れた相手に、斧やハンマーを思いっきり叩きつけた。
こういったチャンスを逃さないのは流石だ。彼らも十分に戦い慣れている。
「……私の出番はなさそうだな」
どんまいお父さん! でもいいんじゃない? お母さん達が危ない目に合わないのが一番だよ。




