ですわ!
「さあ、勝負よ! ですわ!」
連れて来られたのは屋敷のお庭。ここも広いなー。
そこで何故か木剣を渡されています。
「……なんで?」
「あたしね! 戦士なのよ! ですわ!」
「あ、もうJOB持ってるんだ?」
「ええ! ジルもJOBを持ってるって聞いたのよ! ですわ! だから勝負なのです、わ!」
うわぁ、今まで周りにいなかったタイプの女子だぁ。
「……危ないのはやだよ。剣があたったら痛いし」
「大丈夫よ! あたしは戦士だもん! ですわ!」
「僕、魔法職なんだけど……」
もう魔法使いだけど、一応伏せておく。
「え!? なんで!?」
「なんでって……」
「男の子なら戦士じゃないの!?」
「僕達のおじさんの存在が全否定だね」
この子と僕の共通のおじさんは賢者だよ?
「そっかぁ……じゃあ剣は駄目ね」
「剣というか立ち合いが」
「よろしいのではないですか?」
なんとか説き伏せようとしたら千早から待ったがかかる。
「千草がいるから怪我も治せますし、若様の実力を見せるいい機会だと思いますよ?」
お外だからか千早が丁寧にしゃべってるけど、言っている内容が少々不穏である。
「若様は魔法職ですけど、剣の訓練もきちんと行っていますし、体格的にもちょうどいい訓練相手になっていただけそうです。あたしや旦那様ではこういった経験はできませんし、お相手をしてもらってはいかがでしょうか?」
「そうね! 加減してあげるからかかって来なさい! ですわ!」
「えー」
いそいそと千草が僕の上着を脱がせながら、こっそり耳打ちをする。
「若様、どうかお相手を。若様ご自身がご自身のご年齢に対し、どれだけのお力を持たれているかを把握するチャンスです」
「千草?」
「若様強いから、加減してあげてくださいね?」
そう言って僕に木剣を改めて握らせる。なんで出会い頭で、決闘みたいな感じになってるんだろうか。
「じゃあやるわ! ですわ!」
チェイムちゃんが木剣をこちらに向ける。
彼女は既に準備万端なのかと思いきや、お迎えの為のフリフリドレスのままだ。
「あの、チェイムちゃん?」
「何かしら!」
「ドレスのままでいいの?」
「どんな格好でも戦えるように訓練しているわ! あ! ですわ!」
「……そのドレス、汚れても怒られない?」
「怒られ? お、怒られるわ! 当然じゃない!」
「じゃあ着替えた方が良くない? 後ろのメイドさんも頷いてるよ?」
「……そうね! 逃げちゃダメなんだからね! アンネア! 行くわよ!」
「はい。お嬢様、アンネアは嬉しく思います」
「あー」
チェイムちゃんに返事をしつつも、僕に頭を下げるメイドさん。うん、着替えさせる隙なかったもんね。
「はぁ、一度お父さんのところにいこうか。それと本当にやるなら僕もお着替えをしたいや」
旅用の比較的ラフな服装だけど、最低限の礼儀だからか、紐状のネクタイ的なアレを付けて首元がかっちりだし。
「そうですね、ドルベルン様に若様のお部屋を確認しませんと」
「ついでにチェイムちゃんとの立ち合いのことも報告してね?」
千草はうっかりさんだからね。
お着替えも無事に済ませて、改めてお庭で互いに木剣を持つ。
九歳児のチェイムは僕よりも背が高い。頭一つ分くらい違う。これ勝負にならないよね。
「では互いに怪我に気を付けるように」
「はい!」
「はぁい」
そして何故か僕達の中央に審判的な立場で立つお父さん。
僕はお父さんに『そんな危ないことをさせる訳にはいかない』ってセリフを期待していたのに、嬉々として審判を買ってでたでござる。
予想外デス。
いつもの灰色の訓練着に着替えた僕と、黄色い可愛いジャージのような訓練着に着替えたチェイムが対面している状態だ。ドリ……巻髪。
とても嬉しそうに剣を構える彼女が、貴族のご令嬢だとはとても思えないが……子爵令嬢である。
そうウォール子爵令嬢だ。ドルベルンさんは子爵だったらしい。
「ジル、魔法は禁止だ。分かっているな?」
「はぁい」
「返事」
「はいっ!」
しまった、また気の抜けた返事になってしまった。お母さんやシンシア達がクスクスしている。
「魔法を使ってもかまいませんわですわよ!」
「チェイムちゃん、魔法は危ないんだ。だから禁止だよ。チェイムちゃんは魔法が使えないだろう?」
「使えませんわ!」
「じゃあ平等に、お互い使わないほうがよいだろう? 対等の勝負なのだから」
「対等の……そうだわ! ですわ!」
「くくくっ、面白い子だね」
「語尾を統一して欲しい……」
どうにもちょいちょい混ざる変なお嬢様言葉が気になってしまう。
「はあ、付け焼刃じゃどうしようもないね。チェイム、いつものようにしゃべりなさい。恥ずかしすぎる」
うん、ドルベルン様。分かるよその気持ち。
「物語の貴族のご令嬢はこういった言葉遣いをしていましたわ!」
「君の母上は貴族のご令嬢だが、そんな言葉遣いはしていないだろう?」
「あ! お母様! なんでですの!? ですわ!」
「一般的じゃないからですわ~」
「ですわって言ってますわ!」
「あらあら~、おほほほほ」
ラーナスさんいい性格しているね!
「おかしいと思いましたわ! ですわ!」
「いいからやめなさい。まったく、自信満々に言うから任せたが、とんだ勘違いを」
「じゃあ普通にしゃべるわ! 面倒だと思ってたの!」
「大声で言う事じゃあない。まったく、誰に似たのやら」
そんな言葉を言いながら子爵が見つめるのはご自身の奥さんだ。
「お互いに苦労するわねぇ」
「そうね。あのお嬢様言葉は本当におかしいわ」
僕の返事と彼女の変な言葉遣いを同列にしないで欲しいです。
「こほん、お互いに礼」
ぺこり。
「はじめ!」




