エルフの住む街
馬車での移動を挟んで、目的の街に到着した。
オルト領の領都から南に約1週間。大所帯での移動の為、人数が少ない旅人だったらもう少し早く着くという。
イービル=ユグドラシルも見えるかな? って思ったけど、遠目で黒い雲に覆われた地点が見えるだけで確認することはできず。天を貫くほどの巨大な大樹、見たかったなぁ。
街の名前は『イラーノエルファン』という。移動中にお勉強をしたのだが、エルフの国との国交で発展していった街。今は灰色の大森林と隣接している土地の為、色々と大変な土地である。
人間が治める国であるフランメシア王国の中では異質で、人口の約七割がエルフやハーフエルフとなっているので馬車から見える人たちはみんなエルフ系列、いわゆるエルフの街だ。
「なんか、すごいね」
「変わらないわね」
「そうだな」
前もって聞いていたけど、エルフが多く歩いている街なのに緑が全くない。灰色の大森林の侵略を食い止める事を目的としている面もあるこの街では、大地に木々を生やすのは禁忌とされているのだ。
そのため、家々も石造りで木造部分はすべて石造りの基礎の建物の上だけ。
住民を見なければ、エルフの街とは思えない景観をしている。
エルフの街であるため、エルフ達から一定の支持を得られないとこの街を治めることができないらしく、長い間王家直轄領となっていた土地らしい。お父さんは過去にこの街でエルフ達との交流を深めてたことがあったらしい。王家もそのことを把握しており、さらに隣接している土地であること、それとこの街の代官がおじさんの縁者ということもあって、お父さんが治めることになったという経緯もあるらしい。
でもお父さんは少しだけ頭を抱えていた。
「迎えだな」
お父さんが言うので、窓から顔を出して前を見る。
そこには騎士の集団が整列している。
ほとんどがエルフだ。
「領主様に、敬礼っ!」
ザッと音がなり、彼らの揃った敬礼が聞こえる。
お父さんは僕の体を引っ張って場所を変えると、一人で馬車から降りた。お母さんが僕のことを座らせたので、僕はまだ降りなくていいらしい。
「見てていい?」
「前の窓を開けましょう。クリスタちゃん、千早ちゃん、横にずれて」
「はい」
御者台側の覗き窓をお母さんが開けてくれた。僕の背では座っては覗けないので椅子の上に立つ。
「出迎えご苦労……久しいな、レンフォアード殿。それに緑望騎士団のみんな」
「殿はおやめください、アーカム=オルト伯爵。今や我々はあなたの部下だ」
お互いに笑いながら、握手を交わしている。
「先導いたします!」
「ああ、よろしく頼む。住民の皆! 改めて挨拶の場を設ける! 頭を下げる必要もない、日々の生活に戻ってくれ」
領主であるお父さんが現れたので、かしこまって頭を下げたりしている人も多くいた。
お父さんはそんな彼らに声をかけた。
「相変わらずだな」
「いちいち一人一人に頭を上げろだなんて言ってたら、屋敷まで辿りつけんからな」
そう言ってお父さんは、クリスタさんを御者台から降ろしてこっちによこした。
どうやら御者台に座るらしい。
「お父さん、すごいね」
「そうね、あの人は領主ですもの」
「お邪魔いたします」
クリスタさんが僕の横に座り、馬車がゆっくりと動き出した。
代官屋敷に、これから向かうらしい。
「おお、ウチより広い?」
「どうだろうな」
代官屋敷に到着して馬車から降りる。そしていの一番に発した僕の言葉にお父さんが苦笑い。
「到着をお待ちしておりました。アーカム様」
「ドルベルン、久しぶりだな」
そこに現れたのは、まだ若そうな男性だ。それとお母さんくらいの歳の女性と女の子。
「ドルン、しばらく世話になる」
「義兄上、相変わらずのご活躍。こちらまで届いておりますよ」
ああ、この人がおじさんの義理の弟さんか。
「ジルちゃん。お父さんの横に」
「あ、はい!」
「ご子息までお連れになっていただけましたか。ご挨拶をさせてください」
そう言って彼は臣下の礼を取る。
「ドルベルン=ウォールにございます。こちらで代官を務めさせていただいております。こちらは妻のラーナスと娘のチェイムです」
「お初にお目にかかります、ジルベール様」
「こんにちは!」
「こんにちは、ジルベール=オルトです」
二人にご挨拶をする。
「ラーナ、久しぶりー」
「ミレニア、良く来てくれたわ」
お母さんがラーナスさんに歩み寄ると、二人でお互いの手を握り合ってクルクルしはじめた。
仲がいいのね。
「チェイム=ウォールよ! 九歳になるわ!」
「あ、うん」
「……チェイム=ウォールよ!」
「えっと?」
「もう! ちゃんとご挨拶をなさって!」
「ジルベール=オルトです。 五歳です」
「ジルね! よろしく! 一緒にいきましょ!」
「は、え?」
茶色でドリル……巻き髪の女の子に手を握られて連れられて行く。
え? 何? 誰も止めないの?
振り向くと、千早と千草が僕の荷物を持って慌てて追いかけてきた。
シンシアは口元を抑えて手を振ってるし。
行けってことね? はいはい。




