魔法使いのJOBアップ
「さあ、JOBを上げたいな。ダンジョンに行きたい」
「まず訓練ね。ダンジョンは無理」
千早が首を横に振っている。
「若様とはダンジョンに何度かいったから、十分戦える力はあるのは分かるけど、先日のように人数がいないと危ないわ」
「そっかぁ」
でもとにかくJOBを上げたい。チュートリアルダンジョンに行って、さっさとJOBを上昇させたいな。
子供ボディなので体力こそないけど、魔術師を極めているから魔法攻撃力は高い。シーフのJOB補正のおかげで素早く動けるし普通のダンジョンでも問題はないと思うんだけどなぁ。
「でも色々試したいなぁ。できれば動く相手に」
魔法使いになると、魔法攻撃力の上昇や魔力の回復速度の上昇するパッシブスキルが入手できる。
それと新しい攻撃魔法だ。二つの属性を掛け合わせた魔法が使えるようになる。風と氷の魔法をかけ合わせたブリザードや火と土を掛け合わせたボルケーノショット、雷と火を合わせたボルトヴァーミリオンなど。
更に単独の属性の魔法も色々と追加される。
「今はコボルドの件の後処理がありますので、あまり人員をさけないと思います」
「だよねぇ」
お父さんは領主としての仕事があるし、お母さんはその補佐だ。
おじさんはおじさんが連れてきた兵士達のリーダーで、またコボルドの残党狩りをしに森に向かうというし、その手伝いにシンシアやレドリック、うちの領所属の兵士や騎士などのJOB持ち、それと青い鬣の面々も付いていくらしい。
ウェッジ伯爵は何故かおじさんの護衛中だ。
現状僕が自由に動かせるのは千早と千草の二人だけだけど、二人は僕の護衛だ。僕がダンジョンに行きたいと言っても僕の安全が確保できないからダメと言うにきまっている。
……無理な命令もしたくないし、万が一、二人に怪我でもされたら僕はきっと凹んでしまう。
うーん、JOBを上げるのに人目を盗んでチュートリアルダンジョンに向かうのは今のところなんとかなっているけど、ベースレベルが上げられない。
「ジルベール! 魔法使いになったというのは本当か!?」
「あ、おじさん。ノックしてよ」
「それどころの騒ぎではなかろう! そうか! 分かってくれたか!」
「え? あ、うん? うん」
キラキラおじさんがドスドスと僕のところにきて僕を抱える。たかいたかーい。
「たったあれだけの修練で魔法使いになれるとはなんという才能か! 神に選ばれた子なのかもしれんな!」
「え? あ、神様とは会ったことないです」
「ふはははは! それはそうだ! しかしめでたい! なぜオレの立ち合いの下ならなかったのだ! アーカムめ!」
「お、お父さんが試してみなさいって……」
さっきまで喧嘩状態だったおじさんだけど、かなり上機嫌である。
「いや、もういい! いいか、お前は正式にオレの弟子にするからな! 絶対にだ! 魔物の討伐にも連れていくぞ!」
「ホント!?」
ベースレベルが上げれる! これは嬉しい!
「人が強くなるにはとにかく実戦が一番だ! 探し回るのが面倒だが、兵達がいる今ならば、いくらでも倒せよう!」
「あ、外の魔物ね」
つまりJOBが上がらないってことだ。まあいまは魔法使いになり立てだからチュートリアルダンジョンだけでも上がりやすいだろうけど。
「安心しろ! オレの修行場にも連れていってやる! 最年少賢者をオレの手で生み出してやろう!」
「や、なんか目的変わってない?」
「騎士と違い賢者は少ないのだ。賢者を生み出す土壌ができていないと言ってもいい。それを確立することができれば、ああもう! こんな機会に巡り合える日がこようとは! まったく! まったく!」
グルグル回らないで! ほら、千早もオロオロしちゃってるし!
「うわふー」
「ビ、ビッシュ様、若様が目を回してるっ」
「む、すまん」
世界がぐるぐるー……おえ。
「とにかく修行だ! さっそく今日から……」
「ビッシュ様、そこまでです」
「先輩」
僕が目を回していると、誰かが部屋に入ってきた。シンシアの声かな?
「明日以降のルートの確認をしますよ。今も兵たちは向こうに残っているんですから」
「ジルベールも連れて!」
「いける訳ないでしょう。バカなこと言ってないで。ウェッジ伯爵も待たせているのですから」
「くうっ!」
あー、世界がようやく戻ってきた。
「ジルベール様、魔法使いへの転職、おめでとうございます」
「しんしあー? ありがとー」
「はい、シンシアです。今度ちゃんと、お祝いしましょうね」
「うん!」
シンシアが僕の頭を撫でてくれる。そしておじさんの首元を掴んで引きずっていった。
「ではまた。千早、若様のこと、くれぐれもお願いしますね」
「はい! お任せください!」
おお、千早が敬語だ。
メイド服ではなく冒険者ルックのシンシアは、おじさんと一緒にすばやく消えていった。
夜になった。頑張って寝そうになるのを我慢する。
今日は夕飯の時間になっても、お母さんが帰ってこなかった。千草もまだなのでお母さんと一緒のようだ。
お父さんも僕とご飯を食べた後、出かけると言っていた。
これは久しぶりのチャンスを感じる。
探知魔法を使い、家の中を調べると、案の定人が少ない。
やっぱりお父さんとお母さんがいない。探知魔法を更に広げて屋敷の外に。役所にはいない。騎士や兵の訓練場にいるな。おじさんやウェッジ伯爵、レドリックもいる。一人探知しにくい人物がいる。これはシンシアかな?
「隣の千早と、下にロドリゲス。屋敷の前や周りに門番と哨戒の騎士かな」
千早はすでに眠っているようだが、念のためスリープの魔法を上からかけて眠りから覚めにくくする。探知魔法で相手を認識して、遠隔で魔法をかけるのだ。屋敷の外にとかとなると難しいけど、隣の部屋程度の距離ならば十分に届く。
「よし、これでOK」
地下にゲートの魔法を開き、授職の間に。普段はアイテムと経験値を回収して終わりなのだが、今日はいろいろと試したいので蝋燭持参。
授職の間の仕掛けを動かし、チュートリアルダンジョンの中に侵入。
通路を通るといつもの訓練場のような場所に到着だ。
「おぉ……」
JOBが切り替わったばかりなので上昇がすごい。
魔法使いになると、魔術師のパッシブスキルに上乗せされる形で、魔法攻撃力と魔力の回復速度が上昇するパッシブスキルが手に入る。パッシブスキルには詠唱速度上昇と、魔法防御力上昇スキルもある。
アクティブスキルはダブルラウンドという、発動した状態で呪文を打つと同じ呪文がもう一度飛んでいくスキル。それとエナジーガードという攻撃を受ける際に体力ではなく魔力で受けられるようになるスキルだ。これらは魔法使い専用スキルで、魔法使いか賢者でないと使うことのできないスキルだ。
それとシンプルにJOB補正で魔力が上がる。魔力は魔法攻撃力や魔力回復値の上昇、それと錬金術の成功率なんかにも関わりがある。
「とりあえず炎の絨毯を敷き直してっと」
いつものごとくスリムスポアを持続的に倒すため、炎の絨毯を配置。
「範囲魔法を試したいな」
魔術師で覚える魔法は単独属性の魔法で、範囲攻撃魔法もほとんどない。
ファイヤーボールやサンダーボルトのような着弾時の爆風や放電なんかが、結果として範囲攻撃になっているものばかりだ。
それに対し魔法使いは、範囲攻撃魔法がある。炎の魔法でファイヤーバーン、氷の魔法でノヴァフロスト、風の魔法はスラスタータイフーンなどである。
「ファイヤーバーン」
訓練場のようなチュートリアルダンジョン、ここの中心の何もない砂地に炎の範囲魔法を放つ。
「あち、あちちちち!」
近すぎた! あっつい!
「ふえー、大丈夫かな? 服が焦げてたりしたら怒られる」
自分の体の周りを、首を回してチェックする。とりあえず見える範囲では大丈夫みたいだ。
「ノヴァフロスト」
ガギン! ガシャーン!
巨大な氷が空間降り注ぐ魔法だ。ゲームだと氷属性の魔法だけど、この威力で降り注がれたら属性関係なしに死ねる気がする。
スラスタータイフーンは風の刃を生み出す竜巻を起こす魔法だ。ちょっと範囲の予測がつかないので試すのが危なそうだからやめておく。
それと同じように地属性のアースクエイクと雷属性のサンダーレインも危なそうだから撃たない。
まあたぶん同じくらいの範囲だろう。




