アイテム査定
「うわぁ……本当にわけわかんないものばっかりだ」
「そうなのだよ」
肩を落とすのはおじさんだ。
このゴミの山を前にすると、いかにキラキラオーラバリバリーンイケメンおじさんでも顔の周りから珍しくキラキラが消える。それでもイケメン。
「これはコボルド共のリーダーが集めていた……連中のお宝らしい。なんと宝物殿のようなのを用意していたんだぞ? そこにあったものだ」
「なんか意味わかんない像とかあるけど」
二足歩行のムキムキの体にいかにもな化け物の顔が乗ってる像とか、どう考えても邪神像でしょ。
「これでも多少は減らしたのだが。ジルベールよ、マジックセンスは使えるか?」
「うん、使えるよ」
マジックセンスは、なんというか、ゲームでは意味のあまりなかった魔法だ。
その効果は、対象に魔法が掛かっているかを調べる魔法。戦闘中に使うわけではない。宝箱に魔法の罠が仕掛けられていないかを調べるだけの魔法である。
なぜ意味がなかったかというと、シーフがいるからだ。
マジックセンスは魔法の罠が掛かっているかを調べる魔法で、勿論魔力を消費する。
それに対しシーフは、コマンドで調べるをするとパッシブスキルで勝手に調べ、勝手に罠を見つけて、罠があれば勝手に解除するからである。
そして魔力を消費しないのだ。手間もかからないしコマンドを開く回数も減る、誰が使うんさ。
「マジックセンスは魔法が掛かっているかを調べる魔法だ。これにかけてみなさい」
おじさんが、手のひらサイズの虎のぬいぐるみを僕に持たせる。
「マジックセンス」
僕は言われるがまま、マジックセンスを発動した。
「魔法が掛かってるけど、なんだろこれ? ずいぶん強そう」
強そう、というのは掛かっている魔法の力だ。
「これは魔法のドールと言われる、魔法のカードの強化版だ」
「へぇ? そんなものがあるんだ」
これもユージンの奇跡では見なかったアイテムだ。魔法のカードは一度使えば消えてしまう、魔法を放つことのできる道具。
それに対し、これはその強化版という。
「これは魔法のカードと違い、何度か使うことのできる魔道具だ。中にはミドルヒールという中級の回復魔法が入っている」
しかも回復魔法ときたもんだ。
「マジックセンスで感知できただろう? 魔道具かそうでないか、そしてその強弱が。強力な魔法が入っていたり、強力な魔法回路を備えている魔道具であるかの判断はマジックセンスでおこなうのだ」
「おおー」
ゲームの時には一度も使わなかったマジックセンスだ。なんといっても魔法で罠が掛けられている宝箱が出るころには、シーフのスキルはだいたいカンストしていることが多い。そしてそれよりも前になると、『この宝箱には魔法が込められていない』という定型文が読めるだけで、そもそも魔法の罠が掛けられているような宝箱に遭遇しないのである。
「千草も使えるな?」
「は、はい。ビッシュ様」
「キュアカースはどうだ?」
「覚えております」
「うむ、ではミレニアのところに行け。他のマジックセンスを使える者たちは一緒に調べるぞ」
「ん? あれ? 僕も?」
「魔術師はあまり多くないのだ。遊ばせておく意味もないだろう?」
おじさんはそう言うと、今度は小さな手袋を取り出した。
「怪我をしてはいかんからな。素手で触るんじゃないぞ?」
「準備万端じゃん」
おじさんが僕を見てにやりと笑った。これは、雑用をパスされたようなものではないか!
「ないー、ないー、ないー、C―」
とはいえゴミの山に僕が突撃するようなことはしない。だって僕は栄えある伯爵家の次男ですもの。兵士達がごちゃごちゃとしたゴミ山から物を持ってきて、それにマジックセンスをかけるだけである。
「ないー」
そして僕が魔力なしと判断した品物は、兵士がそのまま後ろに運んでいく。そこも人が何人もいて、それぞれの品に金額を付けている。もちろんすべての品に値段が付くわけではない。全員が値段を付けないものは破棄される予定である。
「ないー、ないー、のろいー」
「呪い!?」
品物を持ってきた兵士が慌てて持っていたものを地面に落とした。
さすがに魔物が隠し持っていたアイテムである。値打ち品に見えるものの中には呪われたアイテムもあるのだ。マジックセンスでは呪いの判定もできるらしい。呪われた宝箱なんて存在しなかったから知らなかった。
「大丈夫、使わなければ呪われないっぽいから」
「は、はあ」
「呪いの品はあちらです」
僕が指さす方向にいるのは、僕のお母さんと千草だ。
二人とも神官系の最上位職『高司祭』なのだ。解呪を行う魔法を心得ている。
「は、はあ」
呪いのアイテムは、解呪すると普通のマジックアイテムとなるか魔力が抜けたただの道具になる。
魔力が抜けた物は別の場所で保管らしい。呪いが復活するものもあるので経過観察が必要なのだそうだ。
マジックアイテムだった場合、その場にいるお母さんか千草がマジックセンスを再び行い、等級に分ける。
等級は魔力の強さで分けている。すなわち強い魔力を帯びているか、弱い魔力しか帯びていないかだ。
金や銀で装飾された宝石箱のような箱と、強力な魔法が込められた箱では、込められた魔法の種類によっては魔法が込められた箱の方が価値が高くなるときが多いらしい。込められた力は先ほどおじさんが僕に持たせてくれたトラのぬいぐるみが基準だ。
あれよりめっちゃ強ければAであれと同じくらいならB、あれより弱ければCランクである。
魔道具とは価値の高いものが多いのである。
「ないー、ないー、A……ええ!?」
作業である。とにかく作業だ。兵士が持ってきた物品1つ1つに魔法を撃つ作業だ。
そんな作業をしていると、とある兵士が一つのアイテムを持ってきた。
いかにもな杖である。
あまりにもいかにも過ぎて、逆に胡散臭い。装飾が多くついた見事な両手杖だ。
「なんだろ、何かしら魔法的なものを感じる。しかも滅茶苦茶強い」
「ほんとうですか? いやー、これ持ってくるの勇気いったんですよ」
「あははは」
兵士達の中でも僕の持っていったものが魔法の品なんだ的な目利きをしていたらしい。どうりでないって言うとがっかりしながら通り過ぎていく兵士がいるわけだ。
そんな中、このいかにもなこの杖は逆に敬遠されていたらしい。
いかにも過ぎて、魔道具的な物だとしても誇れないし、逆に魔道具でなければ恥ずかしい気持ちになるわけである。
「めっちゃAランクだね。こいつ、武器として魔法の威力を高めるだけでなく、道具として使ったらなんか魔法を放つと思うよ」
「おおー」
両手杖は魔法攻撃力を上昇させる効果を持っているものが多い。これもその類だろう。ただそれとは別に、先ほどの虎のぬいぐるみと似たような気配を感じた。
おそらく同じような効果があるのだろう。
「次どうぞー」
そこからさらに、魔法の短剣やら魔法の杖、不思議と魔力を感じる石、いかにも呪われてそうな像なのに実は神聖な魔法が封入されている像など、さまざまな品物が発見されていく。ゲームのアイテムはうろ覚えだけど、そんな中でも覚えていたヤバめなアイテムも出てきたりもした。
「ないー、ないー、ないー」
マジックセンスをひたすらに使っているうちに、ちょっとだけ使いやすくなってきた。探知系の魔法の素質がかかわってくるのだろう。僕は属性結晶をたくさん吸収したから、この魔法も得意なのである。
他の魔術師や魔法使いが休憩を取る中、兵達が運んでくる品々に魔法をかけ続ける。
「すみません、休憩入ります。ジル様、ご一緒にいかがですか?」
「え? う、はぁい」
クリスタ嬢も休憩らしい。それに合わせて僕も休憩にした。
しかしクリスタ嬢、他の人達と比較してもずいぶんと長くマジックセンスを使っていられたね。結構優秀な人なのかもしれない。真似をする予定の人を間違えたぜ。
「ジル様は、平気そうですね」
「んー? 疲れたよ」
「……そうですか」
二人して席を立ち、飲み物でも貰おうと歩くと、千草が迎えにきた。
「若様、ご休憩でしたら奥様と。クリスタ様もご一緒にどうぞ」
「はぁい」
「ええ、よろこんで」
千草と手をつないでお母さんのところにいく。
「ジルちゃん、おつかれさま」
「うん!」
お母さんが僕を抱き上げて、イスに座らせてくれた。さすがにお外だから、お膝の上ではないようだ。
「ミレニア様」
「クリスタちゃんもお疲れ様。千早ちゃんもね? 二人とも座って」
「はい」
「いえ、あたしは……」
「いいのです」
お母さんが笑顔で言い切ったので、千早も観念して座る。今日の千早はメイド服だからか、従者としての扱いを希望してそうだ。




