経験値の仕様は良く分からない
数日間僕にべったりだったお母さんだったが、コボルドの対策で新しい動きがあったらしく、外に出る日が増えてきた。
貴族の家ではお披露目までは家から子供を出さない謎の習慣があるので、僕は相変わらず玄関先までしかいけない。
そしてお父さんとお母さんは例のコボルドとダンジョンの対応に追われているらしく、家にいない日が増えた。
使用人の面々もそれに合わせて忙しくなるらしく、彼らの目を盗んでチュートリアルダンジョンに行ける回数も多くなって一カ月弱。変化が生じた。
「あれ、吸収できないや」
属性結晶のうち、いくつかが吸収できなくなった。
「風と土、光は吸収できるのに」
吸収限界でもあるのだろうか? 全種類とは言わないが、いくつかの属性結晶を残して吸収が行えなくなってしまっていた。
「なんなんだろ?」
でもその分、魔法が自在に操れるようになった。
人物探知の魔法で人の現在位置を探って安全を確認、そして空間魔法の『ゲート』の魔法で部屋から授職の祭壇のある授職の間の前まで飛べるようになったので廊下で誰かとバッティングすることもなくなった。
チュートリアルダンジョンの中にも授職の祭壇の近くにもゲートを作る事ができない。ダンジョンにゲートを開けることができないと仮定すると、授職の祭壇ももしかしたらダンジョンなのかもしれない。
「魔法も随分増えた」
それと様々な魔法を扱えるようになったのが大きい。順調にJOBレベルも上がっているようで、初歩的な魔法であれば魔力をほとんど消費しないで撃てるようになったし、消費した魔力も即座に回復している感覚がある。
スリムスポアもだいぶ倒したが、こいつは経験値0で設定されているので僕の身体能力はそのままなのが難点だが、家から出ることができない以上、スリムスポア以外を倒すことができない。
コボルドの出る例のダンジョンが僕も使えればいいんだけど、今は無理だ。なんといっても4歳児。
いつこの続編的な世界でストーリーが進行し始めるか分からない以上、今は少しでも経験値が欲しいのに。
「JOB値にしても、もう少し効率よくいけないかな」
持続的にスリムスポアにダメージを与えられる魔法を考えたい。
スリムスポアのHPは低い。どの魔法でも一撃で倒せる程度だし、4歳児の僕がナイフで何度か刺すだけで殺せる相手なのだ。
「だと威力はいらない。スリムスポアはあの格子の奥の魔法陣から倒されるたびに召喚されて、前進し今の位置で止まる」
その通り道や停止する位置は常に同じだ。そして一度停止すると、ウネウネしているだけで何もしない。攻撃もしてこないし、こちらから攻撃しても反撃してこない。
風の魔法で吹き飛ばした時は、吹き飛ばされた場所から元の位置の戻ろうとする挙動も見えた。まあ途中で力尽きて死んだけど。
「罠のような魔法、威力はいらないけどできるだけ長く続く魔法がいい」
ゲームでもトラップ的な地形があった。砂漠、毒、溶岩などだ。
「持続ダメージだと、やっぱり火かな」
僕は地面に火が立ち上る地面をイメージする。スリムスポアの停止位置、広さ的に言えば一畳もない広さで十分だ。
「炎の絨毯」
地面に手を置いて、イメージした魔法を作成する。
地面から火が常に立ち上るマットだ。
火の魔法だからあまり大きいと危険なのは言うまでもない。だからスリムスポアが2匹立ち止まる位置を囲えればそれだけで十分。
火力も高威力である必要はない。炎である時点で近づくだけで火傷をするような火力があるのだ。白や青の炎のような高熱の物を作り出す意味もない。
「さて、どうだ?」
僕の魔力の半分近くを費やして作った新しい魔法に、スリムスポアは足を踏み入れる。
そして体の半分もその炎の絨毯に入らないうちにスリムスポアは倒れて消えた。
「成功、かな?」
威力よりも持続力に力を入れたその魔法は、スリムスポアを飲み込んでも特別衰えた形跡を見せない。
しばらく見つめていたけど、消える様子もない。
「成功だね。これで他の魔法の練習ができるようになったな」
炎の絨毯は一度発動させたらそのままずっとその場に残っており、維持するために追加で魔力を消費する必要はない。
炎の絨毯にスリムスポアの相手を任せて、僕は他の属性の魔法の練習や、新しい魔法をイメージすることに集中できるようになる。
「ダンジョンの外に僕が出たらどうなるんだろ?」
恐らく炎の絨毯はその効果時間が終わらない限り消えないだろう。僕が気にしているのは、手に入れるはずのJOB経験値だ。
魔物を倒した時に、近くにいないとJOB経験値は取得できないのか。離れていても取得できるのか。
ここはチュートリアルダンジョンだ。ダンジョンの中に仕掛けた罠で魔物を倒したらJOBが上昇するのだろうか?
「ゲームはコマンドバトルだったから、よそで敵を倒すなんて事なかったからなぁ」
分からない事は試すしかない。
僕は外に出る魔法陣に乗ってダンジョンを後にし、ゲートの魔法で自分の部屋に戻るのであった。