父たちの帰還
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秋の夕方ほど空が赤くなる時はないかもしれない。
それも秋が深みを失い、冬の気配が感じられる時期。
その騎士と兵士達の隊列は、熱狂的な声援を浴び、街の人々に歓迎された。
屋敷にいる僕にも聞こえてくるほどの大声援。
これは多くの魔物を撃ち滅ぼした英雄の帰還の合図だ。
そう、僕のお父さんがとうとう帰ってきたのである。
「さ、お迎えにあがりましょ」
「この服よりこっちの方がいいかしら? 姉さんどう思う?」
「その二着に違いがあるのかが分からないんだけど」
「若様に同意」
言いつつも僕の服を脱がし、千草の広げていた服の一つを掴んで僕に合わせる。
「うん。若様凛々しい」
「これ着る!」
凛々しいですって!
「ではそちらにしましょう」
千草がセットになっているズボンやらを広げる傍ら、僕は千早に持ち上げられてベッドに座らされて靴下をはかされる。ちょっとくすぐったい。
「若様、動かない」
「はぁい」
そうしてパパっと着替えさせられた僕の頭を千草が軽く櫛を入れる。別にいらないと思うんだけどね。
その時、ドアがノックされる。
「ジルちゃん、ご準備はどう?」
「できたー」
お母さんがお迎えにきてくれたようだ。
普段からドレス姿で過ごすお母さんだけど、今日はいつもよりなんていうかキラキラしている。
ドレスも光に当たってキラキラ、ネックレスやイヤリング、髪飾りもキラキラ。
「お母さん綺麗!」
「ありがとう。ジルちゃんも可愛いわ」
「僕は凛々しいの!」
「可愛凛々しいわ」
新しい単語が誕生した瞬間である。
「さ、凛々しいジルちゃん。お母さんをエスコートして?」
「うん!」
僕はお母さんの手を取って、一緒に玄関まで迎えにいく。
その後ろにはシンシア達が続いた。
「おかえりなさいあなた。ウェッジ伯爵もお義兄様も、ありがとうございました」
「お父さん! おかえり!」
領都でのパレードが終わると、それぞれ騎士や兵士達は軽い片付けだけして一旦解散だ。
お父さん達も鎧を脱ぐどころか、すでにお風呂まで済ませている。
「ああ。心配をかけたが、もう大丈夫だ」
「あら、心配してほしかったかしら? 失敗だわ」
お母さんが優しい笑みを浮かべると、お父さんは苦笑いした。
「お父さん、怪我はない?」
「お前のポーションの出番はなかったよ。次の機会に使うとしよう」
「そっかー」
どうやらお父さんがポーションを使う場面はなかったようだ。いいことだね。
「旦那様、あれらはいかがしますか?」
「さすがに邪魔だが……とにかく訓練所へと運んでくれ。あそこ以外に置ける場所はないだろう」
随行していたレドリックが何かを確認しにきた、そしてお父さんからの指示を受けてすぐに出ていく。
「あれら?」
「戦利品だ。人型の魔物は時に人を真似て道具を使うし作る。捨て置いたら他の魔物が再利用することもあるので、なるべく回収するのだ」
「そうなんだ? 火とかでバーっと焼いちゃったりしないの?」
「量が少なければそれでもよいが、今回は量が多くてな。わけのわからんものに火を付けたら大爆発なんてことにもなりかねんのだ」
「値打ちものが混ざってる場合もあるしな」
おじさんとウェッジ伯爵が教えてくれる。
「ついでに言うと、今回の仕事は炎厳禁だ。延焼すれば我らが火にまかれる可能性があったし、近隣の村の生活の糧を奪うことも考えられるからな」
「あ、そうだよね。森だもんね」
この間の調査任務でもクリスタさんは炎の魔法が使いづらい環境だからと、お留守番になっていたのだ。あそこよりも更に深く広い森だ。火災なんかが起きたらいったいどれだけの被害が起きるのか、想像もつかない。
「明日にでも見分することにするさ。兄上、鑑定をお願いしますね」
「魔力を持つものだけで良ければな」
つまり魔道具があるってこと?
「見たい!」
コボルドの隠し財産!
「ゴミばかりだがな……まあ興味があるなら一緒に来るといい」
「やった!」
明日はお出かけになりそうである。




