オーダーメイド
「このくらいのサイズでいかがでしょう?」
「そうじゃの、素材は銀で頼む」
「持ち手を木にして先だけを銀にすれば重さも軽くできますが」
鍛冶工房を見に行ける! って思ったのに、鍛冶工房で働いてる人が屋敷にきました。
まあそうよね、ウチ貴族だもん。
それよりもこの人見てください、ドワーフですよドワーフ!
僕よりも背は高いけど、普通の大人よりも背が低くガッチリとしたずんぐりむっくり。
髭がぼさぼさちりちりのイメージ通りのドワーフだ。
やっぱりお酒が好きなのかな?
「すごい早業」
「ありがとうございます、お坊ちゃま」
僕の手を何度か触って、その場で布を広げて小さな木片を取り出してナイフでさっさと彫っていく。まさにプロの技だ!
「いやはや、刃物の持ち込み許可はありがたかったです。もし刃物がダメだと粘土で型取りですから」
「粘土だとダメなの?」
何か問題があるのだろうか?
「粘土だとしっかり握られた時に変形をしたり、家に持ち帰る途中で形が崩れたり、中の水分が抜けて少しばかり小さくなったりと、色々と不具合がでるのですよ」
「変形はともかく、水分が抜けた程度で小さくなったりしなくない?」
どんだけ水分が多い粘土を使っているのだって話だ。
「それでは完璧な仕事ができませんから」
「お、おお……」
すごいこだわり! これぞドワーフって感じだ!
「フォークやナイフだけでなく、武器なんかも作ってるんだよね?」
「まあ作りますが、そんなに頻繁にはやりませんね。武器は騎士様や兵士達の持っている物のメンテナンスがメイン。作成は主にお鍋やら包丁やらが中心です」
「意外……」
もっとバンバン剣やら斧を作っているのがドワーフかと思った。
「いくつか作って在庫としておいてますがね。冒険者の多い街だったらそれでもいいですけど、ここは冒険者ギルドもなく常駐冒険者も多くありませんので」
「あ、そっか」
いくら作っても買い手がいなければ意味がないもんね。
兵士達も剣は携帯してるけど、そんな頻繁に使うほど事件が多い訳ないし。
「武器で一番作るのは訓練用の木剣ですな。あれは消耗品ですから」
それでも壊れた調理器具の修理の方が多いという。
そう言いながら、木で作ったフォークとナイフを千早に渡して、千早から僕のところに来る。
こうしてのんびり会話をしているけど、そこそこ距離を取っているのである。
「このまま使えそう」
「ガハハハ、そう言ってくれるのは嬉しいですが、それは彫りやすい木で作っておりますからすぐに欠けてしまいますよ」
「そうなんだ? なんかもったいないね」
造形はもちろんだけど、シンプルだけど飾りもある。観光地のお土産屋さんで売ってそうだね。
「紋章はお付けいたしますかな?」
「そうですな。セットで四つ。そのうち三セットは紋章付きでお願いします」
「かしこまりました」
「?」
「一つは練習用ですぞ」
なるほど。
フォークやナイフ、スプーンも用途によって大きさが変わるのでそれ以降も作る様子を眺めながら手で握る。
持つ前にヤスリもかけているからすごい気遣いっぷりだ。
「仕事が早いね」
「ありがとうございます。こういったものを作るのは慣れておりますから」
「すごいね。これも一度に作るの?」
「そうですな。型を作ってはめて一気に作ります」
「たくさん作れそうね」
「まあ食器は比較的多く作るものですし、お子様用のものは子供が失くしたりダメにしたりもしますので」
「フォークとかって失くすの?」
どこにいっちゃうんだろ。
「ちなみに一番多く作るのは釘ですな」
「ああ、そりゃそうだ」
利用頻度の桁が違いそうだ。
「そういえば、職人を呼んだの初めてだった」
「え? そうだったんですか?」
元伯爵令嬢の千草が目を丸くしている。
「うん。見たことなかった」
「そういえばお迎えしたことなかったですね……あれ? でもお洋服は?」
「たまにシンシアやファラが採寸してくれるからそれで注文しているんじゃない?」
月一くらいのペースで体のサイズを測られているのだ。
「我々で作ってます」
「シンシア先輩がですか? すごいですね」
千草が尊敬のまなざしでシンシアを見る。千早も驚いている。
だけど悔しそうな顔をするシンシア。
「……デザインがファラ、採寸とカットが私、残りがロドリゲスです」
「お、おう」
ロドリゲス何気になんでもできるよね。いつ寝てるんだろ? あとシンシアデザインの服がボツな理由はなんなのだろうか。




