ぐへへへへ
「ではまた明日くるよ」
「ありがとうございました」
玄関でファラッド様をお見送り。泊めてあげられないのが申し訳ない。
だけど館の主ではない僕が勝手に泊めると言ってはいけないのだ。ここは領主の館、他領の貴族に見せてはいけないものもあるのである。
「お食事までは時間がありますが、どうなさいますか?」
「カード作りでもしてようかな」
普段は寝る前にちょこっとやるカード作成だが、ファラッド様が来て午前中のうちに訓練をしたから、時間が余り気味である。
カードは作成するたびにロドリゲスがどこかに運んでいってるので、お父さんがいなくても作成して問題ない。
千草と一緒にカード作成を頑張ることにしよう。
「ではお部屋に行きましょう」
「いや、リビングでやろうよ。ロドリゲスもいないし」
「かしこまりました」
リビングのソファに座り、千草に紙の箱を持ってきてもらう。
あ、重いもの運ばせちゃった。大丈夫かな?
バタン、ゴロンゴロゴロ。
……だいじょぶかな? ダメかも。
『いたたたた、ヒール』
……回復魔法を使わなければいけない程度にはダメだったらしい。
おっけ、聞かなかったことにしよう。
「若様、ずいぶんたくさん作られましたね」
「カードの束がたくさんだ」
54枚つづりのカードの束が僕と千草の前に積み上げられている。
千草もずいぶん慣れてきた。
「若様、聞いてもよろしいですか?」
「なーにー?」
「先日使われたアイテムのことです」
ギクリ。いつか質問がくるかと思ったけど、今来たか。
「あれね、ふしぎだよね」
子供スマイルでごまかせないかな。
「若様?」
ダメでしたー。
千草に掴まれて、千草のお膝の上に乗せられて正面から顔を見られる。
顔近いっ! まつ毛ながいなー。おめめもぱっちりで、美人さんだ。
「若様が、普通でないのは分かっています。それは旦那様やビッシュ様方もなんとなく感じているでしょう。でも千草は、若様によって植物の魔法が強化されました。こんなこと普通では考えられません」
「うん、普通じゃないよね……」
そうだよね。普通じゃないよね、僕。
「ご、ごめんなさい、その、若様は、実は錬金術を、もうお使いになられるのかと……それで、とんでもないものを、お作りになられたのではないかと」
僕が顔を落とすと、千草が慌ててフォローを始める。
「僕、気味悪いよね……」
「そんなことありませんから!」
あ、ちょっとおもしろいや。
わざとらしく視線をおろし、肩を沈ませ、悲しそうな雰囲気をだそう。
「僕、変な子供だし」
「変じゃないですから! とても可愛らしいですから!」
「変なもの考えたり」
「ジルベールカードは素晴らしいものです! 変なものではありません!」
「変なものを千草に使わせたり」
「あれは! 確かによくわからないものですけど! でもあれのおかげで植物系の魔法が自在に使えるようになりましたし! 」
「僕、変だし」
「変じゃないですから! 普通ですから」
「ホント?」
「本当です!」
「本当にホント?」
「本当の本当に、本当ですから!」
「じゃあいいや」
「………………」
「………………」
「あっ! 若様っ!」
「えへへ。千草がね、手伝ってくれるようになって、嬉しいんだー」
必殺、子供抱っこアタックっ! 子供抱っこアタックとは、正面から思いっきり抱きつく技である。相手が子供嫌いだと通じないが、それ以外にはだいたい通じる必殺技なのだ。
「それで若様」
「んー?」
「あれ、結局なんなんですか?」
「ないしょー。誰にも言っちゃだめだよー」
「いえ、それはいいんですけど、なんなのですか?」
「もう一個いる?」
「いえ、えっと、その」
「もう二個いる? 口止め料ね」
「どこで覚えてくるんですか、それ……」
「千早にも、お父さんにもお母さんにもないしょ。王様とかには、千草が危なくなったら言ってもいいや」
「若様……」
「いい?」
「……分かりました。三個で手を打ちましょう」
「千草も悪だねー。でも本当に他言無用だからね」
「分かってます……でも、若様の半分以下の成果もだせていませんから。それがあればもっと早く、沢山カードを作れるようになるんですよね?」
二人そろってテーブルに視線を向けると、そこにあるのはお互いに作ったカードの山。
僕の方が植物の属性結晶を多く使ってるからだね。一度に作成できる量も速度も圧倒的な差があるのだ。
「ぜったいに、内緒だからね!」
そう言って、ポケットに手を突っ込んで、収納から取り出して千草に渡す。毎日チュートリアルダンジョンに新しいものが生えてくるけど、とんでもアイテムだからね?
「いつも持ち歩いているんですか!?」
「あ! ……えへへへ! ぎゅーーーー!」
「若様、さすがに誤魔化されませんからね?」
千草のおっきな胸に顔をうずめて、また抱っこアタックだ。
大人じゃなかったかって? バカ言っちゃいかんよ。僕の子供ボディを舐めちゃいけません。ぐへへへへ。




