プロローグ
新連載始めました。よろしくぅ
僕の名前はジルベール=オルト。4歳の子供である。
お母さん譲りの赤い髪とつぶらな瞳は、自分目線でみても可愛い子供だ。
元の名前は……まあいいか。
とにかく、日本人の大人だったよ。
気が付いたら赤ん坊になっていた。
異世界転生とか呼ばれている現象らしい。
別に僕に何か特別なものがあったわけではない。普通の家庭で普通に育っていた。
死んだからと? 神様が来たと?
自分が死んだかどうかなんて確認なんてしようがないと思う。それに神様にも会っていないし見てない。
そもそもこちらの転生前後の記憶は曖昧だ。
とにかく何やら聞いたことのある地名が飛び交い、見たことのある道具の名前が飛び交っている世界だ。
うん。
この世界は昔やっていたゲームの世界っぽい。
どっちが先でどっちが後だとか、そんな小難しい話をする気はない。
僕が日本にいたころにやった記憶のあるゲーム。
国の名前が『フランメシア王国』僕が住んでいる場所は『オルト領』である。ぶっちゃけこの辺の名前は憶えてなかった。
でも別口の知識のおかげで、ゲームの世界だとわかった。
ゲームの名前は『ユージンの奇跡』だ。
主人公であるユージンが、6人の仲間と共に人類の滅亡を目論む魔王を倒す王道のコマンドRPG。
これに気づいたのは僕が4歳の頃。つまり最近のことだ。
最初は気づいてなかった。でもお母さんが読んでくれた昔話『英雄ユージン物語』を聞いて僕は思い出したのだ。
話してくれた物語は、英雄ユージンが幼馴染で使徒であったミルファ、元スラムの子供で賢者のガトムズ、そして伯爵家の3男である騎士のバルムンク。
4人が魔王を討伐し、世界を魔族の脅威から救った伝説。
あれ? エルフのマーニャと、虎獣人のジョズはどこいった?
多少内容の変化はあったけど大筋のストーリーと登場人物が『ユージンの奇跡』だったわ。
つまりこの世界は『ユージンの奇跡』の世界なんだろう。
しかもエンディング後。更にそれは200年以上前のことらしい。
これに気づいた僕は、こう思った。
え? 何すればいいの?
だってユージン達はすでに魔王を倒してるわけだし。
魔王が倒されたことにより、魔族も姿を消している。
魔物はいるらしいけど、生きているものは見たことない。調理済みのものなら見たことあるけど。
僕が知っているのはこの家のことだけでしかないけど、少なくとも魔物に襲われるような危険なイベントはまったく起きていない。
国の統治もしっかりしており、騎士や冒険者と呼ばれる職業の者たちが国の安全を守っている。
「しかし、油断はできないな」
そのゲームの世界ということはだ、2とかNEXTとか新とかNEWとかの次回作の可能性があるわけだ。昔のゲームがリメイクされたり、時間が経ってから続編が出るっていう話も珍しくはない。
「次回作の主人公に転生したのかも知れないしっ!」
次回作があったかどうかは分からないが、そう考えると小さな今の内から世界を知り力を蓄えておくべきだろう。
わざわざ転生なんかしたんだ、主人公ではないかもしれないけど主人公の仲間の可能性もある。
前作の魔王のような強力なラスボスがいるかもしれないので、今のうちに強くなっておいた方が良い。昔のゲームは全滅プレイが当たり前だったからだ。
「とてもじゃないが油断できない」
危険な目になんか合いたくないし、痛いのもごめんだ。
ゲームの主人公や、キャラクターに転生したであろう僕は油断できないのである。
「ジル様、起きてくださーい」
「……はぁい」
僕を起こしにきたメイドのマオリーに起こされると、布団から顔を出す。
「ジル様、おはようございまーす」
「うん」
彼女は僕の家、オルト家のメイドである。
茶色く長い髪で、胸が大きいメイドである。
胸が大きいメイドである。
「アーカム様とミレニア様はもう起きてますよ」
「はぁい」
アーカムは僕の父、アーカム=オルト子爵。この辺りの土地を管理するいわゆる地方領主だ。
ミレニアは母、ミレニア=オルト子爵夫人。
それと今は家を出ている兄のミドラード=オルト。王都の騎士団で修行中。
「ん、着替える」
「はい。二度寝はダメですからねー?」
「わかってる」
ベッドから降りて寝間着から着替える。こう見えて4歳の僕はもう一人でお着替えができるお年頃だ。
「ジル様」
「はい?」
「……ちゃんと起きてますね。大丈夫ですね」
「う、うん。顔を洗ったら食堂に行くから」
「こちらでお待ちしまーす」
「はぁい」
ちゃんと起きるから信用して欲しい。
マオリーの監視のもと無事に着替えて、顔を洗い食堂に顔を出す。
「おはよう」
「「 おはよう 」」
ぽてぽてとお母さんに近づくと、僕を軽く抱きしめて頬にキスをする。
「今日も可愛いわ」
「おはよう、お母さん」
「はい、おはよう」
上手に挨拶できましたと頭を撫でてくる僕のお母さん。燃えるような赤い、ウェーブのかかった腰まで伸びた髪を持つ母さん。見た目は20代だ。とても二児の母とは思えない若い彼女だが……。
「なあに?」
この朝の挨拶を忘れると一日不機嫌になるので気を付けなければならない。
「なんでもない。お父さんもおはよ」
「おはよう」
お父さんは金髪碧眼の王子様ルックだ。でも歳相応の貫録も持っている。なんと驚きの領主様だ。
でも家の中でも帯剣していてちょっと怖い。
あと朝に弱いから、朝はちょっと顔が怖い。
「今日もしっかり勉強しなさい。職業の書を得るためにも、多くの知識を持っているべきだ」
「はぁい」
職業の書。
JOBを人間に与えることができる専門書である、マジックアイテムだ。
ユージンの奇跡はJOBを切り替えて攻略していくゲームだった。JOBの入手方法は変わらないらしい。
「大丈夫よあなた。ジルちゃんはお勉強が好きだもの」
「本は好きだよ?」
貴族の子供だからか、家の外に出て遊ぶということがない。
勉強というか、本を読む以外やることがないのだ。
しかし今のうちにこの世界の地理や国の関係など、ストーリーが始まった時に有用となる知識を得ておくべきだと思っている僕には本は大切な情報源だ。
子供ボディのせいで長時間本を読んでいると眠くなってしまうが、そこは仕方のないことのはずだ。
決して僕に集中力がないということではないはずだ。
「そうか。頑張りなさい」
「はぁい」
ちゃんと返事をしているつもりなのに、どうにも間延びした返事になってしまう。
こういう部分が少し情けなかった。