4章9話
『来るぞ!』
いきなりの通信に驚きながらもとっさに回避する。相変わらず探知機には一切反応が無いが確かに目の前に巨大な何かがいる事だけは確かだ。
「とりあえず避けたけど何も見えないし映らないわよ!壊れたのかしらこれ・・・」
『どう見ても海竜がいるぞ!ほら、こうすれば見える様になったろ』
そういった直後、軽く体が楽になったかと思ったリリスの視界にもゴーレムを全身巻き付いてもなお余りあるほどに巨大な海竜が現れた。見る限り顔はゴーレムを丸呑みにできるほど大きい。その目はとっさに手放した遺物には目もくれずにじっとリリス、もといゴーレムの目を捉えて離さない。
「ありがと、でもこれじゃ身動きが取れないわ。指示をちょうだい」
『お前に興味が移っているのならある意味好都合。もっと距離を取る事はできるか?』
一歩下がっても相手は微動だにせずにじっとこちらを見ているだけ。ならばと二歩、三歩と下がり徐々に距離を離して行ってもなにも反応は無かった。
「なんにもしてこないわね。稼働時間にも余裕があるけどこのあたりで・・・」
『いや、ブレスを溜めてるぞ!防御か回避を』
とっさに旋回して後ろを向くと竜の口腔には既に深海を軽く照らすほどの光が収束していた。計測なんてしなくとも完全に回避なんて不可能だとわかる。言い終わる前に一旦通信を強制的に切断。全魔力を結界を展開することに集中させた。幸い魔力はそれなりに余らせているので少々防御に回す程度なら問題なく行えるだろう。
「防御結界起動。衝撃に備えっ!?」
ギリギリ貼る事はできたがゴーレムの全体を丸ごと覆う極光に目を開けている事すらままならない。それにすさまじい振動が操縦席まで伝わって来て少し舌を噛みそうになった。
「損耗率は幸いな事にゼロだけど完全に狙われてるわね。ねぇ所長? 今のブレスは見たでしょ、交戦しても勝てっこないから撤退するわよ」
『こっちも地上に避難する準備がまだ整ってねぇんだ。何分なら戦闘できる?』
「第二射は兎も角それ以上は耐えるのは難しい。そして今貼ったので5分動く分の魔力が持って行かれたから戦闘はまあ5~10分が限界でしょうね。それ以上だと浮上分の魔力が余るかどうかってところかしら」
ただ、本当にあと一撃今のようなブレスを受けるような事になればどうにかして海底から脱出する方法を考えないといけなくなってしまう。緊急脱出機能は搭載されているが、問題は爆発するらしい首輪だ。折角出ても首が吹っ飛んだら元も子もない。
『それでもいいからできるだけ時間を稼いでくれ。機体が持たない時が来たら言え、流石に首輪は外す』
「了解。まあできるだけやってみるわよ」
メインシステム、戦闘モード起動・・・と脳内で何か奇妙な声が聞こえたような気がしたが、一旦それは無視して龍に向かって直進する。幸い相手にブレス以外を撃つ様子は見られない、ならばむやみに武装を展開するよりはと手始めに顔面に右の拳をぶち当てる。
「・・・効果なし、やっぱりサイズが違いすぎるとだめみたいね」
無反応の海竜から再び距離を置き武装を展開。・・・といっても掌のスラスターに備え付けの魔力ビームくらいしかまともな武装は使えない。炉心が動けば出力も引き上げられるのだがそれをやったら自爆待ったなしだ。海中の水温である程度冷まされてもいずれ熱暴走が勝つだろう。
「だからといって低威力を撃ちすぎてもこっちがジリ貧。となると撃ち出さずに指向性を絞って溶断する方がいいわね」
発射される魔力を霧散させずに高圧でその場に留め続けて武器となす。要するにビームサーベルだ。両手に出せば二刀流、下手に撃ちまくるよりは継戦能力は高くなるだろう。ただしこれは射程はそう長くないのが弱点だ。ここぞという場面で初めて使用するべきだし間違いなく片手に出力を集める方がいい。
「ヒット&アウェイを上手い事続けるか一撃離脱に全部を乗せるか。この状況で選べるのは片方。そしてこいつにそんなに回避をできるような機動力は無い。だったら選ぶのは一つね!」
『そうこうしているうちに相手はチャージが終わりそうだ。決めるなら早くした方がいいと俺は思うぞ』
「集中するから静かに! さあこれでちょっとは大人しくなりなさい!」
一気に接近するとブレスをチャージしている口より少し上昇。眼に右掌を押し当てそこから攻撃に利用できる全魔力をサーベルとして押し出した。海中なので聞こえはしないが、溜められていた魔力が霧散していくのととてつもない振動がコックピットにまで伝わってくるあたり目を穿つ事にはどうやら成功したようだ。
「状況はそっちでも把握できてる?」
『ああ、敵は悶絶しながら距離を離して行っている。ひとまず作戦は成功、一旦帰投しても問題は』
「待って!警報が反応して、きゃああああ!?」
霧散した魔力がその場に一瞬で収縮したかと思えば機雷のように大爆発を起こした。




