4章8話
「ちょっとそんな乱暴に押し込むのは止めなさいってば! あと操縦席の中に入り切る量じゃないわよそれ。せめて手の甲に袋に入れて縛り付けておくくらいにしてくれるかしら」
そして格納デッキに場所は移った。リリスは現在最低限の魔力運用ができる程度まで封印を弱められているが、爆発する首輪をはめられていた。なんて非道な仕打ちだ、契約で危害を加えないと明記しているのだからもっと信用してくれたって構わないのにと不機嫌なリリスは現在職員と同じ礼装を着せられ、狭苦しいコックピットに遺物は詰め込めないと同行していた秘書を制止していた。
「というかコレ動くかどうかすらわからないのによくその気になったわねあんた達。これ炉心動かすのに必要な魔力が無いと何分動くかわからないのよ。詳しい機能はルナから聞いてないからわからないけど、仮に炉心が動いたとしても常に冷却魔術使うか極寒環境下でもないと・・・」
「でもないと?」
「中にいる私が高温に耐えきれずに死ぬし機体もオーバーロード起こして大爆発。ここは内部の空間拡張してるんでしょうけどそういうの関係なく纏めて吹き飛ばすくらいの威力は出ると思うわよ」
「それは所長は知っているんですか?」
「さあ、多分知らないんじゃない? そもそも炉心動かすつもりもないからそんな事にはならないし問題ないでしょ。確か予備動力にいくらか魔力の貯蔵があるはずだしここから出て遺物をぶん投げるくらいはできると思う。だからそれは手の上に乗せてくれないかしら」
中のボタンをいじりながら計器を確認する。コックピット内の照明は問題なく灯っているのである程度は内部に貯蔵されているはずだ。
「とりあえず袋に詰めさせておきました。起動したら移動させますね」
「ありがと秘書ちゃん。えーっと、予備タンクの魔力貯蔵量35%って事はざっと30分は戦闘しなけりゃ動くわね。私はこれを起動するから君は所長の所に行きなさい」
そう言って秘書をしっしと手を払って遠ざける。コックピットの中から彼女が出たのを見計らって出入り口を閉じた。全身に腕部、脚部、背部スラスターは問題なく使用可能。戦闘用の武装類は実の所胸部の魔力砲以外積んでいないためこれさえ撃たなければ燃料的にも一目散に逃げる事は可能だろう。ただこの首輪さえ何とかなればの話だが。
「さて、取り敢えず大体の機能は生きてるけれどどうすりゃいいのよ所長さん。注水とか色々進めてくれて問題ないけれど、そっちの逃げる準備とかは整っているのかしら?」
『うお、びっくりさせるなよ。通信するなら・・・って言ってる場合でもないか。こっちは大丈夫だ、注水が終わり次第門を開けるからそしたら出てくれ』
「了解。じゃあしばらく待機してるわね。なるだけ早くやってくれると嬉しいわ」
『なに、早くしないと死ぬのはこちらなんだ。・・・首輪は外したりしてないだろうな?』
「外したら爆発するんでしょ、わざわざリスクをとったりはしないから安心しなさい」
ゴーレムの視界を起動するともう胴体の位置まで水は入って来ていた。腕を上げて確認すると遺物の詰められた袋は確かに掌の上に固定されているようだ。ちゃんとこの縛り付けている物は切れてくれるのかと少々不安になりながらも一通りの機能の起動はできたようだ。表示された稼働可能時間は30分、その間に決着をつけなければならない。
『注水完了だ。すまないが最悪こちらは地上に脱出させて貰う、龍が遺物を受け取ったらさっさと帰ってくれればいいんだがな』
「そしたらこっちの首輪も外しなさいよね。魔力さえ使えればまあ海中から脱出くらいはできるもの。まっ、ぼちぼち出るわよ」
鈍い音を立てながら海中に繋がる門が徐々に開いていく。流石にバタ足で泳ぐわけでもないのでそのままスラスターを吹かせて海中に出た。探知機には一切の反応なし、向かって来ているらしき龍なんて影も形も見えない。
「ねえ、反応なんてないんだけどどういう事かしら?」
『そりゃ接近予想時刻より20分は早めに出したからな。今の内にできるだけ遠く離れて研究所から引き離して欲しい。途中で動力が尽きたら言ってくれ、なんとかする』
「そういう事は本当に早く言って欲しいのだけど。取り敢えず10分で行けるだけ進んだ地点で待機、戦闘になったらその時点で通信は切らせてもらうけどいいかしら?」
そして返事を待たずして通信は何故だか切れてしまっていた。かといって計器に異常がある訳でもないのでリリスはそのまま直進を続ける。暗い海中を移動するのは初めてだという事もあり、この首輪さえなければそれなりに心躍る冒険だったのにと苦笑いをする。
「それにしてもなんか静かね、こんな水中でも魔物くらいはいると思うのだけれ・・・」
『見事にフラグを立てたな先代魔王。接近する影あり、来るぞ!!』




