4章7話
「んで?一体なんだってのよ。わらし、魔力使えない以上ちょっと怪力な一般酔っ払い。何ができるっての」
「いや、まあできる事があるか無いかで言えば一つだけあるんだがとりあえず話を聞け。ここにいる職員の皆も聞いてくれ」
そんな感じで話始める所長。だがリリスは半分くらいまだ酔っているようだ。酒臭さはある程度マシにはなっているものの、酔いで体が火照っているのかシャツのボタンをいくらか開けて大胆に胸元をさらけ出しているので非常に豊満なバストが惜しげも無く露出されており、周囲の職員たちの視線も心なしか誘導されている気すらする。
「とりあえずそこの飲んだくれは気にするな。あれでも元魔王、重要な話になれば自然と食いつくだろう」
「今さらっと凄い事言いませんでしたか所長」
「気のせいだ。これ以上話の腰を折りたくないから流してくれ」
一瞬どよめきが職員の中で起きたが所長があまりにも軽く流すのとフラフラしている酔っ払いに魔王の風格なんて微塵も無い事から職員たちもすぐに沈黙した。
「そーよそーよ、早いところ終わらせてちょうだい。私そろそろ帰りたいのよ」
「そこのは放っておいて本題行くぞ。この間龍の巣に行っただろう、どうもあの巣に龍が戻ってきたようでな。今そこから俺たちが持ってきた遺物を取り返しにこちらに向かっていると地上の方から情報が送られてきた」
「ごめん、今すぐ地上に返してくれないかしら。流石の私もこんなところでくたばるのはごめんよ」
さっきの酔いはどこへやら、一瞬で素面に戻ったリリスはいたって真面目な顔で言い放つ。
「そこでだ、本来なら問答無用でトンズラするところだが一つ賭けに出れる妙案があるんだ」
「そこで私見るの本当にやめて貰っていいかしら、もう嫌な予感しかないもの。先に行っておくけど私は餌になんて使えないし今の状態で龍と戦うなんて無理」
流石にできない事もあるとそこはキッパリと断るリリスだったが所長としてはお構いなしのようだ。
「大丈夫だ、最初からあんたを戦力として利用するつもりは無いからな。ただちょっとばかり龍に許しを請う時の供物にでもなって貰」
「所長ー!」
立ち上がったリリスは無言で右ストレートを叩き込んだ。足をしっかりと踏ん張り腰の入った完璧なパンチ。噂をすればなんとやらといった感じのジンクスがあるのならそれに触れたのは自分だが、こうも堂々と生贄にするだなどと言われてしまってはしょうがない。実際どうするかはともかく一撃入れるくらいは許されると思い全力を叩き込んでいた。
「いいパンチじゃねぇか・・・。一瞬意識飛んだがあんた本当にサキュバスなのか?」
「ふん、フィジカル鍛えてないと魔王なんてなれないわ」
意識を刈り取るつもりの一撃を耐えられてしまったが、鬱憤は晴らせたと得意げな顔。魔力などを封じられているなかでこの威力なら文句なしだろう。
「あなた所長になんてことを・・・!」
「いやいきなり攫って監禁してきた相手に生贄になって来いとか言われたら普通ぶん殴るでしょ。快適な生活させて貰いはしたけどそれとこれとは話が別、悪魔だってイラっと来ないわけじゃあないわ」
秘書が抗議してくるが涼しい顔で答える。それでも何か言いたげだったが、起き上がって来た所長が手で制して止めた。
「怒らせたのは確かに悪かった。だがこれ以外に比較的穏便に事を済ませる方法も無いのが事実でな」
「龍が私を気にいる保証も無ければその後に見逃してくれる保証も無いでしょうに、プランが無いからっていい加減な事言うんじゃないわよ。その盗品取り返しに来てるなら盗んだ物を海中に流すとかやればいいじゃない」
「ここ深海って事忘れてるだろ。持ってきた量も相当な量だ、外に出している間に龍が到着するし下手な事をすると最悪ここが崩壊しかねない」
「じゃああれに積み込んで流せばいいじゃない、この中にあるんでしょ私のゴーレム。コックピットは開けてあげるからその中に入れて隔壁封鎖。そのまま外に出してやればそれでいいじゃない」
どこにしまってあるのかは分からないがアレなら水圧にも耐えれるんじゃないかと適当な案を出すリリス。だが所長の返答は存外乗り気であった。
「わかった、じゃあそうして貰おうか。聞いたな?ゴーレムを格納しているドックに注水準備、搭乗員は勿論そこの悪魔だ。彼女を拘束し次第遺物をゴーレムの搭乗席に積み込め。連絡係は海上との通信は絶やさず行うように。所員は非常用の礼装に着替えて脱出に備えるように。以上!」
「えっちょ今のは冗談だってば、あんたなんで本気にしてるの!? ああもうあんた達もそんな乱暴に縛らないでよ!私乗らないわよー!!」
そんな抵抗もむなしくあっけなく縛り上げられたリリスはそのままえんやこらと担がれてドックへと運ばれていった。
「所長、悪い顔していますよ」
「なに、実際ここが破壊されずに人命の損失が少なく済む方法が他に後二、三個くらいしかないだけさ。というわけで秘書、お前も着替えて準備だ。最悪施設を放棄するのもあり得るからな」
一礼して頷くと秘書はそのままかけていった。しかしなるほど、自分の顔に手を当てると社長は口角が上がっているのに気づいた。なるほど、知らないうちに笑顔になっていたらしい。こちらが余計な事を言って殴られたいえやはりリベンジは気持ちいいのだろう。




