4章6話
「まあその時は瞬殺して城から投げ捨てたんだけど、その後も城に乗り込んでは私に負けてはまた挑んでくるの繰り返し。それでようやく個人の力じゃ駄目って気づいたのか、軍隊を引き連れて来たのよ」
「なるほど、そいつらに負けたんだな?」
水を飲んでからそのまま機嫌よく話すリリス。中々に貴重な話なので所長もいつの間にか部屋に備え付けてあった椅子に座って興味深そうに聞いていた。
「さっきも言ったけど龍と張り合える力持ってたのよ?いくら雑兵を揃えたところで鎧袖一触で余裕綽々の大勝利、腕の一振りで軍は地の果てまで吹き飛ばしリーダーは片手であしらってポイよ。まあその後も大体そんな感じだったわね」
「でも今お前がこうしているって事は・・・」
「繰り返さなくていいわ。そうだ、一つ聞くけどあなたならどうしても正面から力で勝てない相手に対してどう挑む?」
所長は一瞬考えて
「闇討ち毒殺兵糧攻めあたりか? 社会的に破滅させるってのもあるが、魔界はそういう世界じゃないだろ」
とりあえず思いついたものを軽く挙げた。リリスは首を軽く横に振って否定。どうやらそのどれでもないらしい。
「それもあるけどもっと単純で難しい一つの方法を忘れてるわ。正面から勝てるくらいに力をつける、そんな脳筋理論に闇討ちとかの対策にリソースを割いていた私はあっけなく負けて王座を追われたの」
「いやー久々に思い返したけどあそこまで綺麗にぶっ飛ばされるってのも中々ない経験よ。綺麗に腹に全力の一撃をぶちかまされて城外に投げ出されたもの。それで魔王パワーが使えなくなった私はあえなく敗北、今に至るって感じね。まあ大分端折ったけどこれで満足かしら」
「そうだな。少なくとも話を聞く限りだとうちのトップが契約してるのは確かに魔王じゃなさそうだ」
「でしょ? まあ最後に私から一言言うなら上司が契約してるからってそうやすやすと悪魔と契約なんてするもんじゃないわよとだけ言っておこうかしら。後ろを見なさい、アンタに仕事をしろと部下の人が怖い顔してるわよ?」
所長が後ろを振り向くと確かに真後ろに秘書が立っていた。手には大量の資料、時計を見るとかれこれ一時間弱は話し込んでいたようだ。これは勤務時間中にサボりすぎたなと頭を掻きながら席を立つ。
「どれどれ、なあこれ本当に俺が片付けないといけない案件か?」
「当然です。この場所のトップなのですからもっと自覚と責任を持ってください。ほら、行きますよ」
そうして所長は秘書が持っている書類に目を通しながら部屋に鍵をかけて出ていった。
「まあ察してたけどそりゃ自由に歩かせちゃくれないわよね。せめて本でもなんでもいいから時間を潰せるのがあればいいのだけれど」
部屋の冷蔵庫の中には食材はかなり詰まっており鮮度も悪くない。飲み物も自らジュース、果ては酒まで入っているのでその辺りで飽きる事はなさそうだ。ただ、リリスにとってはあまり度数の高い物が無い事だけはマイナスポイントだった。
「娯楽小説が十冊程度・・・まあこれでも十分贅沢かしらね。しばらくは時間潰せそうだし大人しくしてあげる」
酒瓶を一つ開けてそのままあおる。うん、普通に美味い果実酒だ。しかし一気に飲み過ぎるのも勿体ないと思い二口程度口をつけた程度で冷蔵庫に戻した。
「さてと、それはそうと体でも流そうかしら。やる事もないしね」
服を脱衣所で脱ぎ捨ててそのままシャワーを浴びる。こんな海中の施設でまあまあ広めの浴槽などを用意するだけの余裕はあるのかと少し心配になって来るがまあ気にするところでは無いのだろう。
そして数日があっという間に経過した。突然飛んだのは至極単純、本当に特に何事も無く終わったからである。時に誰かが探しに来るという事も無く、かといって何かトラブルに巻き込まれることもなし。かくて世は事も無しなんて世間で何が起きているのか分からない場所に居ながらもそう一人黄昏てる余裕すらあった。
そんなある日の事、ドアが勢いよく開け放たれたところから始まる。
「緊急事態だ! 閉じ込めておいてなんだが力を貸し・・・」
「ふあぁ。あによ、人が折角気持ちよく寝てるって時に」
「うおっ酒臭え。まさかあの中にあった酒全部飲みやがったのか?まあいい、とりあえずヤバい事態になってな、海の藻屑になりたくなければさっさとその酔い覚まして来い。場所は・・・とりあえず地図に目印つけてやるから10分以内に来いよ!」
起こしたリリスは目こそ覚めているが酔いが回ったままだった。いや、正確には起きてすぐに酒を飲んでまた二度寝でもしていたのだろう。時計を見ると時間はもうそろそろ地上では昼時、閉じ込めたのは悪手だったかと思いながら所長は部屋を出た。
とりあえず歯を磨いて顔を洗ったリリスは寝癖はそのまま、足も半ば千鳥足で机の上に置かれたメモを雑に取るとそのままフラフラした足取りで所長の元に向かった。




