4章5話
「とまあ、こんなところだが大人しくしててくれるか?」
「そっちから変な真似してこない限りはね。二人で歩いてる時にちらちら他の研究員が私を見て来てたし、ちゃんと鍵の管理しておかないと絞り殺しちゃうかもよ? というかあんた何で私にちっともエロい視線向けないのよ。それとこれも聞き忘れてたんだけど結局ここってなんの研究所なのよ」
軽いノリでそう忠告するつもりだったが気が変わった。この機会に聞いていなかったことを聞いておこうとベッドに座ったリリスは所長にそう尋ねる。
「エロい目ってそりゃあ俺は妻帯者だからな、嫁以外にそういう目線を向けるのは不誠実だろう」
「ふぅん。風俗とか行ってそうな風貌してる割に一途なのね」
「・・・ナチュラルに暴言を吐くな。で、研究所に関してだが」
流石に癇に障ったのか不機嫌を隠しもしない表情だ。
「あー、ごめん。流石に軽率だったわね。で、私を解剖するわけでも無く、かといってアレを解体するわけでもない。その割には私は閉じ込めてるし場所は深海。普通に研究したいならここじゃなくてもいいでしょうに」
「ここはやってる事は…言っても別に損はねぇか。ずばり魔導工学及び超生物、古代遺物の研究だな」
「超生物というと龍とか神とかその辺? やめた方が良いわよああいうのに関わるのは、私も昔痛い目見た事あるもの。古代遺物もどうせそいつらが残したか落っことしたものでしょうし」
彼女にしては珍しく本気の苦笑いだ。それはもう自分の黒歴史を懐かしむような、でもどこか懐かしむような笑顔だ。
「とは言っても自分で志願して好きでやってるからな。そも龍は兎も角神は研究のしようがねぇだろ。神域に引きこもって出て来ないからな。龍の残した遺物や宝物は巣穴さえ見つければ回収できるが神が残した神剣の類はまず見る事すら叶わん」
「はぁ~、龍も神も同じよ、特に龍の執念深さほど怖いものなんてこの世界に存在しないって断言してあげる。ちょっと宝物ちょろまかして逃げたら魔界まで追って来るんだもの。もし手なんて出したらこんなところすぐに壊れるんだから、私の魔王城みたいに」
「いや俺たちはあくまで龍が既に立ち去った古巣を探索してそこに残った物を持って行ってるだけで流石に龍がいる巣に入るほど命知らずじゃねぇ。幼いころから龍の住処から絶対に物を盗むなって言い聞かせられてるからな」
なので最初はダンジョンなどから遺物を収集していたようだ。だが研究が進むにつれて龍は一度立ち去った巣穴に戻る事は基本的に無いという習性が調査により判明したため今では主のいない住処に潜っているのだとか。
「・・・一応参考までにこちらから聞きたいんだが、何盗ったらそんな目にあったんだよ」
「ちょっとばかし聖剣とか魔剣とか丹薬とか魔導書とか宝石をね、持てるだけごっそりと。なによ、そんなに引かなくてもいいじゃない。龍に使いこなせる知能も腕も無いって思ってたしその時は代わりに役立ててあげようとしただけなのよ」
「それで怒りを買って攻め込まれたんじゃ本末転倒じゃねえか」
「あはは。まあそれはそうなんだけれどまさか魔界にまで来るとは思わないじゃない」
何でもリリスが使った地上への転移門をリリスが閉じたものを強引に拡張して魔界に突入して来たようだ。
「ちゃんと転移門は封じたんだけどね、私が想像してなかった謎の方法でこじ開けて私の城を破壊してって感じなのよ。もちろんその時に奪った物は軒並み取り返されちゃったわ。アイツら図体は死ぬほどデカいのにこまごました技術も持ってるのが本当に・・・」
「わかった。そりゃそんな目にも合うだろうって事が良く分かった。というかよく殺されなかったな」
呆れ七割感心三割と言った様子で所長は言う。それだけ派手に攻め込まれても死なずに済むのは奇跡に等しい。何せ龍は神にも匹敵する存在であり、並大抵の存在は相手にもならないとするのが一般的だからだ。
「まああの時は魔王パワー使えたから。あの力凄いのよ、魔族の王だからって現存する全ての魔族の固有魔術や特性を無制限に使えるの。しかもリソースは魔界全体から引っ張れるから私の消費魔力はゼロで済むというトンデモ仕様。そりゃあ龍の一匹くらいは追い払えるわ、二度と相手したくないけど」
「なるほど。うちのトップが契約した悪魔もそんな化物の可能性が・・・」
「いや? 私の勘だけどそいつは精々貴族レベルで魔王は絶対にありえない」
そこに関しては確信があるのか胸を張って断言するリリス。得意げにムフーと鼻息も少々荒い。
「今の魔王はね、天界との戦争が大好きな戦闘狂なのよね。アイツが私に簒奪戦争吹っ掛けて来た時の第一声知ってる?『お前は魔の王のくせに聖なる者共を何故滅ぼそうとしない! そのような腑抜けた女に魔王は似合わぬわ!』よ。しかも正々堂々と私の執務室にアポも無しで押し入って来てね」
一息でそこまで話すと一旦ベッドから降り、冷蔵庫に入っていた水をコップに注いできて一口飲む。




