3章10話
ルナの詠唱に反応して魔力が放出され、氷の槍を周囲に生成する。フレイが見たところ、詠唱こそ短いがエルフなら誰でもできるような基礎中の基礎魔術。数こそ百を優に超えるほど多いがそれもある程度時間を書ければ誰でもできるだろう。
『ねぇ、それって確実に相手に止めをさせるの? なんか結構派手に被害が出そうな気がする』
「まあ見ておれ、儂とて言われた事くらいは守るのじゃからな」
右手を天に上げ、人差し指をくいっとヒドラの大群の前に向け照準を合わせる。狙うは相手の核・・・では無く胴体。凡庸な魔術だが今回は森に被害をあまり与えてはいけないという縛りがある以上できる限りそれを心がけたいとルナは考えていた。実際の所アホみたいに広いので多少は問題なさそうなのだが、一回気にせずやれば歯止めが効かなくなる可能性もあると理解できていたからだ。
「ただ被害など気にせずやれた方が億倍速いのじゃが・・・まあ外れた分は多めに見て欲しいのう!」
土砂降りの雨の様に怒涛の勢いで降り注ぐ氷槍は、時に地面を抉り木々を割りながらもヒドラの群れに突き刺さる。槍の大きさは一本につき5メートル程度。それが文字通り千本きっかり降り注ぐものだからドドドドドドドドドと言う轟音と振動はしっかりそれなりに離れていたフレイにも伝わっている。
『多めにって言っても流石に限度はあると思うわよ!?』
「まあお主もルーン込めた弓矢で撃ちまくっとるし同じような物じゃろ。それにできるだけ体内にぶち込んでおるわ」
仕留め切れてはいないが確実に地面に縫い付けてはいる。近くにも氷槍が突き刺さっているがそれはさほど問題はない。
「それに、一々殴るよりもこうした方が速いわい。っと戻って来たの」
小刀をキャッチし、それをもう一度空中に放る。それをそのまま空中に固定。突き刺さった氷塊と小刀の間を魔力で結びつける。地表から伸びる魔力の光は小刀の切っ先に収束し、その線の多さはもはや内部の様子を見せないほどである。
「ははは、これで一網打尽と言ったところかの? 行くぞ!」
『ちょっと!とんでもない魔力と相手の量だけど本当に大丈夫なの!?』
「うむ! 問題ない!!」
拳を大きく振りかぶったまま焦り気味に聞いてくるフレイに強く断言。その勢いでさらに魔力の流れる量は増大し、輝き始める。
「ふむ、まあこの数なら単純な魔力の共鳴で十分伝わるじゃろうな。終いじゃ、『ソウルクラッシュ』!」
小刀の柄を思いっきりぶん殴り、同時に魔力を起爆剤として叩き込む。その衝撃は地上から伸びている光に一斉に伝播し・・・氷の槍に伝わったそれはヒドラ達の魂に響き、それだけを確実に破砕した。周囲には閃光が迸るが不思議な事に一切の音は起こらない。ヒドラも一切の叫び声をあげることなく一瞬で絶命している。
「ふう、初めて試した割には随分上手く行ったのう。まあ撃ち漏らしが無い以上十分な威力と見てもいいじゃろうな」
『すごく単純な魔術の割には随分イかれてるじゃない・・・軽く引くわ。これで本調子じゃないんでしょう?』
「いや、割と今できる全力には近いぞ。流石に全盛にはかなり劣るが権能と魔術を併用する分には十分な出力は確保できておる」
着物についている機能の一つに呪縛などの解除や負担の軽減が含まれており、その効果なのか本来魔術と権能を並行使用する際に生まれる負担やダメージを影響が全く見られない程度には打ち消せているので今のルナは今使える100%の力は出力できるらしい。言っている本人の声も明るいので大分調子も機嫌も良さそうだ。
「さて、儂は別方面を掃討しに行ってくるのじゃ。お主は大丈夫か?」
『ええ、この程度なら後は私だけでもなんとかなったりして・・・なんてね? 私も無理しない範囲で頑張るからそっちもほどほどに頑張って!』
矢に刻まれたルーンを起動しながらフレイはそう声をかけてくれた。調子を確認しようと彼女の魂魄を捕捉しようと思ったがその暇があるならきっと掃討してきた方が良いだろうと思い次の密集地に向かう事にした。
「と、その前に武器を調達して行くかの。幸い素材は山ほどある上に魔力もまあこやつらの分を利用してやればどうにかなるじゃろ。『形代作成』・・・これまた安直じゃのう」
尾を刀で切り裂いて中から引き抜いた骨に無色の魂を吹き込みこれに己は剣であると刷り込む。そうすると後は簡単。
「剣の形に変えた式神の完成という訳じゃな。うむ、神域から持ってきた短刀程では無いが中々使い勝手は良さそうじゃのう。して見様見真似ではあるがルーンを刻んでっと」
これを六回ほど繰り返し、ルナが自由に操れる範囲で飛ぶ刀を増やした。あと数本は余裕で増やせるがまあ正確に魂を射抜けるのはこれくらいの本数がちょうどいいだろう。
「ふむ・・・もう少し刀っぽく整えたほうが良いかのう」
形が若干骨らしさを残していたので魔術で削って形を整える。その間にも猛烈な勢いで矢を射かけているフレイはいつ動くのかと思いながら森を駆けているが然程問題では無いだろう。




