三章4話
「よし、上手く脳に刺さったな。フレイ、コイツは一時間くらい放置しておくからその間に茶でも飲むか」
「えっと、私のような普通の狩人が同席してもよろしいのでしょうか?」
脳に解呪魔術を撃ちこまれて軽く痙攣しているルナはひとまず放置してハーブティーを淹れ始める長老。おずおずと私はもうここに居なくてもいいのでは?と聞くフレイにそう答えた。
「ん? 長老として若い衆に茶を淹れてやることくらい普通の事だろう? 別におかしい事じゃない」
「そういうものなのですか。ではご相伴に預からせていただきます」
「クッキーも焼いた奴がある、それを持ってきてくれないか?」
「承知いたしました。あっこれ美味しいですね、お菓子作るの好きなんですか?」
持ってくる途中でなんとなく一つまみして見たが思った以上に美味しいもので驚いた。確かに甘さは強いが決してくどいものではなく、優しい甘さだ。
「まあかれこれ二千年も生きてりゃ菓子作りの一つや二つ覚えるさ。できる事を増やすってのはいいことだ、なにせその方が生きるのが豊かになるからな」
「でも私は生涯かけて一つを極めるのもいいと思いますよ。長い寿命があるという事はそれだけ一つに打ち込めるともいえますし」
「まあそれも認めるが数十年なら兎も角数百年ずっと一つってのはオススメはしないがな。余程ハマれなければ辛いだけになる」
といった感じでルナが起きるまでの間二人で談笑していた二人だったが、フレイがこんな話題を切り出した。
「ところで先程の魔術は本当にただの解呪なのですか? 以前施していただいた時は一瞬で終わってたような気がするのですが」
「あー、ま同族にやるのと異種族にやるのとじゃ勝手は違うからな。ある程度は時間もかかるさ」
「本当は?」
「一時間で可能な限りの情報をアイツの脳から引き出してるところだ。面白そうだろ、神域の情報とアイツの身体構造の仕組みとか」
「勝手に引き出して良い物なんですかね・・・。殴られても知りませんよ?」
デミゴッドだし唐突に封印紋を解いて殴りかかって来るなんてこともあり得ないわけでは無いと忠告したが、長老は余裕の表情を崩さない。
「なに、こちらには攻撃ができない様に封印はしてある。心配することはないぞ」
「ふむ・・・肉体の調子が戻らぬと思っておったらそういう事じゃったか。寝とったら存外べらべらと喋ってくれたのう」
「は?」
二人が後ろを振り返るとそこには体が半透明になってはいるがルナがいた。足はあるが実体はないらしく、まさに幽霊と言った感じだ。
「何を驚いた顔をしておるのじゃ? ただ脳に魔力針を突っ込まれた時点で魂を分離しただけじゃと言うのに」
完全にあっけに取られて思考停止している二人を見下ろしながらポンと手を打ち(体が無い以上当然音は出ていないが)
「おお、そう言えば言っておらんかったの。儂の炉心には冥界神の権能が外付けで埋め込まれておっての、まだ完全ではないが故他人の魂に干渉するなどと言った芸当はちと厳しいがまあそれ以外なら大抵どうにでもなるのじゃよ」
「そうか、うっかり殺して化けて出たなんてことじゃないんだよな? それにしても権能か・・・いや本気か!?」
「長老、私の頭ではよく理解できないのですが」
そんなに驚く事かという目で見ていたが、驚いたまま動かない二人を放っておくにもいかないと話を続けることにした。肉体はしばらく動かせそうにないので当然今のまま浮いているが問題はないだろう。
「まあ儂の記憶を抜くことは特別に許してやるから詳しくは後で己で確認するがよい。簡単に言うとそうじゃのう・・・」
と、自分がなんやかんやで権能を埋め込まれた経緯を話した。
「まあ十全に扱えるわけでも無ければろくに魔術も使えんのじゃがの。どうにか切り離せぬか試したこともあったが全部失敗、恐らく権能の制御と抑制。後は死者の霊魂の循環を維持するために儂の炉心や魔術を使う分の容量が裂かれておると考えるのが自然じゃろうな」
「総括すると今の儂は防御不可能な技こそ使えるが基本お主等にとって危険な存在では無いという事は確かじゃと言っておこう。無論敵対行動をとるようならば話は別じゃがな」
一応使用条件は「ルナの魔力や装備などを含んだ能力が相手より上回っている事」であり今の装備が貧相で魔力量も長老より若干下回るほどに減っているのでブラフだが、記憶を読まれていないうちは有効だろう。
「ふむ・・・。なるほど、ならばこちらも一つお前にかけている紋の効果を開示しよう」




