3章3話
「さあ、入りましょう。長老様なら奥の方におられるはずです」
「ここからは儂だけでも十分じゃぞ?」
「いや私一応監視役でもありますからね? 流石に単独行動させてきたとなったら普通に怒られ・・・って何やってるんですか長老様」
「は?」
歩きながらそんな話をしているとフレイが床を掃いている男性に対してそう口にしたのを耳にした。
「いやいや今お主何と言ったか? そこでいかにも家庭的な服を着て箒で床を掃いておる男が長老じゃと? 流石に冗談も休み休み言うのじゃ」
「なんだ、俺が掃除してたらダメなのかよ」
見た目は壮年といったところか。エルフらしく整った顔立ちにだらしなく無精髭を生やした男がいかにも不服であるというオーラを出しながらルナの方を見ていた。
「いや、長と言うのは普通玉座とは言わんが豪華な椅子に座り客を待っておるものじゃろう? どこに自分の屋敷を掃除する長がおるんじゃ」
「ここにいるぞ。それにここは別に俺の家じゃねぇ、あくまで仕事場だ」
「いや、長・・・いわばその地の主が一番目立つ建物に住んどらんわけないじゃろう」
冥府を統べていた神の元で暮らしていたルナにとって主とはそのような物だと認識しているが、冥府とエルフの里では文化も何もかも違うのだろう。
「まあまあ、そこで言い合っていないで別の場所に移動しましょうお二人とも。長老、そこのルナさんは文化圏が我らとはかけ離れた場所から来ておられるのでその・・・」
「ああ、お前が件のデミゴッドか。悪いがお前の装備品は預からせて貰っている、と言うのは後にしようか。ついてこい」
そう言われるがままに後について行く二人。中も変わらず木目の廊下を歩きながら長を観察してみると細身だが秘めている魔力は中々の物だ。対してフレイは正直言って長の十分の一程度の低い魔力だ。ふむ、長老は兎も角フレイなら簡単に捻れるなと分析しながら歩いていたがすぐに気づかれてしまったらしい。
「ルナさん、あまり人をじろじろ見るのは失礼ですよ?」
「すまぬすまぬ、相互の戦力差は把握しておきたかったのじゃ。まあ最悪儂も抑えられかねんと言いう事がわかっただけじゃったがのう」
余程のことが無い限り負ける事はあり得ないが長老が施している紋や結界を見る限り自分の知らない魔術が使われている可能性は高いと判断し、一旦自分も制圧される可能性を考慮して武力行使は控えよう。
「さて、では話を始めようかデミゴッド」
「うむ、それは構わぬがお主の名は何という。よそ者の儂がお主を長老と呼ぶのもおかしな話じゃろう?」
「いくら何でもその態度は不遜過ぎないですかルナさん・・・」
執務室に通され、来客用のソファーに座る長老。そして彼に促され下座に座る二人。早速本題に入ろうとした長老に対して名前を教えろというグレースに苦言を言うフレイ。
「ふむ・・・まあ確かにそうじゃな。失礼した」
「構わない、その代わりこちらも敬称を用いる必要はない分楽だからな。ティタンだ、よろしく」
「ルナじゃ。して、要件とは何かの?」
オベロンみたいな名前じゃないのじゃなと内心思ったが、それは妖精族の長の世襲制の名前だったなとくだらない方向に思考が飛んで行きそうになったがそれより要件を済ませる方が先だろう。
「いやあ、お前には一つ頼みたいことがあってな。しかも中々の火急の要件、解決するまで結界の外に出すわけにはいかないと来たもんだ。まあここで暮らすってならこちらでじっくり時間をかけて解決するのもアリなんだがな」
「要するに出たければ手伝えということじゃな、何をすればよい」
やや食い気味に反応するルナ。
「逸るな、そしてその前に一つ解呪しといてやる。フレイ、二秒押さえつけろ」
「了解しました」
「ぬおっ!?」
急だったのでかなり反応が遅れたのか、はたまたフレイが速かったのかは分からないが、何時の間に背後に回った彼女に肩を押さえつけられ椅子から立てなくされてしまう。
「よし、じゃあそのまま動かすなよ? かなり深いところまでやられてるがまだ余裕だ。『ディスペル』」
エルフの解呪の魔術なのだろうか?ティタンがそう詠唱すると人差し指の先に魔力で構成された鋭利な針を生み出した。そしてそれをあろうことかルナの額に向けている。
「おい、まさかそれを儂に刺そうとは言うまいな? いくら儂でも脳へのダメージは普通に効くのじゃが」
「ただの治療だ。淫魔と何度か交わっているようだが、完全にパスが繋がる前で良かったな。そのままだと魔力が無尽蔵に引き出されたりとまあかなりの不利益を被っていたのはお前だぞ」
「そうか・・・? いやまあそのような気はしておったがアヤツ中々に床上手でな、女子同士でもあれよあれよと達せられるのじゃよ。あの手練手管を味わう代金としては安いのっ゛」
言っている途中で脳天にぶっ刺された。それはもうとてつもなく嫌悪感を帯びた顔で突き刺してきた。ああ、そう言えばフレイの奴相当淫魔嫌っておったが種族的なアレじゃったかと思いながらルナの意識は刈り取られた。




