3章二話
「あっ、探しに行かれるのは結構ですがこの森は今封鎖されているので最低でも一月は滞在して頂く必要があるんですけど・・・。はい、それに長老が本気で森を結界で閉ざしているので解除とか無理矢理押しとおるのも無理かと」
「なんじゃと!?」
早速リリスを探しに行こうと勇んでベッドから立ち上がったルナだったがすぐに出鼻を挫かれてしまう。
「それにあなたの来ておられた衣服もまだ乾いていませんし、そもそも長老が監視しておられるので当面はここで生活して頂くことになるかと!」
フレイはにこやかにそう伝えるが、ルナの顔は混乱と焦りがハッキリと現れていた。そういえば勢いに任せて立ち上がったはいいが、よく自分の恰好を見て見ると上下の下着以外何も身に着けていない上に下腹部には謎の紋様が浮かんでいた。見たことの無い魔術体系のものだが、フレイが先程言っていたことから察するに長老が監視用の魔術を施したと考えるのが妥当だろう。そして外に服は干してあるとは言っていたがここから窓の外を見ても物干し竿の一つも見当たらない。
「渇いておらぬ、ではなく強力な装備を取り上げておきたいだけじゃろうが。寝間着に使っておったとはいえアレは冥府から持ち出してきた物、神衣とは行かぬが汚れんかったり身体能力が上がったりする優れモノじゃしの。概ね儂に呪文を刻むときに剥いたまま何処かに持って行ったのじゃろう?」
「いえ、普通に洗って干していますよ? 恐らく魔力封じの鎖の効果でそのような機能は概ね停止していましたので地面に寝ておられる間にかなり汚れていました。まあ干してある場所は長老が把握してますけども」
「結局取られとるのと同義じゃな? まあよい、場所がわかったなら構わぬよ。それならば代わりの服を用意してはくれぬか?」
何にせよ今のままでは流石に肌寒くなって来た。比較的暖かい部屋なのだがいつまでも下着でいるのは寒い上に少し恥ずかしい。やや照れくさそうな顔でそう頼んだ束の間、
「私のもので良ければ大丈夫ですよ。ただその・・・子供の頃の物になりますが」
「構わぬ、感謝するぞ」
改めてフレイの容姿を眺めてみると長い金髪をそのまま垂らしている長身の美人、ただしエルフらしく胸は絶壁だ。それはもう断崖絶壁といっていいほどの壁であり、下手すればルナより小さいものであろう。
「なにやらとても失礼で不躾な視線を感じますね。では持ってきますので少々お待ちください」
「うむ、確かに丈は小さいが・・・もう少しまともな物は無かったのか? 狩衣にしか見えぬぞ」
「まああったのがこれだけでしたので」
手渡されたのはエルフの伝統的な狩猟衣装。薄い緑を基調としたシンプルな色で上下に分かれた衣服である。あくまで防具の下に着るものであある以上生地は薄く袖と裾も短いものになっている。普段着物かそれに近い物しか来ていなかったルナにとっては中々珍しい体験だった。
「ふむ、被り物もついておるのか。外出するなら被った方が良いのか?」
「そうですね・・・人ミミをしておられるので視線は否応なく集まりますし、それが嫌なら被っておいた方がいいかもしれませんね。そこのところはお任せします」
「ふむ、儂は変に怪しまれるくらいなら堂々としておく方が性に合っておるし被らぬ事にするわ。して、なにか紐を持っておらぬか? 髪を結びたい」
「私は拾った恩人のはずなんですがね・・・。これでいいですか?」
受け取った紐で長い黒髪を後ろで一つに纏める。そろそろある程度短くしたいなとくだらない事を考えながら用意されていたサンダルを履く。ガチャリと鍵を開けてそのまま森の中に出る。
「ほう! これがエルフの里か!」
「なかなか綺麗でしょう? 私も此処に生まれて数百年経ちましたが、ずっとここにいてもいいくらい好きな場所なんですよ」
目の前に広がったのは木漏れ日が降り注ぎ樹木でできた建物が立ち並ぶ美しい街だった。なるほど、空間が何かしらの結界の効果で大幅に拡張されているらしい。自分の探知魔術で感じ取れる森の範囲より街の方が圧倒的に広いのはそういう事なのだろう。
「ふむ・・・確かに綺麗じゃな。しかし何かが足りぬような・・・いやあれが長の住んでおる大樹と言うのは分かるのじゃぞ? しかしのう」
「あはは、少し気を張り過ぎではありませんか? 一旦町で気晴らしでもしてから長老の場所に向かいます?」
ルナが言い知れぬ違和感に首を傾げているとフォローのつもりなのか街で少し時間を潰そうと提案してくれているが、それを手で静止する。
「いや、街を回るのはひとまず後でよい。先にお主等の長に合わせてはくれぬか?」
「はぁ、ルナさんがそれでよろしいならそれで構わないのですが・・・。では案内しますね」
案内に従って街道を歩いていると、ひそひそとエルフ達の話し声が聞こえてくる。
「ねぇ、アレが噂の・・・」「ああ、デミゴッドみたいだ。」「なぜか人ミミだけどとても可愛らしい見た目をしているのね」
などと口々に言っているようだ。
「ね、目立つって言ったでしょウッ」
といたずらっぽく笑うフレイの腹を小突く。
「すまぬ、知り合いの面を思い出したのでな」
「貴女の小突くって普通にエルフの無強化全力パンチくらいの威力はありますからね?」
そう軽口を言い合いながら辿り着いたのは大樹の前。北欧風の紋様が刻まれた大きな扉が低い音を出しながら開いて行った。




