二章17話
「行くよ、『薔薇十字の破砕槍』」
魔力で構築されたのは蔓が幾重にも編まれ、薔薇が真紅に咲き誇る穂先。演出重視なのかブワッと花弁が一気に周囲に舞い、いかにも豪華仕様といった感じである。
「クロノスフィアちゃん、誘導はできる?」
「追尾は編みこんでるから君の視覚と筋力を上げておいた。ほら、撃って!」
「わかった! はああああああああ!!」
一時的に限界まで強化された腕を振るい、竜の口内目掛けて槍を投げ放つ。花びらの様に燐光が散りながら一直線に飛翔する槍は、迎撃しようと放たれた咆哮を引き裂きながら体内に侵入する。
「弾けて!」
そしてそう叫ぶと槍の全体から無数の巨大な棘が出現し海竜の体内を貫く。口内から眼球や頭部全体を内側から破壊され海竜は絶叫しついに水中にそのまま没していった。
「・・・やった! 倒したよクロノスフィアちゃん!!」
「うん! 魔力反応も脆弱なものになってる。相手が相手だから当分油断はできないとはいえ撃破成功、晴れて君はドラゴンスレイヤーってところかな?」
「あはは、スレイしたのはクロノスフィアちゃんの力が殆どだしそれは貴女の称号だよ。そうだ、せっかく倒したんだしハイタッチしようよ。ほら、手を出してクロノスフィアちゃん」
「君が撃ったからこそだってのに。なら、ドラゴンスレイヤーは私達ってことにしとこうか」
繋いでいた手を離しそのままハイタッチ。パァンと気持ちの良い音が響き二人の顔にも笑顔が自然と浮かんでいた。グレースの見た目がモルジアナと同等くらいに成長しているのも相まって洞窟の中だというのに青春のような雰囲気を醸し出していた。
「それにしても綺麗だねクロノスフィアちゃん。可愛い子供から一気にどこかのお姫様もかくやってくらいの美貌になっちゃて・・・。私が何処かの王様なら一目で見初めちゃうかも?」
「うん、改めて褒められるのは凄く嬉しいんだけれどとりあえず私の回復終わらせちゃってもいいかい? さっきの海竜の暴れっぷりで若干地脈が乱れちゃってるみたいでさ、完全回復とは行かないけど権能も使える能力を拡張しておきたいし魔術もある程度使えるまで・・・まあ6割くらいまでは回復できそうなんだ」
あと五分でいいから待ってて!と言い残してグレースは再び収束点に飛び込んでいった。徐々に乱れつつある今、できるだけ魔力の流動量が多い場所に行った方が良いという判断なのだろう。
「わかった。多分敵もいなさそうだし、私は今の内に時計探しておくよ」
というわけで来た道を戻りながら地面に落ちていないか確認している。魔力の奔流が流れている場所の下は海中。しかもかなり深いところなのでとても泳げたものでは無いだろう。そもそもオアシス地帯から来ているモルジアナに海で泳ぐという事はできるはずも無かった。
「確かこのへんで転んだはず・・・あれなのかな?」
壁面の方に吹き飛んでいた時計らしきものに近づいてみる。なるほど、術式が刻んであった部分も丸ごとひしゃげてしまっている。少なくとも時計としてももう使えないという事は確かだろう。
「あちゃー、まあ安物だったから良かったけどやっぱり私物が壊れるのって結構堪えるなぁ」
二束三文というわけでは無いが比較的安物の時計という事に変わりは無い。それでも壊れている所を見るのはやや悲しいのだ。屈んですっかり針も歪んでしまった残骸を拾い上げ、一応術式だけでも生きていないかと魔力を流してみる。・・・反応なし。本当に使い物にならなくなってしまっているようだ。
「そういえば私の身体弄ったってクロノスフィアちゃんが言ってたけど、彼女の魔力を受け入れれること以外に何か変わってたりするのかな?」
デミゴッドの魔力に耐えれるように弄ったとは言われていたが、具体的にどこが変わったのか実感できていない。まあ単純に肉体が固くなったのかなと解釈していたが、魔力回路だけ強化しても器である肉体が保てなければ普通に死ぬのではないかと思ったのだ。
「筋肉は・・・別に強くなってるってわけじゃない。魔力の量は大して増えてない。あっでも通りは凄く良くなってる」
試しに身体強化をかけて見たところ、段違いの速さで全身に魔力が行き渡り効率もすごくよくなっていることが分かる。軽くかけただけでも今までの大体三倍くらい強化できている気がする。
「なるほど・・・。強力な魔力を体の中に凄い速さで通せるって事は普通の魔力ならそれ並みかそれ以上の効率と速度で回せるのかも?」
おもむろに壁にパンチしてみると軽いクレーターができた。どうやら思った以上に強くなっているようだ。これ以上暴れまわる事は止めておいた方が良さそうなので、一旦グレースの様子を見に行くことにした。
「クロノスフィアちゃーん! あとどれくらいで終わるー!?」
「もう10分・・・いや一時間くらいはこのまま回復に専念してたいけど大丈夫ー!? いやなら切り上げても良いよー!」
「大丈夫!! ただ結構退屈になって来ただけだからー!」
わざわざ切り上げさせるほどの物でもないのでそのまま暇をつぶすことにした。




