二章16話
「きゃああああ!? ク、クロノスフィアちゃん助けてぇ!!」
一体全体どうやって侵入してきたのかさっぱり分からないが、大きな波音と共にモルジアナの眼前に飛び出してきた海竜。どうやら魔力の奔流の光で見えないだけで下は海に繋がっているようだ。おそらく海中洞窟を経由してきたのだと考えられるが、流石にそう悠長に思考している時間はないようだ。時を止めるより先に体が反射的に動いたのか、助けを求める為に大声でグレースの名を呼びながらグレースの方に駆け出した。
「時間止めて逃げなよー! 私今動けない!!」
辛うじてだがグレースに声は届いた。だが、返って来たのはそんな返答。時計を手にして後ろを振り向いてみたが、既に後ろの道は迫りくる竜の身体でかなり埋まってしまっている。
「止めてもアレに触れない様に逃げるなんて無理だよクロノスフィアちゃん! 確か触れてる物は停止対象にならないんでしょ!確か触れてる物は停止対象にならない?」
「指向性をちゃんと持たせれば大丈夫だからー! あいつは動かさないってちゃんと意識できてさえいればちゃんと止まるはずだよ! 見た感じアレは私より弱いから権能を破られるなんてことはまずありえない! まあそれでも不安なら・・・」
「不安なら?」
「私を停止対象から外してその場で時間止めて待機!!」
結論は私が回復するまで待機という事だった。
「わかった! と、時よ止まっ」
そして時計をいざ魔力を流そうとした瞬間だった。あえて言語化するのなら「Gyaaaaaa!」といった感じだろうか。とにかく地面を激しく振動させるようなとてつもない音量の咆哮が海竜から放たれた。当然、宙に浮いているグレースとは違い地面を走っているモルジアナは勢いよくすっころんでしまう。大音量に思わず耳も両手で塞いでしまったのでかなり勢いよく顔面を打ち付けているようだ。
「痛い・・・。でもとりあえず時間をって時計は・・・うそでしょ」
「まさか壊れちゃった感じだったりする?」
聴力が強化されているのか定かでは無いが若干引き攣った声をかけてくるグレース。感覚的には15歳くらいには体も成長させれているが、まだその場から身動きは取れないようだ。
「ううん、転んだ拍子に下に転がって行っちゃたのかも・・・」
「まあ無いなら仕方ないか。防御魔術は使える?」
時間が止めれないなら防御で耐え抜くか防ぎながら逃げるかすればいいと提案しようとしたグレースだったが
「いくら何でも私の魔術で龍の攻撃は防げないよクロノスフィアちゃん!」
とバッサリ無理だと言われてしまった。
「じゃあワンチャン狙ってアイツをひるませるとかは? それも無理なら正面から出口狙いで突撃するとか」
「鱗を抜けるような貫通魔術は持ってないよ。それに普通のじゃなくて魔力全部使い果たすくらいの最大火力なら一か八かあるかもしれないけれど、そしたら逃げるための魔力がなくなって本末転倒だよ」
「そうじゃなくてとりあえず閃光で目眩しろってこと。基本深海にいるんだし効くでしょ多分」
冷淡な声でそう伝えるグレース。魔力の収束でかなり強力な光が出ているのにそう効くものかと疑ったが四の五の言える状況じゃないのは確かだ。
「効かなかったら恨むから! 『フラッシュシュート』!!」
頭くらいの大きさの閃光弾を生み出して海竜の目ん玉目掛けて打ち出す。攻撃力が無いと見たか完全に意に介していないようだが、今回に関してはそうでないと困る。
「弾けろ!」
「待ってコレ私の目も死ぬ奴じゃないかいモルジアナ」
そんなグレースを無視して光に背を向けて顔を伏せる。迸る閃光と共に聞こえる海竜のくぐもった叫び声とグレースの絶叫を聞きしっかりと効果があった事を確信して若干微笑みを浮かべるモルジアナ。後に体を再構築し続ける作業はかなり集中しないといけないらしく、そう簡単に体を動かすことすら出来ないとの事、だから強烈な閃光を直に目に喰らってしまったのであろう。
「やった! 通じた・・・のはいいけれどどこから逃げれば・・・」
なのでグレースは一旦放っておいて逃げようと思ったのはいいが目を完全に焼かれたのか叫びのままに方向も分からず暴れまわる海竜を見ながら足を止めていた。自分を狙って来るならばまだ指向性がある攻撃なので避ける事ができるが暴走状態ならそれも読みにくい。
「海にでも飛び込めばいいんじゃないかい?」
「水中呼吸の魔術とか習得してないから厳しいよ。というか意外と復帰早かったねクロノスフィアちゃん」
「そりゃ網膜焼かれたくらいなら回復を回せば再生くらいできるさ。今度からはせめて伝えてくれたら嬉しい」
やけに声が近く聞こえるので右に振り向くと奔流の中心にいたはずのグレースが浮遊しながら話しかけてきていた。
「ところで中心から結構離れちゃってるけど大丈夫? 見た目もちっちゃくてかわいかったのが可愛いけど綺麗で美しい、いやもうセクシーって感じと言うか・・・今何歳くらいの身体なの? 大体背は私と同じくらいに見えるけど」
そう舐め回すようにじっくりとグレースの身体を見ていくモルジアナ。幼児体形に合わせていたキトンは年不相応に豊満に育ったバストやムチムチと音が聞こえてきそうな太ももに広げられてかなりぴっちり・・・いやもうぎっしりと例えたほうが適切なほど凄い事になっていた。下着をつけているか否かは確認したかったが、ピンク色の脳細胞が活性化するのを抑えて辛うじてまともな質問をした。
「うん、私に見蕩れてくれるのはまあいいんだけどその前海竜を何とかした方がいいんじゃない?
ちなみに体は今は15歳くらいだけど後二歳分は最低でも増やしたい」
「うん、ここから成長するのはなんかもう凄い事になりそうだけど私じゃアレを何とかするのは無理だから力貸してクロノスフィアちゃん!」
視界が回復したのかのたうち回っていた海竜はぴたりと動きを止めたかと思えばゆっくりと鎌首をもたげこちらに視線を向けてきている。目には殺意の光が宿り確実にモルジアナを殺そうとその口内に強大な魔力を収束し始めていた。そう、御伽噺の竜の代名詞、大咆哮である。ドラゴンならばブレスと名称は変わるが種族が違うが故の物であるので本質は変わらない。
「じゃあほら、また手でも繋ごうか」
「こんな時に何を・・・って演習の時のアレをやればいいのね。でも地脈の魔力なんて私壊れちゃわないかな」
「この前の時点でデミゴッドの魔力を受け入れれる様に体は弄ってあるからこのくらい余裕余裕。ほら、どんな一撃をお見舞いしてやりたい?」
勝気な笑顔で手を伸ばす。
「固い鱗をぶち抜くくらい凄い一撃。洞窟が壊れないくらいに威力も絞らないと」
「じゃあ形は槍。私は内部破壊を主とした術式を構築するから出力の調整は任せるね、私は今魔力が満ち過ぎてるからそこんところ加減が効かないんだ」
いつの間にか体を改造されていたことには驚いたが、よく考えると時計経由でクロノスフィアちゃんの魔力を使えていたなと思い出しつつちょうど自分が持てるサイズの槍になるように調整する。
「ざっと形はこんなものでいいの? いい感じに投げれそうだけど」
「そうだね、後は相手がこっちに向かって撃ってくる瞬間を狙って・・・今!!」
ついに極光が解き放たれんとする時、グレースがタイミングだと叫ぶ。




