二章15話
「さて・・・ここが収束点の中核。早速準備にかかりますか」
グレースは膨大な魔力の流れに押し負けぬように自分の周囲360度の空間を周りから切り取る事で疑似的なバリアを形成して中心部に飛び込んだ。これからやる事は奔流を吸収して自分の身体を修復すること。ついでに権能の適応と完全起動が可能な分の魔力も確保できれば万々歳といったところだろう。
「まずはえーっと・・・とりあえず薄着に着替えるか。制服ズタボロにするわけにもいかないし」
時間を巻き戻せばいいとも考えたが、わざわざ魔力を無駄にする必要もないと考え、ちょっと亜空間から地上に降りる時に身に纏っていた襤褸切れを修繕したキトンに着替えた。下着はそのまま、だが隙間が多いため風通しはいい。周辺の気温は地下とは言え膨大な魔力が流れる余波により寒いどころか春くらいには暖かい。
「よし。じゃあ権能と疑似神核を両方とも起動、魔力炉心解放、外部からの魔力供給を開始。さて、どこまで戻せるかな?」
バリアを解除し、莫大な魔力をその身に受ける。そしてダメージに転化される前にそれらを全て体内に取り込み、一部をエーテルに変換してそれを体内にそのまま吸収する。エーテルは簡単に説明すると純粋魔力をさらに凝縮して変質させたものである。それもまあ際限なく注がれる地脈の魔力があればグレースの体内の炉心だけでも余裕で一気に生成可能だろう。
「まずは体から再設計していこう。そうだね・・・今が人で言う十歳くらいの身体だからさしあたり十四とか十五くらいにしていくかなぁ」
「まぶしくって何も見えない・・・。大丈夫かなクロノスフィアちゃん」
水筒に入れておいた紅茶を飲みながら中心にいるグレースの様子をうかがいながらモルジアナは周りを見渡す。とんでもない量の魔力が蠢いているという事とその振動がここまで伝わってくる事は分かるがそれだけを見ていても退屈してしまう。立ち去りたい気持ちも少しあるが言い知れない嫌な予感がするため離れるにも離れる決断ができずにいた。
一方そのころ学園。理事長室でマリネウスは学園に所属する魔術師達に詰め寄られていた。
「マリネウス様! 地脈の魔力が何者かに吸い上げられています! このままの勢いならばじきに防衛機構の機能が停止するかと!」
「今すぐその者を止めに行くべきかと思われます。すでに我々の方でも討伐隊を編成しておりますが・・・」
「放っておけ、我々が総出でかかっても烏合にすぎぬ。それに地脈は古来より龍脈とも呼ばれていてな、あれもまた魔力を糧とする生物。己がテリトリーを無断で食い荒らされては黙ってもおるまい」
椅子にどっしり構えてそう言い放つ。ただ学園の施設の機能がかなり停止することはもはや免れないだろう。ちょうどあの辺りは海中洞窟とも繋がっている。巨大さ故に大海龍は入れないだろうが眷属の海竜ならば普通に襲撃してもおかしくはない。龍脈は竜や龍などといった高位の魔物がエネルギーをを得る為に侵入することも多々あり、それは学園地下でさえ同様の事である。万が一龍が強引に突入してきた場合は地盤沈下も覚悟するべきなのだ。
「だがやって貰う事はあるぞ。動力を一時的に地脈からでは無く人造魔力炉心に切り替えろ。それで当面は問題ないはず。それも生徒に気取られぬようにな。奴の強化事態は成功しようが失敗しようがまあ今更止める術は持たぬ、そこは交渉か契約でどうにか治めるか。ほっほっほっ」
軽く笑いながら手をパンっとひとたび叩けば一斉にその場に集った魔術師達は一斉に動き出す。実は炉心は試運転を終えたばかりの試作品なのだが、こうなっては仕方ない。
「さて、グレース殿の炉心をこっそり解析して作った人の作りし神の心臓。神罰を下されなければいいが・・・」
炉心に火が点く。オリハルコンなどと言った希少な金属をふんだんに使われて作られたソレは夜明けの太陽のように眩く輝きながら無事に起動を果たした。
『マリネウス様! 無事に安定稼働領域に達しました! 成功です!!」
そして肩を叩き合って喜ぶ開発に携わった魔術師や錬金術師からの連絡を聞きながらマリネウスはそんな懸念を抱いていた。彼女が何の意図をもって地上に送られたのか、その意図を知らぬものからすればグレースの視点から天が我々を見定めようとしているのかもしれない・・・と思っても不思議では無いのだろう。実際は姉妹喧嘩の末に着の身着のまま放り投げられただけなのだがそれを知る由は無いのであった。




