二章14話
「さて、そろそろ人もいないし出てきて大丈夫だよ。ここからは一緒に行動しよう」
「わかった。・・・それにしても凄いんだねクロノスフィアちゃん。まさか拳だけであんなに戦えるだなんて思って無かったよ。私よりちっちゃな手足なのに」
物陰からひょっこり出てきたモルジアナはグレースの横を歩きながらそんな事を呑気に言っていた。
「そりゃデミゴッドだしね。弱体化してるとはいえあのくらいなら全然やれるさ」
素の身体能力でもあれくらいは余裕。魔力の消費も極限まで抑えれているから上々だ。
「ところで時計の調子はどう? 不具合とかあるなら軽く手直しはできるけれど」
「全然いい感じだよ。ここに来るときも結構使わせてもらったけど本当に全部止まってたもの。この力って本当に便利なんだね」
突然の呼び出しを受けてそのまま駆けつけたモルジアナだったが、時計はどうやら授業中の教室から抜け出す際などに使って来たらしい。その後も色々と支度をするのにも時間を止めたまま行ったとのこと。しかし彼女は笑顔でそう言っているが、対するグレースの表情はやや暗い顔だった。怒りと不安の中間と称すのが正しいのかもしれない。
「うん。実際すごく便利なのはそうなんだけど一つ忠告」
「どうしたの? いきなりそんな神妙な顔して」
きょとんとした顔のモルジアナ。だがこれはできる限り早く伝えておく必要がある事だろう。
「自分以外の時間を止めるってことは周囲より早く自分の時間を進めてしまうって事だけは忘れないでおいて。とりあえず私がいる間は使った分の君の身体の経過時間は巻き戻せるけど、あんまり使いすぎるとその内自分だけ周りより年をとってるなーんてことになるから」
「う、うんわかった。使い過ぎない様に気をつけるね」
イマイチ実感が無かったがあまりにも真剣な顔でそう言われると流石に気おされてこくこくと頷く事しかできなかった。
「それならいいんだ。流石に私のいないところで私の力で死なれたり寿命削られたら結構心に来るから・・・っと。この縦穴の下に降りたらすぐにつきそうだ」
しばらく歩いていると莫大な魔力反応とそれに続く穴が見えてきた。そのまま飛び降りるだけですぐにつきそうなのだが、浮遊や落下制御に類する魔術を使えるとも限らないモルジアナをそのまま飛び降りさせるのは流石に不安が残る。なのでグレースは無言で一旦モルジアナを制止する。
「よし、飛び降りるから私に掴まって。おぶさるでも抱き着くでも構わないから」
「う、うん。わかった! でも背負われるにも抱き着くにもクロノスフィアちゃんちっちゃいから手を握るね」
145cm弱のグレースに対して160前後のモルジアナが抱き着いたりおぶさると必然的にかなりシュールな構図になってしまう上にどこか気恥ずかしさもあるという事で普通に手を握るだけにしてもらった。グレースは若干残念そうだったがぎゅっと手を握り勢いよく跳躍した。
「よっと。じゃあ舌をかまない様に気を付けてね」
「いや、せめて一言言ってよクロノスフィアちゃっひゃあああああああ!!!?」
有無を言わせぬ大ジャンプ。かなり楽しそうに飛ぶグレースに対して涙を浮かべて絶叫しながら地の底に落ちていくクロノスフィアと二者二様といったところだろう。
「ところで着地ど、どうするのクロノスフィアちゃん!?」
「空間操作で何とか・・・いや、多分普通に魔力を下に放出した方が確実。ごめん、ちょっと抱くよ」
まだまだ着地点は暗闇の先だが如何せん横に広がっているとモルジアナをカバーしきるのは若干苦労しそうだ。自分の方に向かって握っている方の手を引き寄せるとそのまま胴体をホールドする。年相応に大きく育った胸がちょうど顔が埋まるような形になっているがまあ気づかれてないからいいだろうと、素直に顔を押し付けている。うむ、実にふわふわしていていいハリだ。
「ちょっとクロノスフィアちゃん!?」
「不可抗力。でも実に良い物を持ってる。百点満点上げてもいいくらいだ」
大人の身体してる時のグレース自身、いやリリスにも負けず劣らずのおっぱいだ。弾力のある乳ではなく顔を優しく包み込む最高級の綿のような優しい柔らかさ。齢17くらいにしてこの母性すら感じさせるそれに言えることはそれだけだった。
「いきなり変態みたいなこと言わないで!」
顔を赤くしているのかはグレースには分からないが、それでも恥らっているのは感じ取れる。しばらくこのままにしていたい欲求に駆られるが、そろそろ減速しても良いだろう。おっぱいで下は見えないが高さくらいは探知可能だ。
「もごもご!!」
「っ~!? 人の胸でいきなり口動かさないでよぉ!」
ギリギリと腕の締め付けが強くなっている気がするが、脳は幸せに包まれている。そそてその幸せが感じ取れるうちに下方向に魔力を束ねた光線を放つ。反動で落下の勢いを殺す寸断のようだ。
「ぷはぁ。・・・うん、ごちそうさま」
「後で絶対にやり返すから覚えててね・・・。ほら、あれがそうなんでしょ?はやく行ってきなよ」
片手で胸を隠しながらもう片手で指さす先にはほの青く輝く地脈が見える。そしてそのさらに奥にあるもの煌々とまばゆい光を放っているものが収束点で間違いなさそうだ。
「わかった。じゃあ行ってくるけど周囲の警戒は怠らずにね。やばかったら逃げる事」
「うん。最悪時間止めて逃げるから大丈夫」
その後に少し会話した後グレースは中央部へと一人で飛び降りていった。モルジアナはここで留守番もとい万一の追跡者が来た時のための控えだ。




