2章13話
「さて、地脈の収束点はこのあたりかな?」
約束通り一週間後、グレース学園の地下空間から通じる扉の鍵を開けてそのまま地下に通って行った。ちゃんと神の遺骸を回収するという名目で潜っているので一切荒事を起こす事も無くこれ以上ないほど平和的に侵入できている。ただしラフィの同行は認められなかった。
『まあ、そりゃ裏切りのリスクは織り込んでおくよね。魔力の場所的に普通に授業受けてるみたいだけど監視はいっぱいだ』
念のために彼女が危機に陥ったと判断できたら即転移できるように術式は仕込んであるが即死級の魔術を食らわされればどうしようも無いという事は確かだろう。
『さて、巻き込んですまないけどちゃんとついてきてるかい?』
そして交信魔術を飛ばし続けるグレース。監視役からしたら表情をコロコロ変えながら無言で歩いているのでかなり奇異な人物だと見られているだろう。
『うん、時間止めながら少しづつだけどね。でもクロノスフィアちゃん、この魔術って通信魔術じゃないよね?』
『まあ間違いなく監視されてるだろうからね。その時計を中継にして私と君の回路を直接つないで直接声を送ってるって感じさ。だから交信なんだ』
できるだけ気配を消しながら後方を着いてくるモルジアナ。地下に行く際に引き留められたので事情説明ついでに同行してもらったのだ。条件は今後三つ何でもモルジアナのいう事を聞く事ということで手を打ち、話し相手件回復中の周囲の監視とグレースの防衛役を頼んだのだ。
『そういう物なの? でも、それにしてもこの時計凄いね。本当に何もかも止まってるし気配もバレないなんて・・・』
『そりゃ時間止まってるからね。さしあたり私は今から着いて来てる監視役を纏めて殴り倒す。だから君は少し離れて防御態勢とっててくれる?』
すぐさま五歩・・・いや二十歩ほど後ろに下がり、頭を覆って後ろを向いて屈むモルジアナ。もちろん防御魔術も忘れずに発動している。
「はい、ちょっとごめんよ」
まずは一人。裏拳一発で大の大人を吹き飛ばす。そしてもう隣の一人が何か言う前に回し蹴りで沈める。残りは八人。突然の敵対に驚いているうちに全員気絶させて拘束しなければならない。
「貴様、何のつもり・・・ぐあっ!」
「速く外に連絡・・・たわばっ」
踵落とし、ドロップキックと地を跳ね壁を蹴り縦横無尽に動き回りながら的確に気絶させて行く。殺さないのは相手に余計な損害を出してあげないためのせめてもの気遣い、もとい手加減の練習である。
「せいっ! やあっ!! ほあっちゃあ!!」
掌底、鉄山靠、拳連打といったようにノリノリで技を繰り出してゆくグレース。ただし吹き飛ばすのではなく衝撃を相手の身体に直接流し込んで行く感じ。ただし破裂しない程度にとどめている。
「はやく学長に連絡しろ!我々では敵う相手ではっ!?」
「ああ、流石にそれは困るし纏めて終わらせてもらうよ。迸れ雷霆!」
とは言ってみたが実際は魔術は使えないので魔力を雷のように放射しているだけである。それも過剰では無くできる限り最小限。あまり強力に浴びせすぎるのは流石に殺してしまうので今回はNG、しかし一網打尽にするならこれが手っ取り早いのだ。
「さて、これでよし。あとは道なりに進んで行けばいいか」
後方に控えているモルジアナにも分かりやすいように言い、そのままどこか気分よさげに歩き去って行く。
「行ったか・・・。学長、大変です。デミゴッドが突如我々を急襲、部隊を壊滅させ深部へと侵入しました」
グレースに最初に殴り飛ばされた監視役が気絶から回復し、呼吸も上手くいかないままに外と連絡を取り始める。一応体内にかなりのダメージは残っているのだがそれは根性というか義務感で立ち上がったのだろう。タフと言う言葉は彼のためにあるのかもしれない。
「ふむ・・・負傷者は当然おるだろう。死者は?」
マリネウスは既にこの事態は想定していたのか、口ひげをなでながら努めて冷静に質問している。
「はっ、ヤツは私を全員を気絶させて収束点へと向かいました。幸いなことに我らは拘束は一切されてないゆえ、回復し次第即座に追跡する所存でございます」
周りの様子を見ると既に動き始めているメンバーもいる。まだ万全に動けはしないが立つことは何とかままなりそうだ、すぐにでも追跡しようという気迫がありありと感じられる。
「いいや、退却せよ。お前以外にもそう伝えよ、すぐにだ」
しかし告げられたのは退却命令。有無を言わせないくらい強い語気をもって放たれた言葉にたじろいでしまうが、それでも譲れない物はある。なによりここで逃げ帰っては仕事も果たせず逃げ帰った弱きものになってしまう。
「しかし・・・!まだ追いつける場所に奴は」
「むざむざ死にいくつもりか? アレは我々がいくら束になろうとそう敵う相手ではない。お前たちは生かされただけ、アレにとっては殺す価値も無いのだ。わかったな?」
それでも厳しい口調でそう窘められてはもう逆らう事はできないのだろう。呻いている仲間たちを回収し、すごすごと撤退の用意をしている様子にはどこか哀愁が漂っていた。




