二章12話
翌日目を覚ましたグレースは部屋で一人、何か書き物をしていた。インクをペン先につけては一気に書き、渇いてはまた凄い速度で紙を埋めていく。
「もうすぐ始業ですが、一体何を書かれているのですか?」
「うん? いやちょっと考えを纏めようと思ってね。当初の依頼を完全に不履行で退散したらそれはそれで君と私はいざセレスティアに帰った時にしこたま怒られる。だからと言って神殺しに直接触れるのは危険すぎる。でもアレを魔術研究大好きな奴らに知られたら間違いなく碌な事にならない・・・。だからどうしようかなって」
まあほぼ殴り書きみたいな物だからあてにならないんだけどねと苦笑いするグレース。
「回復してもその神殺しとやらは危険なのですか?」
「そりゃもちろん。今の状態だとそれが放つ瘴気に多少触れただけで腕が消えるくらいには危険。回復しても皮膚が爛れるくらいはするんじゃないかな。瘴気だけでもヤバいし神性があるならまともにその物を喰らえば死ぬんだ」
そう言いながら別のページを開いて何かしらの推進機がついた大槍を書いたグレース。細部の模様や陰影までつけてかなり詳細に描かれている。絵心はかなり高いようだ。
「よし、大体こんな感じの槍かな? ちなみに槍で風穴開けられたら誰でも死ぬってツッコミは無しでお願い。普通の槍でぶち抜かれるだけなら普通に再生するから」
「それほどですか。しかしそれ程の瘴気なら神々以外、つまり私のような人間も魔術師も等しく死ぬのでは? もしそうなら研究は愚か回収すらできないはず・・・。そういう物だと報告だけして放置していいのでは?」
互いに使えないのなら存在だけは義理として教え、自分たちは地脈を使う。その後は煮るなり焼くなり好きにできるというわけだ。
「それができたらさっさとそうしたいんだけどね。人も神も危険でも強い獲物があるって知ったら何としてでも手に入れてたくなるだろう? だからできれば見つかる前に処分、回収、破壊のどれかは達成しておきたいってわけ。神の亡骸は・・・まああれは相当弱い神だしあげてもいいさ」
そして亡骸と言っても多少頑丈な骸骨しか残っていない。加工できても精々魔道具に使えるかどうかだろう。
「そうですか、では私は授業に先に行って参りますね」
「私は学長に亡骸しかなかったって言ってから行こうかな」
その後は各々制服に着替えて授業に向かった。学長には地下の瘴気は神の亡骸のせいであると説明し、後に回収するので地脈から侵入するルートを開けて欲しいと頼んでおいた。理由は・・・まあ一旦封印したから裏口から入らないと無理だとゴネたら監視付きという条件は付いたが開けてくれるらしい。ただし亡骸の回収用の準備が整うまで一週間ほど待って欲しいとのことだった。
そしてその後はやらかす事も無く落ち着いて授業を受け、モルジアナに彼女の実家であるオアシスにある国の話を聞きながら茶を飲み、そのまま夕餉を共にした後別れて寝ることにし・・・。
「いやお主はいつまで遊び惚けとるんじゃこの馬鹿者。来たついでの記憶を読んだのじゃが、言われておる依頼何一つ進めておらぬぞ」
夢の中でルナに説教されていた。そういえばどれだけここにいるのか数えていなかったがいつの間に何日過ぎていたのだろうか? 体感的には精々二週間程度だろうとイマイチ意識がハッキリしない中で考えるが先に答えを出されてしまった。
「二月じゃ。無論移動期間は抜いての」
「ま、まあ色々やる事あったし・・・。神殺し埋まってたのをどうするか考えたりとか明日の授業は何時間寝ようとか友人に色々世間話したりとかね?」
数時間寝るのなら受ける意味ないじゃろと刺すような視線を向けるが
「はぁ、お主の人付き合いに口出しする気は無いがせめてちゃんと連絡くらいせい。クリスタも怒りを通り越して呆れとったぞ。まああやつはメイドから定期連絡は受けておるようじゃが・・・」
「それに関してはまあ何にも言われないから別にいいかなって・・・。君だって自分の仕事とかあるだろうし二ヶ月くらいならまあ大した時間じゃないだろう?」
確かに幾百幾千を生きてきた彼女にとっては二三ヶ月程度は大した時間ではない。むしろ出来事が濃ければその方が大事なのだ。
「儂等の間隔だとそうなるのじゃが、今の儂等は地上で生きる身。ある程度は合わせろという事じゃな。数か月連絡を取らぬのは長い上にこちらだとその間にも情勢は動くから情報共有は肝心じゃとクリスタが言っておったしの」
「そういうものなのか・・・。いやまあ私達の間隔がこっちだとおかしいだけなのかな?」
「ま、そういう事じゃろうな。兎も角、さっさと済ませて帰ってこい。その・・・なんじゃ、リリスの奴がの」
不敵な表情から一転。疲れ切った顔を浮かべて最後にボソッと付け加える。なるほど、そういえば忘れていたがグレースがいないと精気を搾り取られるのは必然的にルナになるわけだ。そこらで男捕まえて絞ればいいのにと常々思っているのだが、彼女曰く一度でもこんな最上級の魔力を味わったらもう戻れないとの事だ。
「あー、それは頑張れ。家事全般やってくれてるしね」
「何にせよ早う戻って来い。しばらくは請け負ってやるがも戻り次第搾り取られるのはお主だと覚悟しておくがよいわ」
そう言い残すとルナは徐々に姿を薄くしていき、次の瞬間には目の前から消えていた。そしてそれと同時にグレースも眠りに落ちていった。




