二章十話
「クロノスフィアちゃん、私にあんな力ないよね?」
「放出できたのは君の身体の構造が良かったから。魔力は私と君のミックス。あれができたのは純粋に君の才能さ。まあ、エネルギーは外部から外付けしないとだけど」
グレースがモルジアナの手を引いて連れてきたのは大講堂と寮の間にある庭園だ。季節問わず様々な花が咲き乱れており、魔術に使用される樹木や草も常に絶頂の状態で保たれている。それは美しくも季節が丸ごと制止されたかのように神秘的かつ若干の閉塞感を感じる場所だった。
「まあとりあえず紅茶でも飲む? ちょうど二人分くらいなら用意できるけど」
その庭の中心に置かれているテーブルで茶でもしばきながら話そうという事で引っ張って連れて来たのは良いものの、能天気なグレースとは対照的にモルジアナは若干不安そうな表情を浮かべていた。
「それは貰うけど・・・どこから出したのクロノスフィアちゃん。さっきまで何も持ってなかったけど」
「へ? あっこれはまあ召喚術だよ召喚術」
「危険だからってかなり昔に封印されたって授業でやってたのにどうして使えるのクロノスフィアちゃん」
実際は転移させただけなのだが、誤魔化し方がまずかったらしい。完全に怪しまれてしまっているようだ。テーブルの向こうから顔をずいっと近づけてグレースの目をじっと見つめるモルジアナ。流石にたじろぐグレースを完全にクロと判断したのだろう。不安は取っ払われて詰問モードだ。
「えっと、ほらアレだよ大聖堂の秘密文書を漁らせて貰った時に見て覚えたというか・・・」
「封印されたのはあの国できる千年も前の話だよ。まあさっきのは召喚術じゃなさそうなんだけど・・・文献だと物質は呼び出せない記されてるもの」
「そうなんだ・・・」
「ねぇ、クロノスフィアちゃんは一体何者なの?」
神域だと当たり前のように武器なども召喚していたのだが勝手が違うのだろうか等と考えていた所に核心をついて来た。
(さて、どうしたものか・・・。別にバラしてもいいんだけど下手打ちそうだし当てさせた方がいいか)
「さて、なんだと思う? 人間、悪魔、天使にエルフ。獣人かもしれないしゴーレムかもしれないよ」
幻惑などは使えないがとりあえず誤魔化せるならそれに越したことは無いだろうと思い、デミゴッドだけ外して候補を上げていく。デミゴッドは基本的に滅多に現れない物語や説話上の存在という扱いを受けているので即バレする可能性は薄いだろう。
「ヴァルキリーかデミゴッドだと思うけど・・・。魔力の同調接続なんて他種族じゃまずできない、でも明らかに人間と体の構造も違ったもの。あんなに純度が高い魔力を持ってる存在なんてそれこそ御伽噺の存在くらいしかいないと思うの」
「本当にそうかな? 君だって実際に他の種族の身体を調べた事なんて無いでしょ」
「うっ・・・確かに文献でしか見たこと無いよ。でも同調した時にクロノスフィアちゃんから魔力を引っ張った時にね、ある程度魔力の流れの元が感じ取れたんだけど・・・その」
若干おどおどしているが確信を持った様子で彼女はグレースに自分なりの答えを言った。
「炉心みたいな機関があったから。独自の魔力炉心を持ってるのは神、デミゴッド、ヴァルキリー、龍種の4つだけど龍種が人化してるなら角と鱗と尻尾があるでしょ? 神が現れるならもっと環境に影響が出るはずだから消去法なんだけど」
「なるほど、まあ同調した時点で誤魔化しは効かないってわかってたけどね。ちなみに一つ修正するならヴァルキリーの魔力は実はそんなに純粋じゃない。ボディは兎も角、核は量産型だからね。どうしたって粗は出るんだよね。まあ製造プラントに入ったことがあるのは一度きりだから今はどうなのか知らないけどね」
「デミゴッド、本当にいたんだね。でもこう、もっと化物みたいな感じかなって思ってた」
溜めて吐き出すように言葉を出す。実際の所気になる言葉が満載だったが今そこに突っ込むと脱線してしまいそうなのでそっちはぐっとこらえた。
「基本的に人の姿をしてる神のコピーなのになんで化物になるのさ。異形化使えるのって極少数だしその子たちは神域から出てないはずだし。まあ私の知る範囲だから何とも言えないんだけど」
「実家の文献とか古文書にはそう書いてあったから仕方ないよ。まさか会話が通じるどころかこうして話せるだなんて思ってもみなかったもの」
「参考程度に聞いておくけど私達の事を一体何だと思っているんだい?」
正体はある程度確信していたのかあまり驚いたりしない事は予想していたが流石にこうも言葉の通じない人外の化物のような言い方をされたくは無いとグレース。返答は当然
「怒らないでね? 超大規模破壊を引き起こす私たちの倫理観が通用しない恐ろしい存在ってのが一般認識だと思うよ。まあクロノスフィアちゃんとこうしてお茶できてるし私は今はあんまりそう思ってないんだけど」
「ふふふっ、そう言ってくれるのは嬉しい。大規模破壊はまあ力使うと余波でそうなるだけだから仕方ない」
そう言ってカップを一気に傾けて紅茶を飲み干す。矮小な人間どもなどと言って驕り高ぶるような性分では無いのだが大規模破壊を引き起こすことまで否定する気はない。最近は弱体化が激しいから大して被害がでないだけだ。
「それで、他にも何か聞きたいことはあるかい? せっかくのデミゴッドなんだ、色々話せると思うけど」
「そうだね、じゃあクロノスフィアちゃんは好きなお菓子とかある?」
「えっ。 焼き菓子・・・ケーキとかは好きだよ。他には?」
「ないよ。それだけ」
「ウソでしょ!?」
意気揚々と胸を張って質問を待っていたグレースだったがどうでもいい事聞かれた上に梯子を唐突に外されては困惑するしかない。
「いやもっと気になる事とかあるよね? ほら、私の能力とかどうしてここにいるのとかさあ」
「んー、なんとなく来た理由は予想できるけど下手に触れない方が私の身のためかなって。それにデミゴッドの力とかに興味が無いわけじゃないけどそれよりあなたの事が知りたいな」
美人に柔らかい表情でそんな事を言われては流石に何も言い返せなくなる。それにこちらに来てから初めて出会うタイプの子という事もあってか徐々に絆されているなと言う実感もあった。仕方ないなと笑みで返すくらいには。
「全く、君は変な子だなぁ。いいよ、個人的な事でよければいくらでも教える」
「えーっとそれじゃあ・・・」
その後は茶菓子を楽しみながら互いの身の上話などに花を咲かせた。モルジアナが色々とタフな子で切り替えが速かったのも一因だろう。グレースも心置きなく色々と話すことができていた。それこそ自分自身の経験談や神域での生活など話すことの無かった日常生活を。モルジアナも驚いたり色々と興味深そうな反応をしてくれるのでつい話に熱が入ってしまう。
「神域ってもっとこう神々しかったり厳かなイメージだったんだけど全然違うんだね・・・」
「まあ神様ってだけでそんなイメージ持たれがちだからねぇ。普通に酒は飲むし娯楽だってある。基本的には怪物狩ったり戦争に駆り出されたり冒険したりだったなぁ。神域って普通に結構広いんだよね。それぞれいろんな神様が治めてる土地とか色々あるからさ」
「へぇ~。クロノスフィアちゃんの領地はどんなところだったの?」
「私の故郷? 昔はいろんな時空間に通じてる不思議スポットだったよ。まぁ時間神も空間神も二人とも戦争に負けた後私に権能ぶち込んで死んじゃったから普通に景色が綺麗な街くらいに落ち着いてるけど」
腕を組みながらしみじみと昔の事を振り返りながら話すグレース。そして一瞬フリーズしたかと思いきや周りをすごい勢いでで見渡した後に一言。
「ちょっと待って今凄い事言わなかった?」




