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黎明開きしウィッチクラフト  作者: ラキューム
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二章四話

「ようこそ我がネクロシュタイン魔術学園へ。いやぁ、本当に遠路はるばるようこそおいでくださった。私は理事長のマリネウス。こちらに滞在しておられる間はぜひ私を好きなだけ頼られてくだされ」

 どっしりと革の椅子に腰かけた長く白い髭を蓄えた老人がそう名乗った。ちなみにグレースとラフィは飛行していたところをついさっき学園の対空魔術に撃墜されたので軽く服と紙が焦げている。流石はデミゴッドの頑丈さと言ったところであろうか。

「とりあえず焼け落ちた荷物の補填とかその辺が欲しいかな・・・。対空魔術ってもっと普通に火球かと思ってたのに普通に光線が飛んでくるなんて思って無かったよ」

 直撃する寸前でラフィに防御魔術を使えたがグレースには直撃。幸いこの程度の威力ではグレースを傷つける事こそできなかった背負っていた荷物は全部焼け焦げてしまい使い物になるものは殆ど残っておらず、とっさの出来事なだけあって飛行が維持できずに堕ちてしまったのだ。

「ほっほっほっ、それは悪い事をした。しかし我が校の防衛術式はデミゴッドをも撃ち落とすか!」

 理事長は髭をなでながら嬉しそうにしているが、その様子にグレースはやや不服な様子。

「言っておくけど本来の出力の半分以下も私は満足に出せてない超弱体化状態だからね? 本気ならあんなの余裕で・・・」


「グレース様の話は聞き流して貰って結構です。さしあたりグレース様の新たな制服や教材類を用立てて頂いてもよろしいですか?」

 つべこべと話そうとしているグレースを遮りラフィは手早く本題を改めて話すことにした。ラフィ自身の持ち物もかなり喪失しているのだがそちらは後回しにできると踏んだのだ。

「わかっておるわかっておる。用立てにはしばし時間がかかるがその間は本来の要件を解決してくれればそれでよい」


「ああ、そう言えばそれをすっかり忘れてたよ。確かデミゴッドに関係のある異物が空からふってきたんだけ?」

 グレースは今まで話していた言い訳じみた話を切り上げてそちらを聞いて来た。そういえばそんな話も聞いていた。結構時間がたっていたのでグレース自身もすっかり忘れてしまっていたようだ。

「うむ。ある日神域と思しき場所より降って来たそれはが学園の地下深くにまで到達。すぐさま我らも調査隊を送り入手に動いたのは良いがいかなる干渉も受け付けず、果ては調査隊も帰って来んかった」


「だから神域に関係がある私を呼んだってわけか」

 うんうんと頷くグレースに対して悪い笑みを浮かべてマリネウスはこう返す。

「ついでにお前さんを調べる事もできる上に万一死んだとしてもそれはそれで得にしかならんからのう。デミゴッドの遺骸なぞ欲しくとも手に入るものでは無いのじゃ」


「手に入ったら何をするつもりなのかは聞かないでおくことにするよ。で、落ちて来たものの正体はつかめているの?」

 軽く流してグレースはそのまま話を聞くことにした。一応手配はしてもらえる運びになったのでそれ以上は無駄話だと判断したのだろう。

「恐らくは何らかの物体。地上に実在する生物では無いという事だけは確かじゃ。特徴という特徴は魔力を通さぬ繭に覆われているという事のみ。近づいたものは魔力を吸われつくし死んでおる事くらいか」


「ええ・・・」

 あからさまに碌な物じゃない案件であることは間違いないようだ。乗りたくは無いが乗らないわけにもいかないとグレースは頭を悩ませていた所に静観していたラフィが切り込んできた。

「グレース様、あまり危険が及ぶ物ならばお断りするという選択肢ももちろんございます。なのでそうに嫌そうな顔をされるのであればサクッと学園ごと焦土にして帰るという選択も当然アリです」


「うん、言ってくれるのはありがたいけど流石に場所を変えて言って欲しかったなぁ」

 それを学長の目の前で言うのは流石にどうなんだと苦言を呈すグレースだったが、学長本人は穏やかな表情を崩さないので恐らく大丈夫なのだろう。いや、脅しが通じていないと言うべきなのか。

「そうしたいなれば好きにされるがいい。だが対空魔術ごときに落とされるようなデミゴッドではのう。逆に封じる程度容易いかもしれぬ」


「撃墜できてもこの通りダメージは無しなんだ。何も空中戦だけがアドバンテージってわけじゃあないんだよ」

 そう言って静かに魔力を高めて権能を徐々に駆動させて行くグレース。放たれる魔力の奔流は調度品をガタガタと揺らしつつ壁にひびをバキバキと走らせている。

「まあまあ、お主がそのつもりならばこちらも手段があるというだけの事。後はお主の活動データを少々取らせて貰う程度じゃよ」


「・・・まあいいか。で、私は結局小等部送りなのかい? 子供とうまく付き合っていける自信が無いんだけれど」

 そもそも私は子供と触れ合った事なんてまともに無いのだと訴えるグレース。生まれてこのかた戦闘に明け暮れていたので当然だ。

「ふむ・・・。元はそのつもりじゃが確かにあまりにも合わぬ場所に送るのもまた失礼か。ならば簡単な知能テストを解いてもらおう。その結果次第で決めるというのはどうじゃろうか」


「そういう問題じゃ・・・。いや、無理言ってるのはこっちか」

 悪いのはクリスタだという事にして相手の申し出を受け入れることにした。仕方ない、知識任せだが何とかなるだけなんとかして見よう。

「ではまずは筆記テストから」

 部屋はそのまま。どこからか紙を持ってきてグレースに渡す。

「終わったよ」

 一瞬だった。時を止めたのか否かはともかく凄まじい速度で解き終わっている。

「本当に大丈夫なのですか? ペンを動かしている様子すらも見えなかったのですが・・・」

 ラフィは戦々恐々と言った様子で不安そうに聞いてくる。だがグレースは軽く微笑んだまま余裕そうに返答する。

「あまり時間はかけたくないからね。内容は軽い歴史問題と魔術理論がメインだしこの程度は勉強しなくとも余裕で解けるさ。九割は合ってるはずだよ」


「ふむ・・・確かにちょうど九割じゃ」

 彼女が言った通り正答率はぴしゃり九割。流石に歴史や地理には詳しくなかったようだが正答率もかなり高いものだった。魔術理論に至っては穴をついてより高出力に運用する方法を付け足したりしていた。ただ、それはデミゴッドなどの強大な存在が使う事前提の術式であるため一般の魔術師がおいそれと使おうとすれば脳が焼き切れて死にかねないレベルの術式という事が弱点である。

「なるほどこのような形での体系化は儂も見たことが無い・・・。しかし常人には扱える物でもない。学術的な価値こそあれど実用性は皆無と言ったところじゃろうか」

 デミゴッドが改良した人の魔術なんてとんでもなく貴重な代物であることには間違いないのだ。

「さて、次は実技なんだろうけどどこかに場所はあるのかい?」


「グレース様、先程のうっぷんとばかりに超高威力の魔術を放つようなことは絶対にやめてくださいね?」

 若干含みを持たせた悪戯っぽい笑みを向けてくるラフィ。どことなく派手にぶっ放せと言っているような気がするグレースであったが、とりあえずは無視して学長の指示を仰ぐことにした。

「レギュレーションとかはあるのかい? ないのなら好きな様にさせて貰うけど」

 一応決まりがあるのならそれに従いたいというスタンスを示す。流石に無視するにもいかないというのもあるが、それ以上に必要を超えた魔力使用などは控えておきたいのだ。

「そうじゃのう。まあひとまず火球を生み出してそこの的にでも当ててくれぬか?」

 窓の外を指さすとちょうどおあつらえ向きの的が出現していた。ふむ、部屋の外で全力撃つこともできるが今はそれをするべき時じゃないのだろう。グレースは努めて冷静な顔つきで軽く手のひらサイズの火球を生み出して外に放った。

「お見事。軌道は中々に滅茶苦茶ですが真ん中に命中ですね」

 ラフィが言う通り物理法則を完全に無視した軌道。垂直に昇ったかと思ったらそのまま真横に。そう思った次の瞬間には壁をすり抜けて的に命中するという離れ技だ。

「ふむ、高度過ぎてまるで意味が分からぬ。権能を使っておる様子も無いと来たものじゃ」

 髭をさすりながら分析するも中々タネが分からないという様子の学長。人間の中だとトップクラスのようだが流石にこういった魔力操作には長けていないようだ。またはそういう手法が確立していないのだろう。

「やったこと自体は単純に魔力を一旦霧散させた後に窓の外で再構成しただけなんだけどなぁ」


「私は魔力をあまり使う事は無いのですがそんなに凄い事なのですか?」

 ラフィは得意げに語るグレースをあまり理解できていない様だが、学長はかなり驚愕しているようだ。

「少なくとも儂でもそう容易にできる芸当ではないな。根幹の魔力操作が人とそれ以外とでは異なるのが原因じゃと踏んではおるがそこを克服することは難しい」

 結果的に言い渡されたのは学籍は異例の飛び級として高等部に入れるという事であった。ラフィはお付きのメイドとしてそのまま入れるようだ。

「体内の魔力回路を一回ぶち抜いて再編集してみようか? 多分何とでもできると思うけど」

 清潔な空間と簡単な医療器具があったら軽く体を開いてできると得意げに言うグレース。デミゴッド基準の医療技術なので当然人間が受けたら九割九分死ぬのだが。

「ほっほっほっ。それは遠慮しておくとするかのう。・・・ワシでない者に試すならばよいぞ?」


「いいのですね・・・。やるんですか?」

 自分以外にやるのならいいという学長に引きながらも尋ねるラフィ。引いてこそいるが若干興味を持った顔で聞いている。

「流石にやらないよ・・・。私だって一応の良識程度はあるんだ、悪党でもない限りはそんな事はしないさ」

 苦笑いを浮かべつつ否定するグレース。そこで一旦話題は終わり、後は書類類にサインをして学長室から退出。失った荷物の補填となるものを受け取りそのまま寮の自室へと向かって行った。そして彼女の数千年遅れの学園生活が始まる。

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