そうして灰燼に
「そうじゃのう。簡単に言うなれば時間軸は大木。平行世界はその枝。今のあやつができるのはその大木の中から今の自分よりも根に近い範囲、すなわち過去の己を一時的に呼び出し共闘することなどじゃな。一応未来の己も呼べるらしいが先の事は知りとうないという事でやらんらしいぞ」
教皇バードが空を舞っているのを眺めつつ儂はリリスに軽く授業を行っていた。まあ簡単な暇つぶしとでも思ってもらえたら結構じゃ。
「ふぅん。平行世界から呼んだりはできないの? ほら、過去か未来の自分を呼んだ時点で時間軸は分岐するでしょう?」
どこからか冷えた飲み物を取り出してそれをストローで飲みながらリリスはそう聞いてくる。コックピットにおるあやつはまだしも炉心で浮いておる儂は飲みも食いもできぬがまあそれは良いとするか。
「どこまで信じてよいか分からぬが、『権能を使っている間に別世界の私を呼ぶだけなら魔力次第でどうとでも、でも近い平行世界じゃないとランダム性が強すぎるんだ。例えば戦えない私を呼んだとして、すぐに死なれても困るだろう?』とのことじゃ」
まあ要はコストとリスクに見合わないという事じゃな。と付け加える。正直儂も完全に理解できとる訳じゃ無いのじゃが、まあアヤツも儂の権能はさほど理解しとる訳じゃ無さそうじゃしセーフじゃろう。
「じゃあ異世界ってのはどんな感じなのかしら。グレースでもそう簡単には手を出さないらしいけど」
「この世界が樹木Aなら樹木B。まあ簡単に言うと隣の芝生じゃな。行こうと思えば行けない事も無い、じゃが法則は勿論世界の構造や生命体すら違うじゃろう。ちなみに儂等のようなデミゴッドが異世界に行ったらフィジカルが強いだけの一般生命体に格下げじゃ」
「いやいや、魔力があるのなら権能も魔術も十全に使えるんじゃないの? 現にアンタらって神域って異界からこっちに来ても普通に強いじゃないの」
「それは単純に神域もまたこの世界に属する場所だからじゃよ。異世界は完全なる別世界。そもそも魔力すら存在せぬ可能性や儂等でも生存できぬ環境である可能性すらあるのじゃぞ? 心臓の魔力炉心も魔力が無ければ稼働はできぬからの」
それに仮にこの世界に近い構造をしておったとしても、その世界にはその世界の神と法則があるはず。権能は使えたとしてもまあまともには使えんじゃろうなと付け加えておく。
「でも異世界召喚とかそういう魔術で異世界人・・・確か『チキュウ人』とか何とか言ったかしら。を召喚してる人間の国家もあったような気がするわよ? 何でも超高火力の武器とかをデフォルトで持ってるって話だけれど」
「あの魔術は、何らかの方法で比較的近い異世界に穴を繋げておるのじゃろうな。武器や能力に関しては転移時に授けられておるようじゃが恐らくセレスティアの仕業じゃろう」
「やっぱり全能の神様はとんでもないわね・・・。まあ正直『全知全能』って概念が矛盾なく存在してるってのが一番の謎なんだけど。おっと、そろそろ悠長に話してる場合じゃ無さそうね」
そうこう話しておるうちに大分周囲もマシになってきたようじゃ。
「うむ、火の手も下がって来ておるしクリスタの奴も人に戻ったようじゃからな。機体外部がある程度冷えたら儂等も向かうとしよう」
「そろそろ行けるんじゃない? 各種スイッチは押してしまったから炉心の点火頼むわ」
「おうとも。アグネアは撃てるようにしておいた方が良いか?」
炉心を起動させてヴィマナを起こす。炉心の魔力は十分、冷却も完全に行われているため数発ならアグネアも撃てるだろう。万が一更なる切り札があったとて問題なく撃退できる戦力じゃ。
「うーん、機体の負担がかなり大きそうだしとりあえず停止したままで構わないわ。なんなら半分くらいパージしてもいいんじゃない? 機動力も大分それで削がれてるし、過剰火力過ぎても扱いに困ると思うのだけれど」
「うーむ、確かにそうなのじゃがここで捨てるようなものじゃないじゃろ」
利用されても困るしの。といいつつ歩を進めている所じゃった。クリスタの奴から連絡が入ったのは。
「あら、ちゃんと画面に表示されるのね。どれどれ…『後の事はやっておくので先に帰っておいて貰っても結構ですよ』ですって。いや、流石に唐突過ぎて私も困惑モノね。せめて最低限説明はしてくれないかしら」
流石にこれでは納得いかぬとリリスが質問を投げる。いつの間に習得したのかは知らぬが画面に文字を打ち込んでいた。
『あなた達にこれ以上暴れられるとどこぞに隠れた王様が見つけられないじゃないですか。生体反応だけは探知できているのにそれすらもその炉心とリリスさんの生命力にかき消されてしまっていますので』
「この状況で生きてるの? マジで?」
「うむ・・・。タフという言葉は案外アヤツのような奴のためにあるのかもしれんのう」
そういうことなら仕方ない。仕方ないのじゃが・・・。一つ致命的な弱点がこれにはあるらしい。
「このゴーレム死ぬほど転回性能ひっくいわね・・・。何とかならないの?」
「まあしばらく直進しつつ徐々に曲がれば普通に曲がれると思うぞ。その場で方向転換するのが難しいだけじゃ」
「そこのところは改良が必要か。まあパーツは探さないと無いってのと格納庫も無いのも問題なんだろうけどね。というかスラスターって動かせるの?」
「問題なく動かせるが飛翔するには機体が重すぎるのう。無理矢理飛ばすことはできるがその場合機体制御が不安定になるぞ。やはりアグネアはお主の言う通り捨てたほうが良いかも知れぬの」
さて、そうとくれば何個投棄すべきかが問題じゃ。本当なら二本残して十本捨てるくらいがバランスは良いのじゃがあまり残しすぎるのも問題じゃ。どうしたものか。
「仕方ないわね。とりあえず半分は外して穴の中に放り込みましょうか。それなら簡単には取りだせないでしょうし、こっちのエネルギーもあんまり使わなくて済むわ」
「そうか。ではそこの上空に浮遊し、回路を切断してパージするとしようかの」
つつがなくそれ自体は済んだためそのまま上昇。帰路に就くことにしたのであった。
「ちょっと待ちなさい。せっかくだから今落としたヤツ爆破してこの辺の地脈をぐっちゃぐちゃにしといてやりましょう。私達が利用できなくなるのは痛いかも知れないけど都市一つ使った兵器を組めるレベルの土地はかなり危険だから」
「流石にやり過ぎじゃ。もとより儂等には関係のない土地、放っておいても問題あるまいよ」
「そう? 私はそうは思わないけれど・・・。まああなた達の力があるなら大丈夫か」
という感じに話も纏まった。いささか過激に過ぎる上に下手に地脈に手を出したところで何が起きるか分からぬというのもまた大きいからのう。止めぬ方が大惨事をもたらしかねんから仕方ないのじゃ。




