不死鳥と王様
「何故じゃ・・・。何が駄目だったのかのう・・・」
「あれだけ馬鹿でかいゴーレム動かすのに手足に内部骨格を入れてないからよ! 普通のゴーレムならまだしも都市の地下施設を丸ごと利用するのは無理! 墜ちるに決まってるじゃないの」
無理矢理魔力を送りこんで動かせると思うておったが流石に無理筋じゃったようじゃ。しかし権能を発動できるのも後三分弱、それまでに仕上げれるじゃろうか?
「いいや考えても仕方ない、今すぐに残りのヴィマナを変成させて手足を作るほかないか」
うむ、多少ならずとも無理をする羽目になってしまうが仕方ないのう。儂の身体は少々持たぬが構わぬか。
「いや、その前に全力で魔力を防御に回しなさい! 地下施設丸ごと使ってこれ造ったってことは当然都市の地盤は沈む、そして今さっき大穴開けて飛び出したでしょ? そこからどんどん瓦礫が崩れてきてるわよ! 流石に手に負えないっ」
「なんじゃと!? ええいかくなる上はアグネアを放つか・・・?」
確かに防壁を仕上げるのは簡単、だがしかしそれを成せば流石の儂とて魔力は到底もちはせぬ。やはり火力で吹き飛ばすほかないのかと儂が負荷に顔をゆがめつつ魔力炉心に指示を送ろうとしたが、リリスがその指示を遮断した。恐らく簡単な妨害魔術じゃが、儂の集中を乱すには十分だった。
「何をするのじゃ、はようせぬと儂の権能もじきに尽きるぞ!」
思わずそうまくしたてる儂にリリスは極めて冷静な面持ちで返答を返す。
「私達が立っているのはスラスターの上、そして肝心の砲塔は全部逆向き・・・というか瓦礫で防がれている以上暴発は確実。そんなの余裕で死ぬわよ。残りの権能で手足の骨格作ったらさっさとアンタも防御に回って貰うわよ? それまでは何とか持ちこたえてみるから」
コキコキと関節を鳴らしたリリスはそう言うと立ち上がり再び彼女自身の魔力を燃やし始める。
「さぁて、私も全開で行くけど身体はどこまで持ってくれるのかしら?『■■■■礼装13番・堕天使の抱擁』解放、それと同時に私の崩壊魔城も一時的に顕現。さあ、魔界を追われて以来ね!!」
うむ、ある程度奴の正体は理解したがそこに突っ込むのは今は無粋か。いや単純に儂にその余裕が全くといって良いほど無いのじゃがな。必死にそこらの材料を取り寄せ、『魂の帰点』から記録を引き出して知識を儂に流し込み作業工程をインストール。その要領で手足の骨格を作り上げてゆく。それはもう懇切丁寧にかつ迅速に。脂汗が浮き上がり、ぜぇぜぇと息も荒くなり体温すら尋常じゃなく高まっておるがそれも無視するものとする。うむ、大まかな形は人の骨格を金属で再現。負担はシャフト・・・じゃったか。アレで軽減。そしてまあ後は何かいい感じに魔力を流して摩擦や遅延を無くす。さすれば何とかなるじゃろう。
「ただし核に儂が入って操縦せねば到底動かすことなぞ不可能じゃろうな・・・」
「さあ顕現しなさい、我が『崩壊魔城サタニキア』。そしてその壊れかけの城壁で我らの盾となれ!」
天高く掲げたリリスの右手から真紅の魔法陣が浮かび上がり一気に巨大化する。そしてそこから現れるは所々か崩れた古城。石垣は勿論、城の根幹部分にも大分ガタが来ているようで今にも崩れ落ちそうじゃ。大方何らかの戦争でぶっ壊れておる事は間違いないが魔力で覆っている分それなりの防御にはなるじゃろうが・・・。
「のう、その儂が視認できぬエネルギーのもやは一体何じゃ? 少なくともお主を包んでおることくらいしかわからぬが・・・」
「堕天使の抱擁は簡単に言うと高位魔族専用のカモフラージュ礼装。用は自分の真の姿とかそういうのを晒さないようにできるってところかしら」
ほら、現に私の見た目は人間体のまんまでしょ?とリリスはアピール。うむ、確かになんら人間と姿は変わらぬ。変わっておると言い切れるのは魔力の質くらいじゃろうか。いいや、よく目に魔力を集中させてみると三対の羽と大きく捻じれた角。そして細い金細工のような文様が浮かんだ尾があることが分かる。
「まあ、集中すればなんとなくわかるがの。中々高位の悪魔と見たぞ」
「それだけ・・・。まあ下手に探られるよりもマシだしいいわよ。それで、完成度はどれくらいかしら? もうサタニキアも半分くらい壊れっちゃってるし、私の今使える礼装で盾にできそうなやつってもう残り3個くらいよ? それも今のより小さい奴がね」
「わかっておる。もうじき起動できるでの、しばし待っておれ。儂の権能ももう持たぬしな」
そう言った矢先にサタニキアが崩壊し、リリスが二番目の礼装を起動する。その名前はバイコーン。二本の角を称えた黒馬の像がそこに現れた。そしてその像がひとたび光り輝くと漆黒の魔法陣から防御壁が展開されるが先程の物に比べると二回りほど小さい事が見て取れる。
「ほらほら、早くやってくれないと間違いなく仲良く生き埋め。いくらデミゴッドでも流石に死ねるんじゃないかしら?」
そう悪戯っぽく笑うリリスに儂はなに喰わぬ顔で返答する。
「グレースじゃったら時を止めれぬ場合は確かに死ぬやもしれぬ。じゃが儂は肉体を変質させれば幽体化できるからの。普通に脱出できるという寸法なのじゃよ。権能使い終わってすぐに使えるかは知らぬが」
少々困り顔で儂も言うしかない。と、作業も佳境に入ってきた所で脳内に聞き慣れた声が響いてくる。そういえば完全に失念していたが思考共有は解除されておらんかったか。
『あーっ、こちらクリスタ。教皇クリスタ。ただ今グレースに放り出されて戻りました。ちょっと今から真体を出しますのでもうしばらく地下にいてください』
「流石にもう礼装も残ってないしこれ以上は耐えれないわよ!」
そう語りかけてくるクリスタに若干苛立った様子でリリスは空に捲し立てる。焦り半分怒り半分といった表情じゃ。
「そうか、ではお主は操縦ユニットに乗り込め。 儂は炉心を内部から制御するでの」
「えっ、ちょっと待ちなさいよ!」
「すまぬが問答しておる余裕はなさそうじゃ。操作方法は炉心内からお主の魂魄に直接干渉して伝える。ついでに儂の回復もできるからの」
ハッキリ言って儂の魔力はほぼ枯渇しておる上に権能の行使後の負担が多少なりとも襲いかかって来ておるため中々に弱体化しておる。それに今の思考能力じゃと到底無理じゃしの。
「何とか背部にも炉心の扉を急造できて良かったわ。では儂は一旦炉心を点火させる。お主は防御陣を持続式にし操縦席に乗るのじゃ。わかったな?」
そう言い残し儂はさっさと炉心に身を投げ入れる。中は魔力に満たされており、起動すればさらに増幅させほぼ無尽蔵と言っても差し支えないエネルギーを生み出すじゃろう。起動しておらん状態でも魔力自体はかなりのペースで回復して行っておる。おお、リリスも乗り込んだようじゃな。では起動するとするか。
「うむ、儂の回復に割く魔力はほどほどにしたとしても問題なく地上までは上昇できそうじゃな」
「それは良いけど地表の温度狂ってるわ。軽く二千度はあるけどこのゴーレムってちゃんと耐熱性とかその他諸々は大丈夫なんでしょうね?」
「問題ない。『源流』から姿勢制御も含めて必要事項は殆ど得てしまっておるからの」
源流ってなんなの?とリリスが聞いてきそうな気がしたため軽く説明しておく。簡単に言うと全ての魂が還り循環する場所。そこはこの世のありとあらゆる知識と記憶が集積されている記録庫の役割も果たしており・・・。そこから情報を得たという事じゃ。
「そうなのね・・・。じゃあとりあえず飛行するけどアンタはちゃんと制御できてる?」
「うむ、今のところ炉心は安定状態。ひとまずはアグネアへの魔力供給はシャットダウンして防護フィールドとフレームの駆動系に回しておる。ところで乗り心地はどうじゃ」
「悪くないけど結構揺れるわね。後はよくわからないレバーとスイッチが多すぎる。もう少し簡略化と思考同期である程度の操作はできるようにした方が良いと思うわ」
うむ…流石にほぼ突貫工事で仕上げたのじゃから多少は文句言われると思っておったがやはり改善点はあったか。仕方ない、後々どうにかするか。
「ではエネルギーを全開で回すぞ。ブースターも駆使するでの、しっかり掴まっておれ!」
「いや普通は私に操縦権があるんじゃないのぉぉぉぉぉ!?」
猛烈な加速にたまらず叫ぶリリス。そもそもこれは一応はゴーレム。無垢で自我を持たぬとは言え魂を練り込むことで人型にしてあるものなのじゃ。当然魂魄を操れる創造主の儂に操作の優先権はあるに決まっておるじゃろう。
「リリスよ、右の操縦桿の斜め前にあるボタンを押すのじゃ。周囲の瓦礫をフレームに吸着させて一時的かつ臨時の装甲代わりとして機能させれる。まあ関節部に入り込まん保証はないがの」
「じゃあやらないわよ。まだ私も魔力はそれなりにあるんだしそれ使って耐熱フィールド展開しておくわね」
炉心におる儂にはよくわからんのじゃが耐熱はちゃんと効いておる様子。まあ機内の冷房を全開で効かせなければ棺桶になりそうなのじゃが。
「うーむ、霊体となっておるのに暑いような気がするぞ。お主は大丈夫か?」
「まあ空調用の礼装は持ってたから良かったけど無かったら死んでるわねコレ。しかもそれも機体の冷房と併用して何とかって感じだし」
うむ。感覚を拡張してみたところ機体内部でさえ五百度をオーバー。流石に機関部でも無いのにこの温度は不味いと儂は炉心の魔力を冷却魔術を展開するために少々使用する。
「リリス、視界共有はまだ使えるか?」
「使えるけど私と繋げるよりもメインカメラと繋げるとか霊体でこっちに来ればいいじゃないの」
「そうは言うが、儂が抑えておらぬと炉心から自動的にアグネアへのチャージが進んでしまうからのう。使わぬ兵器にエネルギーを注いだところで無駄じゃよ」
仕方ないわねぇと言いながらリリスは儂の左目とヴィマナの左部メインカメラとリンクさせる。なるほど、あまりの暑さに周囲の風景が歪んで・・・いや、煙などでもかなり視界が遮られておるな。
「リリス、一旦カメラを切って貰ってよいか? 儂の脳内で情報を処理したものをそちらに投影するからの」
うむ、やはり儂の目で見たほうが間違いなく視界は良いじゃろうな。デミゴッドの処理能力はやはりそこらの物よりはるかに優れておるようじゃ。
「わかったわよ。って外は凄い事になってるわね。それにアンタの視界とかの処理能力どうなってるのよ。やっぱりデミゴッドって凄いのね・・・。いいや、この光景創り出してる教皇様もすごいんだけどね」
視界に映るは煌々たる炎。それは上空で翼を広げている火の鳥。おそらくは我らが教皇猊下が変異した姿であろう。
「うむ、儂でも殺すのにそこそこ苦労するじゃろうな。並みのデミゴッドならば互角以上に立ち回れるじゃろう。・・・すまぬ、カメラと儂の目の接続を切るぞ。そろそろ限界じゃ」
「それはいいけどさっきから言ってるそのカメラって何なの? 何を指しているのかはまあわかるけど、そんな単語聞いたことも無いわよ」
「ああ、儂もつい今しがた理解した概念での。どうも異世界にある機械でできた映写機の事を指すらしい。先程奔流に接続しておった時にちょうど異世界人の知識があったから利用させてもろうた」
リリスも興味ありげに耳を傾けておるようじゃ。うむ、教皇に指示を仰ごうにもヤツは上空を旋回して儂のことなぞ見向きもしておらぬ。ならば休憩がてら少々話しても構わぬか。機体の全機能を冷却と冷房に回し、それ以外の機能を最低限に。体制も直立から片膝立ちにしておくようにリリスに行った後話し始める。
「これに関してはグレースの奴の方が圧倒的に詳しいのじゃがな。あやつからの受け売りもそれなりに含まれるが構わぬか?」
「ええ、構わないわ。・・・そうね、早速質問だけどグレースがやってた別の時間から自分を呼ぶ技術ってあれは異世界から自分を持ってきてるの? それとも単純に違う時間軸?」
助かった。あまり長々説明しておる時間は無さそうじゃからな。




