聖都炎上マッチポンプ作戦2
前回のあらすじ。 グレースさんは強かった。
「さてと。そろそろグレースの方に行った方が良いかもしれませんね・・・」
一通り聖堂を焼き尽くす手筈を終え、良い感じに聖都のあちこちに炎の海が広がって来た頃。ひっそりと燃え盛る大聖堂から抜け出してきたクリスタは一人火に包まれる街並みを見ながら歩きだしていた。もうじきグレースに回収してもらいたいのだけれど。と言って感じで町を歩いていた彼女だったが、その肩を引いた人物がいた。
「まったく、どちらに行かれるのですか? 教皇様」
「ディアス、何故ここに?」
クリスタが振り向くとそこには困り顔で佇んでいるディアスがいた。彼女の纏っている服は所々煤がついており、肌にもそれが見えていた。随分と長い事避難誘導や人命救助などに勤しんでいたのだろう。
「いえ。やっぱりアホで人の心の無い主を一発どついておこうと皆の間を縫って戻って来たのです。それでは教皇様、一発キツイの噛まされてくださいませ」
そういって拳を固く握りしめ、クリスタの顔面目掛けてパンチを放とうとするディアスだったがクリスタからしたら殴られる理由が思いつかないのでひとまず制止することにした。
「ちょっ、ちょっと待ってください! 今それをやっている場合じゃあないでしょう!? それに貴女に殴られるようなことは、数個しかしていません!」
「具体的にあげてみてください」
一旦グーに握りしめたディアスは拳を解いてクリスタの前に掌を見せた。
「まずはそうですね。訳も話さずに聖都を焼くから避難誘導よろしくと言ってその辺りの諸々を全て押し付けたりしたからでしょうか」
「はい、それが一つ目です」
そう言ってディアスは指を一本折る。
「えーと。それに加えて警備に配置していた騎士を全員引き払わせたことも入りますかね」
「当然です。さっきから城門付近で感じるアホみたいな魔力は何なんですか。古代兵器でも手に入れたのですか? 何にせよ後でちゃんと説明してもらいますからね」
二つ目といってディアスは二本目の指を折った。
「他には何かありますかね・・・」
クリスタとしてはこれ以上怒られる理由が分からないらしい。本気で困惑しているのとそろそろグレースの元に行きエレノアに飛びたいのでいつまでもディアスの説教を聞いているわけにもいけないのだ。
「ええ。そもそもあなたはエレノアに向かったはずなのにいきなりトンボ返りしてきて軽く連絡だけして聖堂を爆破したじゃないですか。何か訳があることは理解できますが、流石に私にくらいは説明義務はあるのではないですか?」
「・・・。いや、私もうエレノアに戻らなきゃダメなので後で良いですか・・?」
ちょっと言い返す時間も余地も無いのでクリスタは逃げの一手を打つことにした。流石に今回の件に関してはその場のノリで作戦決めちゃったりと落ち度はそれなりにある上にグレースやルナの正体まで諸々バレそうなどと突かれれば突かれるほどボロが出そうなので戦略的撤退である。
「それならば私も同行しますよ?」
しかしそう簡単には許してくれるわけもなく、犯罪者拘束用の魔術を使ってクリスタの足を拘束していた。
「いや、私急いでるんですけど・・・」
「もう少し影武者に間を持たせればよいのでは無いのですか? どうせそういうところだけはしっかりとしているのでしょう?」
「い、いやぁまあそれはそうなんですけど・・・今ので思考共有切れちゃいまして」
さっきから部下が辛辣で少し悲しくなっているクリスタ。それに確かに影武者としてリリスを送って脳内でセリフの指示などをしていたが、ディアスに話しかけられて内心ビビった拍子に思考共有が乱れてしまい先程から繋ぎなおしに思考リソースを振りっぱなしのため、ディアス相手に上手い誤魔化しすら浮かんでこない。いつもならこのような事はあり得ないのだが、流石にデミゴッドや悪魔相手にするのと人間である部下たちにするのとでは手間のかかりようが違うのだ。
「・・・・・・はぁ。まあ、私は私でかなり無理を通して来ていますし今回は見逃しますよ」
「いいんですか?」
正直なところクリスタは当分の間は開放して貰えないだろうし、最悪ディアスも同行させるしかないと思っていたがかなりあっさりと開放してもらえそうな事実にびっくりしていた。
「で・す・が! 諸々終わったら必ず全部説明して頂きますからどうかそのおつもりで。よろしいですね?」
まあ、流石にそんなに甘々なわけがなかった。ですよねとクリスタは項垂れていたが、その間にディアスは猛スピードで駆けていった。避難こそ終わったらしいが今もなお聖都中央区画は炎上中なのでその消火活動などの手伝いなどに戻ったのだろう。
そしてそんなクリスタの状況を知らずにグレースは凄まじい大立ち回りを繰り広げていた。そう残りの西方面に陣取っていた一万人の部隊プラス援軍として送られて来た二万人の総勢三万VS一人だが、その一人が一騎当千を通り越して一騎当万の超存在ならば話は別であろう。
「よし、魔力放出を封印して純粋に身体能力縛りなら敵の武器を適当にとっかえひっかえすれば普通に継戦できるね」
などと言いつつも大体の敵は徒手空拳で粉砕している。まあ、とっかえひっかえするにも所詮鉄の武器ならば一発斬撃放ったりしたらそれで鉄くずになってしまう。まあ、斬撃無しで普通に降ってもどちらにしろ赤熱化してその内溶解してしまうのだが。
「はっ!セイッ! どりゃあ!」
息を吐きながら拳を突き出せばトマトのように肉体が弾け、その足で蹴りを繰りだせば乱雑に両断されていく。それを繰り返して数分間。
「ありゃりゃ。数千は殺したはずなんだけどまだ減らないか。でもせっかくいい感じに体もあったまって来たからもう少しこの調子で・・・」
と無双しながらごちていたグレースの脳内に
『いつまでやっているんですか? そろそろエレノアに行かないとマズいので一分以内に終わらせてください!』
と上司様からの指令が鳴った。流石にできるだけ速く終わらせろと言われていたのにこれは遊び過ぎたかとグレースは苦笑いしつつ反省し、さっさと終わらせるべく少しだけ本気を出すことにした。
「もう少し遊びたかったんだけどなぁ。まぁ、しょうがないか」
そう言ってグレースはパチンと指を鳴らして全部終わらせた。敵に対する有無を言わせぬ時間抹消。そのものが今後過ごすはずの時間を問答無用で消し飛ばすことにより即座にこの世から消し去る理不尽技である。一応それなりに魔力は持っていかれるのだが、まあ自分の時間を戻してやればある程度を消費を無効化できるため実質消費ゼロのようなものだ。ただし精神的な疲労はそのまま据え置きなのだが。
「さてと。じゃあクリスタの所に行こうかな」
数万の敵を屠りつつも一切の敵の痕跡を残さずにその場を立ち去るグレース。流石にクレーター作ったりしたのはマズいかなと思い苦笑いしているが、そろそろ一分経ってしまうので時間を止めてクリスタの元に急行するのであった。
「来ましたか! じゃあエレノア戻りますよ!」
場所は聖都郊外の裏路地。そこに隠れていたクリスタはグレースが現れて開口一番にそう言った。どうやら思考共有は回復しているようだが、想像以上にエレノアの二人がマズい事態になっているようだ。それを聞いてグレースは即座に空間転移を実行するのであった。ちなみにグレースとクリスタ間の思考共有は繋がっていたが特に共有するような情報も無かったためお互いに無視していた。だからこのようなぐだぐだ事態に陥っているのだがそれを言ってしまったらおしまいだと二人とも気づいているため何も言わないのであった。




